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【16話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

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五章 恋のライバルたち
 
「なんかさあ、園田さん雰囲気変わったよね?」
 お昼時の社員食堂で、突然加奈子がそう言った。
「言われてみればそうだね。なんか明るくなった」
「そうそう。入ってきたころは、うつむきがちで背筋も丸くてさ。暗くてすっごい地味だったのにね」
 弥生をはじめ、一緒にテーブルを囲む子たちから同意の声が出て、愛梨は目をぱちくりとさせた。
「男性なんて興味ないですって感じだったのに。服はいつものリクスーでメガネっ子なのに、なんかすごくかわいく見える。なんで?」
「メイク変えたの?」
「なんでと言われましても?」
 いつもと同じデザインの服に、同じメイクをして通勤しているから、答えに困って首をひねった。
 みんなが愛梨をじっと見つめる中、加奈子が慎重な様子で口を開いた。
「ひょっとして彼氏できた?」
「え、そんなことないですっ」
 慌ててぶんぶんと手を振って否定すると「だよねぇ」という、納得したような、安心したような声があがった。
「じゃあ好きな人ができたとか?」
「え、それは、あの……」
 ふと健太の顔が頭に浮かんで、ぽわっと頬が熱くなった。
「うわ、園田さんおもしろい。ウソつけないんだね!」
「園田さんの好きな人って、まさか、高倉さんじゃないよね!?」
 愛梨を見る八つの目がきらきらと輝いている。片思いとはいえ、みんな恋愛の話が好きなのだ。
 ここで違うと否定したらいい。健太に迷惑をかけることもないから。
 でもそうしたくなくて、なにも言えないでいるとみんなはため息を吐いた。
 普段の加奈子と弥生の態度から察するに非難されるかと思いきや、二人を含むみんなの反応は違っていた。
「よりによって、難攻不落の彼を好きになるなんて」
「まあ高倉さんの営業に同行していたら、仕方ないよ。惚れない方がおかしい」
「でも、これでまたひとり犠牲者がでるのね」
「高倉山はエベレストよりもはるかに高いんだから、彼を征服しようなんて、園田さんには無理。まあこのメンバーの誰でも至難の業なんだけどさ」
 高嶺の花を好きになってしまって、心底からお気の毒……という感じだ。
「そうだなぁ、高倉山にさくさく登れる女子といったら、今んとこひとりしか思い浮かばないわ」
 弥生がぽつりと言うと、みんなが大きく首を縦に振った。その〝唯一の女子〟が、誰のことなのかわかるみたいだ。
「彼女、たまに高倉さんと親しそうに話してるよね」
「そうそう、この間廊下で話してるとこ見たわ。北上きたがみさん、嬉しそうに笑ってた。それで高倉さんもまんざらでもないみたいで、嬉しそうな顔してた!」
「年齢も同じ年らしいし、結婚もあり得るんじゃない? 高倉さんなら、能力も性格も申し分ないしさ。誰だってお婿さんにきてほしいって思うもの。私だってそう!」
 加奈子が嘆くように言うと、愛梨の隣にいる子がなにかを思い出したように、テーブルをパシッと叩いた。
「あ! 私北上専務に話しかけられてるとこ見たことある! ひょっとしてもう親公認なんじゃない?」
「ええ~!! やっぱり~?」
 ショックを受けたような声が方々からあがって、テーブルにばったり伏す子もいる。
 みんな想定内のこととはいえ、現実に仲がいいと知るとすごくがっかりするのだ。それも結婚するかもしれないとなれば、なおさらに。
 健太にそんな噂に上る相手がいるなんて、愛梨もショックを隠し切れない。
「あの、北上さんって、誰なんですか?」
「商品開発部にいる北上紗耶香さやかさんのこと。才色兼備で、専務のお嬢さまだよ。そのうち姿を見ることあるんじゃないかな」
「専務のお嬢さま……」
 健太が恋愛に関しての噂が立つのを嫌がる理由は、本命の彼女に誤解されたくないから?
 悶々と思考に嵌っている愛梨の傍らで、加奈子たちは別の話題に移っている。真紀が森永といい感じで付き合っているとか、もう合コンは企画してくれないとか。
 嘆きと羨望と共感と。悲喜交々ひきこもごもに駄弁る同僚たちの声を聞きながら、愛梨は心の中で彼女の名を呟いた。
 ──北上紗耶香さん……。
 その名をしっかり胸に刻んだ。
 
 
 オフィスでは、健太の提案するレシピプロジェクトが始まろうとしている。
 ホテル、レストラン、旅館など、業務用に卸されることが多いメリーのアルコール飲料が一般家庭向けに商品展開を始めたのは、僅か五年ほど前のことだ。
 まだまだ世間の認知度は低く、社内全体の売り上げとしては業務用のアルコール飲料が八割を占める。これをプロジェクトの始動によって、一般向けの売り上げを二割上げるのが目標だ。
 二割とはいえ、社内全体の売り上げからすれば、かなり高い目標になる。

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