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【18話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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「料理の資料は、園田さんが提供してくれたんだ」
 健太が愛梨を示した瞬間、紗耶香は驚いたように目を見開いて彼を見つめた。ついで観察するような視線を愛梨に向ける。
「……彼女が?」
「そう。写真だけじゃなく、料理の具材も味も、事細かに記録してくれていたんだ。参考資料のレシピ集を作成したのも彼女だよ」
「お酒に合っていてとても美味しかったのを記録していましたから……」
 紗耶香の眼差しは、愛梨の体の内側までも見通すような強さがある。
 その無言の攻撃ともいえる視線が居たたまれなくて、愛梨はぎこちない笑顔を向けたあとに、そっと目を逸らした。
 ──彼の近くにいる私が気にいらないみたい。でも、そんなに睨まなくても……。
 今まで健太は補佐を遠ざけていた。
 それなのに愛梨に対しては普通の同僚として接している。おそらく彼女にとっては異質な存在に思えているのだろう。
 同僚としてだけでなく、女性としても値踏みしているような気さえする。
「それは、すごいわね。趣味や記念のために写真を撮る人は多いけど、素材までメモをする人はなかなかいないもの。大いに参考にさせてもらうわ」
「はい、お役に立ててもらえれば嬉しいです」
 健太との食事は仕事の一環だと思っていた愛梨にとって、写真もメモも当然の作業だった。より見栄えよく撮ろうと頑張ったのも「もしも自分がSNSに投稿するなら」と考えての行動だったのだ。
 そんな愛梨だけれども、実際の心のうちには『彼の役に立ちたい』という思いが半分以上を占めていたのは、誰にも言えないことである。
「さあ、これから先は私たち商品開発部の腕の見せどころね! SNS女子の気を引くものにしてみせるわ」
「北上さんは料理も得意だろ? だから中心になってやってほしい」
「ええ、まかせて!」
 笑いあうふたりの間に漂う空気は、ただの同僚ではないなにかを感じさせる。
 ──彼女が料理できることを知ってるなんて、やっぱり噂通りの関係なの?
 それでも彼女を食事に誘わなかったのは、業務とプライベートをしっかり分けるためだろうか。
 仕事のための食事は、恋人との甘いひとときを過ごすそれとは違うのだから。
 そう、愛梨が食事に誘われているのは、恋に発展する要素がないためだ。最初にそう言われたし、それを了承して健太に付き合ったのだ。
 会議室を片付けた愛梨はレシピの話をする二人を残して、静かに場を離れた。
 
 
 プロジェクトに加わっている健太と愛梨は以前にも増して忙しくなった。
 特に健太はプロジェクトリーダーであるうえに通常の営業もあるため、多忙を極めているのだ。
 愛梨は毎日のスケジュール調整に神経を使い、彼の代わりに店舗を回ったり企業に使いに行ったりと、最大限に彼のサポートをしている。
 今日は健太との外回りのとき、最初に訪れた店舗に来た。
 そう、彼にハートの視線を送っていた若い女性店長のいるお店である。
「ねえ……園田さんが来るのは、繁忙期だけじゃなかったの~?」
 訪れたのは愛梨だけと知るや否や唇を尖らせ、ちょっと不機嫌な声を出す前野店長に愛梨は苦笑いを返した。
「すみません。高倉は現在多忙なんです。その代わりと言ってはなんですが、高倉が書いたポップをお持ちしましたので……」
 可愛い形に切り抜かれた色紙に色とりどりのペンで書かれたポップは、彼が仕事の合間を縫って書いたものだ。
 愛梨が『私が書きましょうか?』と尋ねたら、健太は拒否した。
『店舗管理は手抜きしたくないんだ。それに前野店長には〝書く〟と約束してあるから』
 そう言って一枚一枚丁寧に、健太らしい綺麗な文字で。
 だからこれで許してほしい。そんな思いを込めながら差し出した。
 手書きポップを受け取った前野店長は「可愛い~」と言って笑みを浮かべる。
「高倉さんって男性なのに、可愛いデザインでポップ作るのよね~。言葉選びのセンスいいし目立つから、男性だけでなく女性も手に取る率が高いの。だから売り上げ倍増!」
「お役に立てて幸いです。高倉にも伝えておきます」
 優秀な人は、なにをしても成果を上げるのだ。だからきっとレシピプロジェクトも成功するのだろう。
「私、ポップ付けるの手伝います」
「はぁ~……でもポップだけかぁ。正直、本人がいいんだけどな~」
 ポップに書かれた商品のある棚に移動しながら、前野店長はなおもぼやく。
「素敵な男性見るとさ、体に活力が漲るじゃない? 高倉さんが来た後は、次に会えるまで、それまでは絶対にお店の経営を頑張ろうって、前向きになれるのにな~」
 そう言って愛梨の顔をちらりと睨む。
 でもそれは紗耶香のような鋭さはなく、笑顔交じりの、どちらかといえばジョークで向けられた視線に思えた。

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