【1話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

作品詳細

 
一章 恋愛戦力外女子
 
 ──早く帰りたいな……。
 夕食を楽しむ客たちで賑わう週末のレストランの中で、園田そのだ愛梨あいりはお酒をチビリと飲み、そっとため息を零した。
 面前にあるテーブルにはグリルチキンやサラダなど、おつまみ系の料理が彩りよく盛られたお皿と、お洒落なカクテルのグラスが並んでいる。
 お酒は飲めない方ではない。むしろ好きな方で、家でも簡単なおつまみを作って飲むことが多い。勤めているところもアルコール飲料のメーカーである。新卒で入った会社を辞めて、好きなものを扱う会社に再就職できたのはとても幸運なことだった。
 その好きなはずのお酒が楽しめないのは、この場の雰囲気のせいだ。
 同席しているのは同世代の男女数人。みんな楽し気にお話ししているけれど、愛梨はたまにおつまみに手を伸ばす程度で会話に加わることができない。
 女性は愛梨の同僚たち。お洒落な服を着て、美しい笑顔を浮かべて愛想よくしている。
 対する男性たちは一流企業に勤めるエリートな人たちらしく、しわのないスーツをビシッと着こなしており、見た目も高レベルな人たちだ。
 いわゆる合コン。お互いにほんの数十分前に自己紹介をしたばかりの面々で、同僚たちは男性の品定めをしている最中なのだろう。たまに隣同士でひそひそと話をしているのが分かる。
 そんな中で愛梨は、どうやったらこの場を抜けて早く帰れるかと、そればかりを考えていた。
 大人しくて引っ込み思案なうえに、とあることがきっかけで男性が苦手になった愛梨にとっては、合コンは億劫なイベントでしかない。
 普段から誘われることは滅多にないのだけれど、今回はランチタイム時に社員食堂で突然声をかけられたのだった。
「メンバーが足りなくなったから、あなた来て。どうせ暇なんでしょ?」と。
 相手は女子社員の中でも、リーダー的な存在の飯塚いいづか真紀まきだった。
 とても押しが強い人で、愛梨の知っている範囲内では彼女に逆らっている女子社員など見たことがない。実際に、彼女には逆らわない方がいいと忠告されてもいる。
 それゆえにひと月ほど前に中途入社したばかりの愛梨には断ることができず、そのまま強引に約束させられたのだった。
 けれどいざ来てみれば、男性は四人で女性は五人。人数は愛梨がいなくても十分足りているようだった。
 男性側はひとり都合がつかずに来られなくなったと、男性幹事が最初に謝っていたのだけれど。
 ──だからって、即行で帰るわけにもいかないよね。
 今日愛梨が誘われたのは、メンバーが足りなくなった理由のほかに、みんなの引き立て役になれる最適な人材ということもあると思うのだ。
 いつも真黒な髪をひとつに束ねて銀縁メガネをかけ、メイクは極薄めにしている。おまけに今日の服装はグレーのリクルートスーツという合コンらしからぬ姿である。
 綺麗な色の服を着た華やかな同僚たちに比べ、地味を絵に描いたような容姿では男性の興味を引くはずもなく、しかも人数が合わないとなれば余計に半端もので、ひとりだけ蚊帳の外にいる状態だ。
 ──こっそり帰っちゃダメかな?
 おりしも席は通路側の端だ。こんな様子ならば、トイレに行くふりをして帰ることができるんじゃないか。
 けれどいくら空気のような存在であっても、勝手に帰ったらみんなが愛梨を探してしまって、迷惑をかけることもある。それならば「先に帰る」と告げれば問題ないとも思うけれど、せっかくの楽しい場の雰囲気を壊してしまいかねない。
 ──やっぱり、最後までいなきゃダメだよね……。
 結局どうすることもできずにそっと肩を落とし、なるべく男性たちの視界に入らないよう、身を小さくして静かに過ごすことにした。
「きみ、園田さんだっけ。大人しいね?」
「へ?」
 不意に声をかけられて驚いた愛梨は、びくりと肩を揺らして顔を上げた。
 テーブル越しに笑顔を向けてくるのは、男性メンバーの中で一番年上だと言っていた人だった。目鼻立ちの整った顔は爽やか系で、そこそこの美形さんである。
 話しかけられるなんて思っておらず、しかも「大人しいね」と言われてどう返答すればいいのか分からない。
「え、あ、あの」
 口から零れるのは言葉にならない声ばかり。あたふたしてなにも言えないで困っていると、隣に座っている真紀が愛梨の肩をぎゅっと抱いた。
「ダメですよ~。この子純情なんですから、あんまり困らせないであげてください。それに……森永もりながさんのお相手をしてるのは私でしょう?」
 最後の台詞を甘えるような口調で言う真紀に、森永は一瞬きょとんとした様子だったがすぐに元の笑顔に戻った。
「ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。でも、飯塚さんは優しいんだね」

作品詳細

関連記事

  1. 【7話】国王陛下の寵愛蜜戯~獰猛な独占欲~

  2. 【4話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

  3. 【5話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  4. 【7話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

  5. 【3話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

  6. 【2話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

  7. 【7話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

  8. 【9話】国王陛下の寵愛蜜戯~獰猛な独占欲~

  9. 【6話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。