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【2話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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 甘えられた森永はまんざらでもない様子で、優しいと言われた真紀は嬉しそうに笑っている。
 すぐに愛梨の肩から手を離した真紀は森永に向き直った。
「だって、弱い子を守るのは当然ですから~。あ、森永さん。こちらの料理は取りにくいでしょう? 取りますから、お皿かしてください~」
 真紀は自分の手前にある料理を盛りつけながら、森永に新しい話題を振っている。
 彼女はとても積極的だ。普段の合コンでもこんなふうに男性に接しているのだろうか。
 でも、笑顔も話し方も服装も会社で見かける雰囲気と違っていて、なんとなく彼女がこの合コンに力を入れているような気もする。
 地味な愛梨の隣に座っていることを鑑みると、やはり人数合わせでなく自分の引き立て役として呼ばれたのかな、などと思う。
 こうなればもう割り切って好きなお酒を楽しむしかない。
 同僚たちの楽しそうな様子を感じながらひたすらお酒を消費し、合コンが終わるまでの時を過ごしたのだった。
 
 
 週明けのオフィスでは、女子社員たちが先日の合コンの話をしていた。お団子ヘアの加奈子かなことショートボブの弥生やよいだ。
 ふたりとも声を潜めているけれど、デスクが真向かいにあるため自然と愛梨の耳にも届いてくる。
 連絡先の交換をしたという加奈子と、話は盛り上がったけれどいまいち好みじゃなかったという弥生。成果はそれぞれのようだ。
 結局愛梨が合コンで交わした会話は『大人しいね?』と言われた、あの一度のみで、話をしたとはとても言えない状況。言葉として発したのはお開きになった時の、『お金いくら払えばいいですか?』だけだったのだ。
 だから加奈子と弥生は愛梨に話を振ってくることはない。
 ──もう誘われないといいな。
 そうなれば、気になるのは合コン幹事を担うことが多い真紀の成果だが、みんなの話題には上っていない。店を出た際、森永に連絡先を聞いていたのを見たが、その後どうなったかは知らない。
 真紀に恋人ができたらきっと誘われることもない。森永とうまくいけばいいなと思いながら、パソコンモニターに向かう。
 デスクに山と積まれた書類を黙々とデータ化していると、背後に誰かが立っているのを感じた。途端に真向かいにいる加奈子の目がきらきらと輝いて、その隣にいる弥生も嬉しそうな表情になっている。
 愛梨は苦笑いしそうになるのをこっそり堪えて、作業をする手を止めた。このオフィスフロアで女子社員にこんな表情をさせるのは、ただ一人だけだ。
「園田さん、ちょっといい?」
 案の定、爽やかな美声が上から降ってきた。
「はい。なんでしょうか?」
 振り向くと、そこに立っているのは営業部の高倉たかくら健太けんただった。百八十はあろうかと思われる身長の彼を、椅子に座ったまま見上げるのは結構きつい。
 立ち上がろうとする愛梨を制して、健太はデスクにポンと手を置いて視線を下げてくれる。途端に彼のつけているコロンの香りが鼻をくすぐった。ほのかに香る爽やかな香りは嫌いではない。
 愛梨と目が合うと、形のいい唇がカーブを描いた。サラサラの前髪にアーモンド形の目、すっきりシャープな顔のラインはモデルでも十分に活躍できそうな容姿である。ふたりの目が輝くのも無理はないのだ。
 外回りが多い彼は同じフロアにいても滅多に会えないし、営業補佐でなければ接触もない。そういうことから、姿を見れば余計にときめくのに違いない。
「データ化の作業中にゴメン。急ぎなんだけど、いいかな」
 愛梨は健太の営業補佐だ。彼に仕事を頼まれれば、そちらを優先するのが当然である。にもかかわらず、毎回健太はすまなそうに仕事を振ってくるのだ。
 優しい性格なのか、それとも愛梨の作業処理能力を測りかねているのか、どちらだろうか。彼の営業補佐となって一ヶ月という状況ならば、後者かもしれないが……。
 愛梨の作業能力は上中下で言えば、普通のOLが中なところ上の下くらいだ。前職でも仕事の速さとミスの無さには一定の評価を貰っていた。今現在デスクに積まれた書類は多いが、このまま作業を続ければ明日の昼には終わる量だ。
「データ化は水曜までなので余裕あります」
 健太は愛梨のデスクに積まれた書類の量に目を向けた後、少しの間を置いてから口を開いた。
「それなら、俺が担当してる店舗の売り上げを拾い上げてグラフにしてほしい。店舗別で、三年間の月別にして」
「種類も分けますか?」
「できるならそうしてほしい」
 できますと答えると、健太は明日まででいいからと言い残して外回りに出掛ける準備を始めた。その姿を加奈子はじっと見つめてほうっとため息をついている。

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