【19話】絶倫軍人王は王女を過激に溺愛したい

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 その日から、ユーフェミナは貴賓室に軟禁状態になった。
 部屋を出ることは可能だが必ずガルムンド兵がついてきて、自由に歩き回ることはできなかった。
 散歩は主塔内のみで、厨房や城庭に出ることは禁じられた。
 地下牢へ繋がる扉付近にも近づかせてもらえず、シャリナやエミールが現状どのような状態かさっぱりわからない。
 ヴィクトルは宣言どおり毎夜ユーフェミナに奉仕を求めるから、すっかり昼間でも腰が抜けてしまい、足もガクガクと力が入らない。
 軽い散歩も諦めるしかなく、もっぱら部屋にこもっているときが多かった。
 そうなると暇を持て余してしまう。
 貴賓室の窓から見る限り、ヴィクトルはロズベリー王城の庭を破壊している様子はない。
 一部の芝生は焼けてしまっており、茶色くなっていた。彫像は数体倒れてしまっているが、そのほかは無事なようだ。
 緑豊かな迷路庭園に目をやると、手入れをしている庭師の小さな姿が見えた。
 ヴィクトルは約束を守ってくれたのだと知る。
「ドロシーねえさん……会いたいわ……」
 こんな状況になって会いたいと思うのは、厨房や下働きのみんなだ。シャリナやエミールには会いたいと一切思わなかった。
 だがシャリナたちの安否は、それはそれで気になる。シャリナには血の繋がりはないが、身内には間違いないのだから。
 窓から離れ、猫脚カブリオールのソファに腰かける。座ったはいいが、日中はすることがなくて退屈だ。
 数分もすると身体がウズウズとして、結局立ち上がり扉へと向かう。
 外で待機しているガルムンド兵に、いつものものを持ってきてほしいと依頼する。すると彼らは怪訝な顔をしながらも、それを持ってきてくれる。
「助かるわ」
「……どういたしまして。ほかに何かご必要なものは」
「これで十分よ。ありがとう」
 ガルムンド兵は一礼すると、扉を閉めた。
 今でこそ平静な顔をしているが、最初に「ありがとう」と口にしたとき、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされた。
 そのときは意味がわからなかったが、しばらくするとピンときた。王女という立場にあるものが「ありがとう」と気さくに口にすることがおかしかったのだ。
 それでよくシャリナやエミールに馬鹿にされたことを思い出す。
「やはり育ちの悪い娘では、臣下の扱いを心得えられないようね。彼らは王族である我々に尽くすことが仕事なの。礼を言ったりしたら、つけあがるだけなのに」
 ユーフェミナはいつも、シャリナの言い分が半分以上理解できなかった。
 厨房で働いている下働きやメイドたちは、賃金のために働いている。王族に従うのはあくまでも生活費を稼ぐためで、尽くすことが当然なんて意識はない。
 ユーフェミナは助けられたり何かを貰ったりしたとき、必ず礼を言った。するとみな嬉しそうに笑い、次も助けてくれる。
 誰もつけあがったりしないし、不遜な態度を取ったりしない。シャリナの考えは間違っている。
 だからユーフェミナは気にせず、言うべきときには躊躇なく礼を口にしていた。
 ガルムンド兵に依頼したのは、掃除道具一式だ。水が並々と入ったバケツに雑巾、そしてモップ。さぞかしガルムンド兵も目を丸くしただろう。
 ユーフェミナは自分が軟禁されている部屋を、自ら掃除していた。動きやすい服に着替えると、雑巾を手に取る。
 クローゼットに揃えらえているドレスは、どれもヴィクトルが用意してくれたものだ。
 ユーフェミナはその中から、なるべく地味で動きやすいものを日々選んでいた。
 今日もそうだ。掃除のときも動きやすいよう、飾り気のないドレスに身を包んでいる。
 雑巾を水で絞ると、窓枠を拭き始めた。毎夜野獣のような男に苛まれても、これくらいの掃除ならできる。
 ヴィクトルには何も言っていない。知られたら「変な娘だ」とか言ってきそうな気がする。
 だが見張り役のガルムンド兵が報告したのだろう。その晩、いつもより早めに貴賓室に現れたヴィクトルが、瓶に入った保湿クリームを持っていた。
「これは?」
「そなたの手が荒れているので持ってきた。ココナッツオイルと蜂蜜が配合されているらしい」
 ぽいっと投げられ、落とさないよう慌てて受け取る。
「あ……ありがとうございます。ヴィクトル様」
「使用人みたいな真似をしているようだが、魂胆はなんだ?」
「魂胆なんて……」
 暇だから身体を動かしたいと思っているだけだが、どう伝えればいいのだろう。
「私が掃除をすることは、あなたの意に添わぬ行動ではないと思いますが……」
「いくらメイドに身を堕とすのが好きな性格でも、単なる暇つぶしに掃除を選ぶ理由がわからん。そんなあかぎれの指になってまでやることか。別の方法を考えるんだ」
「でも日中、暇すぎて……」
 昨日今日、こんな指になってしまったわけではない。ここ一年、水仕事をした蓄積だ。
(もしかして私の指を気遣ってくれているの……?)

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