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【23話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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「……園田さん、」
 俯く愛梨に呼びかける健太の声に重なるように、紗耶香の凛とした声が響いた。
「はい! これで今日のトライは終了です! みんなお疲れさま!」
 楽し気な空気が漂う室内を通常に戻すように紗耶香が終了を告げると、写真を撮っていた広報部はカメラを肩にかけ、「記事が出来上がったら知らせます」と言って部屋から出ていく。
 ほかのみんなは各々のお皿と箸の片付けに動いていた。
「高倉さんは、片付けに入って。料理は片付けるまでが料理なんだから」
 紗耶香は洗い物が山となっているシンクの方をビシッと指差す。
 それを見て健太は少しばかりげんなりした表情を見せた。
「洗い物は女子担当じゃないんだからね? 最後まで責任もってやってちょうだい」
 急に料理作りを依頼した割には容赦がない。
「……了解。園田さんは戻っていいよ」
 シンクの方に並んで歩いていくふたりの背中からは、気安い雰囲気が漂っている。
 それを見ている開発メンバーたちが小声でなにやら話しているのは、愛梨と同じように、ふたりの関係を詮索しているようだ。
 ──どう見たって、仲がいいもの。
 健太の言動で一喜一憂してばかり。あまりの感情の乱れ方に困惑し、本気でミュート機能を装備したくなってくる。
『園田さん、』
 健太はなにを言おうとしたのか。気になりながらも業務に戻ることにした。
 
 
 健太が料理をした様子は『作ってみた~エリート営業・高倉健太の巻~』と題して社報に載った。
 愛梨が感じたのと同じように「エプロン姿に萌える!」などと評判になり、料理男子としても注目を浴びるようになっていた。
「料理男子と言っても〝にわか〟ですから。からかわないでください」
 健太が苦笑交じりで受け答えているのは、営業部長だ。
 会議室で行われた営業会議で、プロジェクトの進み具合の報告とともに社報のことも話題になっている。
 愛梨はプロジェクトチームの一員として営業会議に参加している。けれど人前で話すことが苦手な愛梨に代わって健太がすべて行ってくれているので、なにも発言することなく席に座っていた。
 ──私、ここにいる必要がないような……?
 会議に参加してと健太に言われてきたものの、今日の会議は健太の補佐としてもメモをすることがない内容であるため、愛梨は話を聞いているだけなのだ。
「園田さんも食べたと聞いたんだが、どうだったね?」
 急に話を振られてあたふたしてしまう。
 幸運なことに社報には愛梨の姿は載ってなかったため、加奈子や弥生からのやきもちも受けずに済んでいたのに。
 ここで部長が口にしたことで周知されて、間もなく彼女たちにも知られてしまうだろう。それに、何故か営業たちの愛梨を見る目がキラッと光った気がした。
 まるでおもしろい物を見つけたかのような視線だ……。
「園田さんだけ、食べたんですか~。ずるいなあ」
「園田さんだけか~。高倉さん、やってくれますねぇ」
 揶揄するような笑みを含んだ声が飛んできて、一同がどっと笑う。その状況に困惑しながらも少し首を傾げた。
 愛梨は健太の補佐であり、一応プロジェクトチームのメンバーなのだ。営業部の中では愛梨だけが食べるのは十分あり得ること。だからどうしてみんなが笑っているのかが、分からない。
 そんな中で健太は反論することもなく、何故か照れ笑いをしている。
 部長からの質問でもあり、みんなが愛梨に注目している。黙ったままでいるわけにもいかず、しどろもどろになりながらも答えた。
「あの……はい。とてもおいしかったです。ワインにも合っていて、オリジナルレシピは上手く出来ていました。だから、みなさんにもオススメです。ぜひ作ってみてください」
 受け答えたことにより湧いていた場がなんとか静まって、愛梨はホッと胸をなでおろした。
 その後間もなく会議は終わり、健太は部長に呼ばれて会議室内に残った。
 しばらくして出てきた彼が口にしたのは、来週の金曜日に出張に行くことになったということだった。ついで話されたことに愛梨は仰天する。
「その出張には、園田さんも一緒に行くんだ。場所は北陸だよ」
「はあ……北陸、ですか」
 宿泊はしないということだが、すぐさま加奈子と弥生のびっくり目が思い浮かんだ。
 愛梨の懸念した通り、翌日には味見の件も含めた質問攻めにあったのだった。

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