• HOME
  • 毎日無料
  • 【13話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

【13話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

作品詳細

四章 恋愛温度、異常上昇!?
 
 健太と定期的なお食事をする約束をしてからひと月あまりが経ち、季節は急速に秋の気配を深めている。
 夜にもなれば吹く風が冷たく、そろそろコートが必要になってきた。
 ──初めて北欧料理を食べに行ったのは、まだ汗ばむ気温だったのに。
 M駅の傍にあるショップのウィンドウにはすでに真冬の装いがディスプレイされている。バックには雪の結晶をイメージしたイルミネーションも飾られていて、クリスマスの気配さえ感じさせた。
 クリスマスはいつもおひとりさまの愛梨には、毎年予定もなにもないのだけれど、なんとなく心が浮き立ってくる。
 ショップに吸い込まれていく女子たちを横目に見ながら、愛梨は噴水前に向かった。
 この噴水前に立つのは何回目だろうか。
 彼を待っている間のドキドキは一度目よりは薄れたけれども、それでもそわそわと落ち着かない気持ちになる。
 〝ごめん、待った?〟って、訊かれる瞬間の表情に胸がときめいてしまうのだ。
 毎度待つのは愛梨で、健太はいつも待っているのを気遣ってくれる。それほど時間差がなく来てくれるのに、それでも彼は謝罪の言葉を口にするのだ。
 ふたりがレシピ勉強のためのお食事を繰り返していることは、未だ同僚たちにバレていない。
 必ず週に一度……多い時は週に三度も健太とお食事をしている。毎回違うお店に行ってお料理の写真を撮って食べ、お酒を飲んで会話をする。
 まるで秘密の社内恋愛をしているみたいだけれど、そんな気配になるようなことは微塵もない。
 健太はとても誠実な人だ。
 お食事が済んでお店を出たら、健太は必ず愛梨を家まで送り届けてくれる。そして送りオオカミになることなく、爽やかに「じゃ、また」と言って去っていくのだ。
 最近では、その背中を見送りながら、少し残念な気持ちになってしまう自分に気づいている。
 男性が苦手なはずなのに……資料集めとはいえ、プライベートとも言える時間に会っているうちに、いつの間にか彼は愛梨の心の中にするりと入り込んでいた。
 ──でも、私なんてダメだよね。
 相変わらずのビジネス然としたスタイルで女子力の欠片もない愛梨では、健太の恋のお相手には成りえないのだ。
 かといって綺麗な色の服を身に着けて仕事をするのは、今の愛梨には考えられないことで、このままでいるしかない。
 ため息を零して俯いていると、視界に男性の革靴がついっと入り込んだ。誰のものか気づけば、気持ちが沈んで冷えていた胸がふわりとあたたかくなる。
「園田さん。ごめん、待った?」
 声を聴くだけで自然と顔がほころんでしまう。なんて単純なのだろう。
「いえ、私もさっき、ここにきたとこですから」
 そう言いながら視線をあげると健太が微笑んでいた。
 仕事をしているときとはまるで違うリラックスした表情に、愛梨は心を和ませる。先に来て待っているのは、この笑顔が見たいから。
 営業と補佐であり、お食事のパートナー。こんなふうに適度な距離を保っているのが愛梨には合っている。これ以上親しくなれるのを望んだらいけない。
「今日は少し冷えるね」
「はい、もう冬が近いなって、思いますよね」
 つい先ほど見たウィンドウが頭に浮かんで、気が早いことに愛梨の頭の中はクリスマスに染まりかけている。
 紅葉している街路樹も今が盛り、もうしばらくすれば落葉するだろう。そうすれば一気にクリスマスムードが強まるのだ。
 愛梨が冷たい空気で冷えてしまった手をこすり合わせると、不意に指先がぬくもりに包まれた。
 健太の手のひらが愛梨の指先をそっと握っている。
 ──え……。
「冷たい……今日はしっかりと温めた方がいいな」
 健太の手はカイロのように温かくて、熱が体までじんわりと広がっていくかのよう。というよりも、健太に触れられたことで愛梨の体が発熱しているようだった。
 頬も体も心までも、すべてが熱を持っている。
 ──ただ指を触られているだけなのに。
「あ、ありがとうございます。温まりましたので」
 お礼を言って手を引っ込めようとすると、逆にぎゅっと握られて、しかもそのまま歩きだしてしまった。
 これではまるで恋人同士だ……。
 手を引き抜こうと試みるもしっかり握られているのでどうにもできない。
 まごまごしながらもついていくと、すすすとスマートに引き寄せられて、愛梨は自然に彼とくっついて歩くことになった。
「人が多いから、はぐれないようにしないとね」
 いつもはすぐにタクシーに乗るのだけれど、今日はこの近くのお店だから歩いて行くと健太は言う。
 たしかに駅前の歩道は人の通りが多くて、まっすぐ進むと人とぶつかりそうになる。
 健太にうまく誘導されて歩きながらも、どうにもつながれた手を意識してしまう。
 でもそれが嫌ではなくて、それどころか……。
 ──高倉さんだから、いいのかな。
 ほかの男性では、こんな気持ちにはならない。彼限定なのだ。
 健太の話に相づちを打ちつつ、身も心も火照らせていた。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。