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【17話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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 健太の補佐として愛梨もプロジェクトメンバーに加わっているので、今日の午後は会議に参加することになっていた。
 チームには営業部のほかに、商品開発部と広報部からも選抜されたメンバーが加わる。会議室にはその面々がすでに集まっていた。
 会議の資料が配られ、健太がプロジェクターを使用して説明を始めた。
 愛梨の撮った資料写真をもとにして、オリジナルレシピを開発するのだ。そしてそれを商品につけて売り、『作った』と飲料と一緒にSNSに投稿されるのを目的とする。
 プロジェクターには愛梨が撮った料理の画像が映し出される。
 愛梨はそれを見ながら行ったお店のことや、健太と話したことなどを懐かしく思い出していた。
 最後にメキシコ料理の写真が出されて、思わず微笑んだ。あの日前職であったことを打ち明けてから健太との距離が近くなった気がするのだ。
 ──でも、私の片思いなんだよね……。
「思わず写真を撮りたくなるような、SNS映えする料理レシピを作りましょう。SNSに投稿されれば、それが自然に宣伝となり売り上げも伸びます」
 健太が説明を終えると、商品開発部の方から「すみません。発言よろしいですか?」と張りのある女性の声が響いた。
「はい、どうぞ」
 健太が意見を述べるように仕草で示すと、女性は「着眼点がよくて、大変いいアイデアだと思います」と前置きをしてから発言をする。
「こういうのは初速が大事だと思うのですが、レシピを開発してつけるだけでは、二割の売り上げ増は難しいのではないですか? なにか付加価値がなければ、消費者は飛びつきません」
「作ったとして、SNSに投稿する人がどれだけいるか分からないし。レシピで作った人が必ず投稿したくなるようなものがないと」
 会議では様々な意見が飛び交い、最終的に付加価値として、広報部が主体で『SNS写真コンテスト』を開催することになり、二時間半に及んだ会議は終了した。
 資料やプロジェクターなどを健太と一緒に片付けていると、「高倉さん」と声がかけられた。
 振り向くと最初に意見を述べた女性が微笑んでいた。
「お疲れさま。いい会議だったわ。さすが高倉さんね」
「北上さんこそ、的確な意見を言ってくれて助かったよ。目標の二割増が具体的に見える数字になりそうだ。ありがとう」
 ──え、もしかして……この人が、北上紗耶香さん?
 会議中にはたしかに〝北上〟という名前は出ていた。けれども愛梨はメンバーから出される意見を追うのに必死で、この女性が噂の紗耶香だと気づいていなかった。
 紗耶香はサラサラのストレートヘアに理知的な瞳が印象的な人だ。
 ヒールを履いているとはいえ、一七十センチほどある身長は女性にしては高く、一八十センチ近くある彼の横に並んでも見劣りしない。スマートな肢体に小顔で、とても綺麗な人だ。
 ──モデルみたい……。
 それに比べて愛梨の身長は一六十センチほどしかない。
 大きく育った胸ときゅっとくびれたウェストは、年上の人から〝男好きする体型〟だとよく言われた。胸が小さい女性からは、『ビキニが似合う体型でいいな~』などとうらやましがられたこともある。
 でもこのスタイルのおかげで前職ではセクハラを受けてしまったのだし、愛梨にとっては胸の大きさは自慢ではない。
 被害を訴えに行った人事で言われたのは、『もっと胸が目立たない格好をしたほうがいい』だった。
 強調するような服装を好んで着ていたわけではない。同年代の子と同じものなのだ。なのに、愛梨は『男性を誘っている服装』と言われたのだった。
 そんなこと言われたら、真面目に見えるリクルートスーツを着るしかない。
 だから、紗耶香のようなスレンダーなモデル体型に憧れるのだ。
 彼女の会議での発言はハキハキしていて要領がよく、とても仕事がデキる女性だと思っていた。
 賢さも美しさも、加えて物怖じしないところも、愛梨にはない部分をたくさん持っている。ランチの時にみんなが言っていた通り──すごく魅力的な人……。
 ふたりの様子を見ていると本当に親しげだ。ほかの子には一歩引いて接する健太も、彼女に対してはごく自然に受け答えしている。
 紗耶香は笑顔で話すけれど、同僚たちのように上目遣いに見つめたり、媚びたりすることがないから態度に厭味がない。対等に健太と会話できる若い女性は、社内では彼女だけかもしれないと思えた。
 それは健太に好かれることはあっても、嫌われる心配をしていないからだろう。
 ふたりの距離の短さを間近に見て、さらに女性としては抗うことのできない敗北感に、愛梨は苛まれていた。

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