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【21話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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 胸の部分には人気のあるゆるキャラが描かれていて、カッコイイというよりも可愛いデザインだ。
 日頃から洗練されたデザインを好んで身に着けている彼には、少々珍しいチョイスと言える。
 でもこれが、ギャップ萌えなのだ。
 背が高くて爽やかな雰囲気とミスマッチながらも、少しはにかんだ彼の表情には少年っぽさが漂っていて、ほのぼのタイプのゆるキャラが実によく似合っている。
 イケメンにはなんでも着こなせる能力が宿っているのだ。
 そんな彼の隣には、ピンクの花柄エプロンを着けた紗耶香の姿がある。
 アイコンタクトを交わしているのも仲良さげで、コンロの上にある鍋の中を一緒に覗き込む姿も、まったくぎこちなくない。
 どこにいてもこのふたりの間の距離は、物理的にも精神的にも近く見えてしまう。まるでキッチンに立つ新婚のような……。
 ──やっぱり……敵わないみたい……。
 健太のエプロンは紗耶香が選んだものかもしれない。おそらくそれほどの仲なのだ。一緒に買いに行ったのだろうか。そんなことを想像すると、ますます気持ちがへこんできて思わず大きく嘆息した。
 ──SNSみたいに、恋心にもミュート機能が装備できたらいいのに。
 この僅かな間に起こった気持ちの浮き沈みの激しさに、自分でも辟易してしまうがどうにもできない。
 実験室に入ってからしばらく経つが、健太は愛梨が来たことに気づかないようだ。開発メンバーも紗耶香も愛梨に気を留めない。
 このままだとずっと気づかれそうにないので、声をかけることにした。
「高倉さん、メモを見て来たんですけど……?」
 おずおずと声を出したのとほぼ同時に、オーブンから「ビビッビビッ」と調理終了を告げる電子音が鳴った。
「高倉さん、できたみたいよ!」
 笑みの混じった声を出す紗耶香と同じくそちらに一瞬目を向けた健太だけれど、すぐに愛梨の方を向いてにこりと笑った。
「園田さん、忙しい時に来てもらってゴメン。でも、ナイスタイミングだよ。ちょうど出来上がりだ。焦げてないことを祈ってくれ」
 そう言って健太は速足でオーブンまで行く。そして慎重に蓋を開けると、肉の焼けたようないいにおいがふんわりと漂ってきた。
 健太の周りには紗耶香をはじめとする開発メンバーが群がっていて、愛梨は近づくことができない。人の壁の向こうにある健太の手元も見えず、オーブンからなにを取り出したのか分からない。
「わあ、高倉さん。おいしそうにできましたね!」
「さすが高倉さんです~。なんでもできるんですね~」
 紗耶香と開発メンバーの一人が感心したような声を出すと、まわりのみんなも沸き立ち、「すごい」とか「おいしそう」など、口々に言ってはしゃいでいる。
 その中に、ときおりカメラのシャッター音も混じった。
 イマイチ状況が掴めずにきょとんとするばかりの愛梨に、少し照れた表情の健太が手招きをしてきた。
「園田さんもこっちに来て」
 言われるまま近づいていくと、開発メンバーたちが少し移動して愛梨のために場所を開けてくれた。
 調理台の上に置かれたオーブン皿には、ジュウジュウとおいしそうな音を立てる肉の塊があった。こんがりと良い焼き色がついていて、周りに置かれているニンジンやジャガイモなどの野菜も肉汁を吸っていい塩梅あんばいに焼けている。
「おいしそう……」
 思わず口から零れた言葉に、健太がすかさず反応した。
「ありがとう。これ、プロジェクトのレシピを見て作ってみたんだ。園田さんにも味見してほしいと思って……」
 そう言いながら健太は肉に包丁を入れた。中に閉じ込められていた肉汁がじゅわ~っとしみ出て、一同から言葉にならない声が出ていっそう沸き立つ。
「あまり料理をしたことがない人でも、レシピを見れば同じように作れるのか。それが、今回の実験のテーマだったの。その点彼はぴったりの人材だったから、協力してもらったわ」
 紗耶香がはきはきと話す傍らで、健太が肉を切り分けている。
「実はこんなに本格的な料理を作るのは初めてなんだ。これでも独り暮らしだから、ラーメンやチャーハンくらいなら作れるんだけど」
 そう言う頬が心なしか赤い。レアなエプロン姿でそんな表情をされたら、愛梨の胸はきゅんきゅんと鳴ってしまう。

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