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【34話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

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「もっと飛ばしてくれ。すぐ家に戻りたい」
 馬車ののぞき窓から御者台に指示を伝えて、ウォルトは逸る心をなんとか抑えようとする。速度を上げた馬車がガタガタと大きく揺れるが、それも不快に思わないほど、胸の中に不安が大きく巣くっていた。
(まさかフィオーナが倒れるなんて……)
 ちょうど仕事が終わる時間だった。今日もアレンと待ち合わせて、近くのクラブへ聞き込みをしようと思っていた矢先、屋敷からフィオーナが倒れたと報せが届いたのだ。
 このところ帰りが遅い上、朝も早く出ていたから、フィオーナの様子は寝顔以外見ていなかった。この頃は彼女も屋敷での生活に慣れて、使用人たちとも打ち解けていたので、すっかり油断していたが、また疲れを溜め込んでいたのかもしれない。
(あちこちの夜会に連日連れ出してしまったから、気疲れもあったのかも……)
 現に夜会に顔を出す前も、発熱して三日も寝込んだことがあった。新しい環境に馴染むのにそれだけの負荷がかかることを、その件で学んだはずなのに、また同じ轍を踏んでしまったと、ウォルトの胸は後悔でいっぱいである。
 可能な限り馬車を飛ばして屋敷に帰ったウォルトは、帰宅の挨拶もそこそこ、執事に鞄を押しつけ階段を駆け上がった。
 まださほど遅い時間ではないが、日はとっぷり暮れて、寝台に入っていてもおかしくない時刻だ。彼は迷わず寝室の扉に手をかけた。
「フィオーナ……!」
 飛び込むように中に入るが、眠っているかもしれないと思い、慌てて口元に手をやる。
 だが、帳が開いた状態の寝台に、妻の姿はなかった。
 てっきり横になっているものだと思ったウォルトは、驚きと混乱のあまり立ち尽くす。
 呆然としていると、背後でわずかに衣擦れの音がした。
「フィオーナっ? ……っ」
 だがウォルトが振り返るより早く、誰かが体当たりするように背中に抱きついてきた。
 驚きのあまり「うわっ」と声を上げたウォルトだが、漂ってきた香りが、この頃妻が愛用しているバスソルトのものだと気づいて、ほっと胸を撫で下ろす。
「フィオーナ、倒れたと聞いたけど、起きていて大丈夫なの……?」
 腹部に巻き付いた彼女の腕を優しく撫でると、フィオーナはぴくっと肩を震わせて、ゆっくりウォルトから手を離す。
 今度こそ振り返ったウォルトだが、フィオーナが潤んだ瞳でこちらを見つめていることに気づいて、思わずドキッとした。
「フィオーナ? どうして……」
 泣いているの? という問いかけはできなかった。フィオーナが唇を引き結び、おもむろに自らの帯を解いて、着ていたガウンを脱ぎ捨てたからだ。
 そうして露わになった妻の姿に、ウォルトは激しく狼狽えた。
「ど、どうしたんだ、そんな格好で……!」
 動揺のあまり声が思いきり上擦ってしまうが、それを気にかける余裕もない。
 なんとフィオーナは、普段なら絶対に身につけないであろう扇情的な下着を身につけていたのだ。
 細い肩紐が支える黒いレースの下着は、肌が透けるほどに薄い生地でできている。月明かりがまぶしいせいで、形のいい乳房が完全に透けて見えていた。寒さか緊張のためか、愛らしい乳首がツンと尖って生地を押し上げている。
 下着は胸の下で切り替えになっており、なだらかな腹部から可愛らしいお臍までは、細かいレースで覆われていた。
 だがレース作りのガーターベルトと太腿までのあいだは、なにも身につけていない。
 銀色の茂みに覆われた恥丘が目に入り、ウォルトは首まで真っ赤になった。
「フィ、フィオーナ、いったいなにを……っ」
「ウォルト様……」
 だが、扇情的な下着を身につけている割に、フィオーナは今にも泣きそうな顔で細かく震えている。
 羞恥から涙ぐんでいるならまだしも、どちらかというと青ざめた面持ちで悲壮感を漂わせている彼女を見て、ウォルトはハッと我に返った。
「どうしたんだ、フィオーナ。いきなりこんな――」
 だがフィオーナはウォルトの言葉を待たずに、再びぎゅっと抱きついてくる。
「抱いてください。お願い。最後まで、して……っ」
 切なさを含んだ声音と、押しつけられる柔らかな胸の膨らみに、危うく理性が揺らいでしまう。
 だが彼女の細い肩はふるふると震えているし、背に回された腕も、抱きつくと言うよりすがりつくという感じだ。ウォルトは深呼吸して、なんとか劣情を抑え込んだ。
「……フィオーナ、落ち着いて。いったいどうしたの?」
 落ち着いた声音で尋ねると、フィオーナはびくりと震え……ほどなく、声もなくはらはらと泣きだした。
 まさか泣かれるとは思わず、ウォルトは再び狼狽する。思わず細い身体を抱きしめると、腕の中でフィオーナが大きくしゃくり上げた。
「だ、だって……この頃ずっとお帰りが遅いから……」
「あ……さ、寂しかった、とか?」
「もちろんそうです。でも、その、他の女性のところに行っているんじゃないかと思って――」
 思ってもみない疑いを向けられ、ウォルトは心底驚いた。
「待って。どうしてそんなことを考えたの? 僕が他の女性のところに? どうして?」
 まさか女性関係で疑われるとは思っていなくて、つい詰問する口調で問いただしてしまう。
 フィオーナは涙をぽろぽろ流しながらも、懸命に話してくれた。
「こ、この前行った、舞踏会で……ご令嬢たちから、聞いて……っ」
 曰く、その令嬢たちはウォルトの本性は養父と同じく女好きだとフィオーナに吹き込み、落ち着いたらまた浮気に走るはずだと囁いたらしい。
 フィオーナに優しくするのも浮気を疑われなくするためだ、とも言われたらしく、あまりのことにウォルトは思わず頭を抱えた。
「フィオーナ……後学のために言っておくけど、今後そういう令嬢たちの言うことを鵜呑みにしちゃ駄目だよ。高確率で、嘘八百に決まっているから」
「……うそ……?」
 ちらっと上目遣いで見上げてくるフィオーナに、ウォルトはしっかり頷いた。
「……確かに、このところ帰りが遅くて、君を不安にさせてしまったことは僕の落ち度だ。それは謝る。本当にごめん。けれど、誓って他の女性のところになど行っていないよ。遅かったのは、仕事が終わったあとでひとを訪ねたり、調べ物をしていたせいなんだ」
「調べ物……?」
「今はまだその内容は話せない。けれど時期がきたら必ず君に伝える。君に関わりのあることだから」
「わたしに……?」
「今はこれ以上言えないけど――」

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