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【31話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

作品詳細

 フィオーナのダンスが文句のつけようもないほど素晴らしかったことも相まって、ブランドン侯爵夫妻の仲睦まじさはあっという間に噂になった。
 ――そしてその日以降、侯爵家には大量の招待状が届くことになり、二人は名実ともに社交界に歓迎されるようになったのであった。

「――使用人同士は、お使いでよそのお屋敷に行くことも多いんですけどね、そこでも奥様のことがすごく話題になっているんです!」
「他のお屋敷では奥様のお綺麗さとか、所作やダンスが素晴らしいと言われるんですけどね。だからわたくしたちは、うちの奥様は使用人にもとっても親切で、お優しくて理想の女主人でもあると自慢するわけです!」
「それをうらやましいと言われるのが、奥様に仕えるわたくしどもとしては鼻高々というか、もう嬉しくて嬉しくて……!」
 その日も舞踏会へ向かう支度をしながら、メイドたちがこらえきれない様子できゃいきゃいとまくし立てる。
 柱に手をつき、コルセットを締めてもらっていたフィオーナは、思わず口元を引き攣らせた。
「そ、そうなの……」
「そうなのです! さぁ奥様、息を吐いて止めてください。行きますよ。――むん!」
「うっ……!」
 痛いのも苦しいのも、おそらく同世代の令嬢に比べればだいぶ慣れているはずのフィオーナだが、ここまできつく締められるとさすがに弱音を吐かずにはいられない。
「あ、あの、もう少し緩めてくれると嬉しいのだけど……っ」
「ご辛抱なさいませ、奥様。本日のドレスは胸元ががっつり開いたデザインです。奥様の美乳を際立たせるために必要なことなのです! さぁ、もう一度!」
「……っ!!」
 ぎゅぅううっ、とコルセットの紐を引き絞られて、フィオーナはこの屋敷にきてから初めて泣き言を漏らしそうになっていた。
 とはいえ、苦労して着付けた甲斐あって、今宵の装いもかなり華やかなものになった。
 デコルテが四角く開いたドレスは光沢のある赤い色で、首には同じ生地で作った宝石つきのチョーカーを巻いている。腰を飾るベルトも同じデザインだ。大きく膨らませたスカートにはレースで作られたリボンが飾られ、可愛らしくもエレガントな雰囲気になっている。
 毎度着飾ったフィオーナを見ると赤面するウォルトだが、今日は盛り上がった胸元を見て、なぜだか目を手で覆っていた。
「なんとも目に毒だ……」
 と呟かれたので、見苦しいのかと焦ったものの――
「今すぐに脱がせたくなる。今夜は僕の理性が試される夜だな」
 などと大真面目に呟かれたので、フィオーナもまた真っ赤になるという、端から見ると喜劇のようなやりとりをしたのであった。
 とはいえ……いろんなところに連日顔を出せば、楽しいばかりでは済まない。
 今宵はウォルトと仕事での繋がりが深い、伯爵家の舞踏会に参加した。
 男性たちは仕事の話となると途端に前のめりになり、連れてきた女性のことを忘れてしまう――というのは、主催者の奥方から聞かされた台詞だ。
 夫たちが仕事のことで話し始めたのを見るや、奥方はそれとなくフィオーナを軽食が置かれたところへと誘った。
「ああいった難しい話は殿方同士でやっていればいいのだから、わたくしたちは女のお喋りで楽しみましょう」
 そんな言葉もあって、フィオーナはその場にいた女性陣に質問攻めに遭うことになった。
「最初はウォルト様ではなく、その養父である先代の侯爵様とご結婚されるはずだったのでしょう? どんな気分でいらしたの?」
 という、なかなか踏み込んだ質問もあれば、
「ウォルト様の花嫁になることを願っていた令嬢が、数え切れないほどいたことはご存じ?」
 という意地悪な質問もあり。挙げ句――
「噂の『氷姫』を娶って、爵位も継がれたから、貴族たちの中でウォルト様は少し抜きん出た存在と格上げされたようですけど――」
「わたくしたちのあいだでは、逆にウォルト様を見損なったという声も聞こえてきますの。結局侯爵家がお金で花嫁をあがなったのは事実ですから……」
「ウォルト様といえば、とても優しげで、品行方正を絵に描いたような方でしょう? そんな方がそういった方法で花嫁を娶るなんて、あまり褒められたことではございませんもの」
 と、はっきりウォルトを……と言うより、ウォルトをそんな噂の渦中に放り込んだフィオーナに対する当てつけのような言葉をかけられることもった。
 フィオーナが大金で買われた花嫁であることは事実だが、その裏にはウォルトの確かな恋心があったと知っている身では、なんとも胸が痛い話だった。自分があれこれ言われるのは構わないが、自分のせいでウォルトが悪く言われるのは口惜しい。
 そもそもこの話で非難されるべきは、大金欲しさに継子の結婚を利用した継母サンドラのほうだろうに……
 そのサンドラは、フィオーナが無事結婚したことを見届けると、国外へ旅行に出かけたということだった。
 どうやら外国の社交界にも顔を出して、毎日のようにドレスを新調しては舞踏会に繰り出し、若い愛人をとっかえひっかえしているという。海の向こうの話なので本当かどうかはわからないが、あのサンドラのことだ、真実はそう遠くないところにあることだろう。
「そういった方と暮らしていたのですから、フィオーナ様も贅沢をすることには慣れていらっしゃるのかしら? 今日のお召し物も大変きらびやかでいらして……」
 大きく開いた胸元をチラリと見つめながら言われて、フィオーナはちょっと頬を赤らめる。この頃はこうして胸を盛り上げるのが主流らしいが、慣れないことだけに恥ずかしい。
 だがそう話しかけてきた令嬢もとても美しい装いをしている。なのでフィオーナはにっこり微笑んで、思ったままを告げた。
「ありがとうございます。でも、あなたの藍色のドレスもとても素敵ですわ。銀の刺繍も、窓から見える夜空を写し取ったようできらびやかです。肌の白さも映えて美しいわ」
「……そ、そうかしら。それは、どうもありがとう……」
 まぎれもない美少女であるフィオーナに、真正面からにこりと微笑まれ、令嬢は急にどぎまぎし始めた。
 実は彼女のほうは、毎度豪華な衣装を着てくるフィオーナへの当てつけとして、それとなく嫌味を言ったわけだったが、思いがけず無邪気に褒め返され戸惑ってしまったのだ。

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