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【25話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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「本当に、ごめん!」
 健太が両手を合わせて、ひたすら頭を下げている。
「何度も言いましたよね……? 高倉さんと一緒のお部屋で、大丈夫なんですから……あの、そんなに謝らないでください」
 飛行機が駄目ならば新幹線で帰ることを検討したのだが、新幹線はおろか在来線までもが運転見合わせとなってしまっていた。愛梨たちはどこにも移動できず、宿泊を余儀なくされている。
 明日が土曜で会社はお休み。出社時間を気にせずに済むのだけは運がよかった。
 とりあえず、ニュースでよく見るように空港で夜を明かすことを提案したが、健太が頑として首を縦に振らなかった。
『俺はともかく、園田さんは絶対駄目! 宿を探そう』
 急いで検索して近場の宿泊先を探したのだけれど、こんな事態ゆえにどこも満室だった。
 それでも懸命に探した結果、唯一見つかったのが駅から少し離れた場所にあるシティホテルのツインルームだった。
 当初健太は『じゃあ俺は空港で寝る』と言い張ったが、それには愛梨が承知しなかったのである。
『同じ部屋でも構わないです……あの、その、ベッドが二つあればいいので……』
 愛梨にしては大胆であり、とても勇気のいる決断ではあった。でも健太を空港のロビーで寝かせて、自分だけがあたたかいベッドで寝るわけにはいかないのだ。
 健太は誠実な人であり、思い人は愛梨ではなく紗耶香なのだから、同じ部屋で寝ていてもよこしまな心など抱かないはずだ。
 ──だから大丈夫だもの。
 とはいえ、恋をしている相手と同じ部屋で眠るのは緊張してしまう。特に愛梨の場合はなおさらに……。
「園田さんは、奥のベッドを使って。入口に近い方は俺が使うから」
「は、はいっ」
 自分の持ち物をベッドサイドにあるテーブルの上に置いたのはいいけれど、自分の身の置き所に迷ってしまう。
 ベッドに座るのもなんだか意識してしまうし、かといって一つしかない椅子に座るのも気が引ける。
 立ったままボンヤリしているのも変で……だから、なんとなくカーテンを開けてみた。
 窓にはメガネをかけた愛梨の顔と、コートを脱いだ健太の姿が映っている。
 ドキドキして落ち着かない愛梨とは反対に、冷静な様子の健太はクローゼットを開けたりして、アメニティのチェックをしている。
『俺の前では外しててもいいから。もちろん、ふたりきりのときだけ』
 以前彼はそう言ってくれた。
 ──メガネ、外そうかな。
 愛梨にとってメガネを外すという行為は、自らをさらけ出すのと同じ意味を持つ。自分を守っている仮面を取って見せるような、そんな感覚だ。
 でも今メガネを外せば、健太のことを信用しているというアピールになりそうな気がする。
 それに叶わない恋だとはいえ、彼には偽りのない自分を見てもらいたい。そんな思いが胸の奥底にずっとある。
 どのみちベッドに入るときには外して眠るのだから、いつそうしても同じことなのだ。
 愛梨はメガネを外して、静かにテーブルの上に置いた。
「園田さん、食事に行こうか。二階にあるレストランでいいかな? どうせなら地元料理が食べられる和食の方がいいか」
「和食、にしましょうか」
 そう言って振り返った愛梨を見た健太の表情が、柔らかい笑みに変わる。
「メガネ、外してくれたんだ」
「はい、今はふたりきりなので……」
 はにかみながら、以前に言われたことをそのまま口にすると、健太はいきなりくるっと回って、背中を向けてしまった。
 その背中が微妙に震えているような?
「あーマズイな……」
「はい? あ、やっぱり外さない方がよかったですか?」
「とんでもない! そのままでいいよ。マズイって言うのは、違うんだ。その、そう、腹の虫のことで……」
 慌てた様子の彼がちょっぴり滑稽で、愛梨はクスッと笑みを零した。そのせいか、少しだけ緊張がほぐれている。
「そうですよね。私もお腹空きました」
「じゃあ早く行こうか。案内見たら、和食屋では治部煮じぶにが食べられるみたいだから」
「──治部煮?」
 健太とともに食べたそれは、石川県の郷土料理であった。鴨肉に小麦粉をまぶして野菜と一緒に煮込んだものだと、メニューに説明書きされている。
 ふたりしてそれを注文して石川の地酒と一緒に舌鼓をうつ。
「おいしい!」
「やっぱり旅先では地元の名物を食べるのがいいね」
 互いにデパートの試飲会での様子を報告し合い、ほかにも海の幸などをいただいたふたりは、満足して和食屋から出た。
「私コンビニに寄っていきます。高倉さんは先に戻っていてください」
 予定外の宿泊になって準備していないものが多々あるため、コンビニで女子的なものを購入したいのだ。

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