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【3話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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「高倉さん、いつ見ても素敵だよねぇ。彼女になりたいなぁ」
「なに言ってんの。加奈子は合コンで連絡先交換したでしょ。あの彼にしときなよ。高倉さんは私がもらうからさ」
「高倉さんの彼女になれるなら、あの人なんか即行振っちゃう。ていうかさ、弥生には絶対無理っしょ! 釣り合わない。ダメダメ」
 加奈子は失礼なことをきっぱりと言ってのけるから、弥生は口を尖らせて「加奈子だって無理だよ」などと呟いている。
 合コンで出会った彼らは一流企業のエリートばかりだったはずだ。見た目もそこそこによかったと記憶している。それでもふたりは健太の方がいいらしい。
 レベルが同じくらいのエリートならば、容姿が良い方がいいのだろう。性格の良い悪いはあまり関係ないらしい。
 まあ愛梨も、決して健太の性格が悪いとは思っていないのだけれど、見た目だけでお付き合いする人を決めるのはどうかと思っている。
「あ~、彼の補佐になりたいなぁ。そしたら誘うチャンスも増えるのに~」
 口を尖らせた加奈子が愛梨を恨めしそうに見るから、そそくさと席を立った。
 仕事上とはいえ、彼と話す機会の多い愛梨は彼女たちにとって邪魔な存在でしかないのだ。
 弱冠二十八歳にして営業主任となった健太は、上司の覚えもめでたい出世街道をまい進するデキる男なのだ。
 それに容姿の良さも相まって女子社員たちの憧れの的らしい。将来有望なため、結婚したい男性社員として名前を挙げる子も多いと聞く。
 しかし地味な愛梨では彼女たちのライバルには成りえないと、出勤一週間目にして真紀から恋愛戦力外通告を受けている。
『ま、園田さんなんて誰にも相手にされないだろうから、気にしても仕方ないわ』と。
 リーダー的存在の彼女に言われた後は、それまで感じていた同僚たちからの刺さるような視線がなくなったので、ありがたいことだった。
 けれど同僚たちからは、大事な用事があるから代わりに残りの仕事をやってほしいと、残業を押し付けられることが増えた。
 大事な用事とはデートだったり合コンだったりするのだけれど、退社後の予定がない愛梨は断ることもせずに仕事を引き受けているのだった。
 実はデスクの上にある書類のデータ化も同僚が愛梨に押し付けたものだったりする。
 ──高倉さんには、別の子の仕事だってバレバレだよね。
 書類をじっと見ていたし、なにか考えているふうにも見えた。けれど、言及することはなかったので、健太の命じる仕事をこなすのには差し支えないと判断したのだろう。
 もしかしたら彼は、常に仕事を押し付けられていることを勘づいているのかもしれない。
 だから、いつも申し訳なさそうに仕事を頼むのかな?
 そんな扱いをされている愛梨だから、先日の合コンに誘われたのが意外でもあった。まあ、真紀の引き立て役という立派な目的があったのだけれど。
 ふと思い立ってお手洗いに寄り、所用を済ませて手を洗うと自分の姿をまじまじと見つめた。
 鏡に映る姿は、紺色のリクルートスーツにメガネ。マスカラとリップを引いただけのナチュラルなメイクは、就職活動中の女学生のように真面目そのもの。
 二十五歳にして、このスタイルはないよなあ。まさに恋愛戦力外だ。自分でもそう思って苦笑する。
 けれども、ダサいと陰口をたたかれようと、愛梨は地味スタイルにしていて正解なのだ。
 今のところ結婚願望はないし、なにより彼を狙う女子社員たちから陰湿な嫌がらせを受けることもないのだから、日々平穏なのが一番である。
 人間関係に悩まされず、心静かに仕事ができる環境は快適だ。
 だから、このままでいい。
 ハンカチで手を拭くと、過去データの入ったディスクを探しに倉庫へと向かった。
 
  ◇◇◇
 
『株式会社メリー』国内事業アルコール飲料部、第一営業課主任。それが健太の肩書である。現在二十八歳で、恋人はいない。
 実家は酒屋の次男坊で、子どもの頃からアルコール飲料に囲まれて育ってきた。そのせいか、お酒が好きなのである。
 酒屋は兄が継いでいるため、健太は帰省することもなく新卒でメリーに就職したのだった。好きなお酒を扱う部署に配属されたこともあって意気揚々と仕事をしていたら、営業成績はトップを争うほどになり、気づけば昇進していたのだった。
 周囲はできる男と評価しているが、本人にその自覚はない。
 美味しいお酒を一人でも多くの人に味わってほしいという思いだけを胸にして、日々一生懸命営業をしているのだ。
 結果はその思いと地道な努力と行動の成果である。中には整った容姿を利用しているというやっかみもあるが、決して楽々と営業成績を上げているわけではない。
 先程営業補佐の園田愛梨に頼んだ仕事も営業に利用するためである。彼女はほかの女子社員と違って黙々と仕事をこなしてくれるから、正直当たりを引いたと思う。

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