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【22話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

作品詳細

 その後、フィオーナは子供たちを集めて、ウォルトのことを紹介した。紹介する段階になって、まだウォルトの名前を知らないことに気づいたらしく、「あっ! ええと、ええとぉ……!」と慌てたのが、なんとも可愛らしかった。
 ウォルトは自ら自分の名前と、養父に引き取られたことを話し、仲良くしてほしいと申し出た。
 近寄りがたいと思っていた上流階級の子供たちは、ウォルトが何者であるかわかるとほっとした様子で、よろしくと礼儀正しく答えた。どうやらウォルトの出自がわからず、仏頂面で輪から外れていたので、仲良くしたいと思ってもできなかったらしい。
 いざ話してみれば意外とすんなり行くもので、ウォルトが田舎育ちだと明かしても、馬鹿にするどころか、逆に牛や羊を間近に見て暮らしていたことに興味を持たれたりした。
 普段は寄宿学校に通っていることを話すと、自分も通う予定だとか、上の兄弟がすでに通っているから紹介するとか、コネのようなものも得ることができた。
 そうやって暮らしていくうち、ウォルト本来の明るさも戻ってきた。養父のことも、自分を攫った相手ではなく、自分の将来に出資してくれるひとだと考えることで、少なくても憎しみは抑えられた。むしろ成長するごとに、養父が持つ甚大な権力や人脈を利用して、自分の味方を多く作ろうという意識まで芽生えてきた。
 味方が増えれば、故郷や両親から離れて暮らす寂しさや孤独も紛らわせる。フィオーナが言ったとおりの暮らしがそこにはあって、ウォルトはたまらなく救われる気持ちになった。
 学校を卒業してからは養父が興した紡績の会社を引き継ぎ、傾きかけていた経営を立て直した。自分でも投資などで財を築いて、今はあちこちに出資するまでに成長した。
 そのすべては、フィオーナがあの日に、自分を薄暗い木陰から光の下へ連れ出してくれたからだ――

 話を聞き終えたフィオーナは、ぽかんと口を開けたまま、しばし固まってしまった。
 ウォルトの半生に関しては興味深く聞くことができたが、幼い頃の自分がそれほど自由奔放だったことに度肝を抜かれたのだ。
 まだ躾が途中の大型犬を、子供たちがいるところへ連れて行くなど、よく周囲が許したものだ。いや、止められたのを振り切ってきた可能性も高いが……ウォルトの話を聞く限り、幼い頃の自分は割と自由で、好き勝手に我が儘をできていた様子だ。
 それだけ周囲に愛されていた、と好意的に取るか、手がつけられないから放逐されていた、と悪く取るかは、ひとによるところだろうが……
「当時の君は、誰が見ても、誰からも愛されていることがわかる可愛い女の子だったよ。君のお父上も、君が危ないことをしないかには目を光らせていたけれど、それ以外は自由にさせる寛容なひとだった」
「父のことを、知って……?」
「それからも何度か会ったことがあったから。養父の付き合いでね。少し話しただけでも、君のことをとても可愛がっていることがわかった」
 他人の目から見てもそうわかるほど、父は自分を愛してくれていたのだ。
 改めてそのことを知って、フィオーナは目頭が熱くなるのを感じた。
「君と出会ったことで、僕はそれまでの鬱々とした状態から抜け出すことができた。今の僕があるのは君のおかげだ。そのことについて、ずっとお礼を言いたかったんだ」
「そ、んな……。それは、ウォルト様がご自分で努力なさったからで……」
「その努力のきっかけをくれたのが君なんだよ、フィオーナ。それに……早熟だとあきれられるかもしれないけど、君の笑顔に撃ち抜かれてからというもの、気づけば君のことばかり考えて悶々としていたからね。学校を出る頃には、養父のコネじゃなく、きちんと自分の名で社会的な地位と信用を得て、財を築こうと思っていた。そうして胸を張って君に会いに行けるようになったら――君に求婚しようと決めていた」
 少し照れくさそうにしながらも、まっすぐ目を見てそう言われて、フィオーナの胸はどきんっと甘く高鳴った。
「で、でも……今のわたしは、あなたと出会った頃のわたしとは、ずいぶん変わってしまっています」
 当時の自由奔放だったフィオーナに惹かれたというなら、今の……自分で言うのも悲しいが、表情の抜け落ちた人形のようなフィオーナは、彼の好みに合わないはずだが……
「そうだね。でも、人間の本質は、そう簡単に変わるものではないよ。七年という短い時間だったけど、君には確かに多くのひとに愛されていた時期があった。だからこそ、この十年ひどくつらい目に遭っても、君は人間として腐ることはなかった。君の心は昔のまま、とても綺麗なままだよ」
 フィオーナはハッと顔を上げる。こちらを見つめるウォルトの目には、まぎれもないいたわりが滲んでいた。
 彼は知っている……? この十年、フィオーナの身になにが起きていたのかを。
「ウォルト様、どうして……」
「いいかい、フィオーナ。まともな感覚を持った人間なら、継子を競売にかけるようなやり方で、大金と引き換えに求婚者を募ったりしない。そのやり口を見ているだけでも、君が伯爵夫人にないがしろにされていたことは、おのずと想像できたよ」
 はっきり断言され、フィオーナは息を呑む。自分が悪いわけではないのに、なにか後ろ暗いことを暴かれた気分になって、身体が小刻みに震えた。
 ウォルトはわずかに眉をひそめて、震え出すフィオーナの腕を優しく撫でる。
「伯爵家で開かれた舞踏会には、僕も足を運んでいた。君はとても美しい銀色のドレスを着ていたのに、少しも楽しそうじゃなくて、傍らで継母にひどいことを言われても、じっと耐えていた。胸が悪い光景だったよ。なんとかして君を助け出したいと思わずにいられなかった。もっと早く君の境遇に気づいていればと、ひどく後悔もした」

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