【17話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

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「日差しが直接、目に入ってきて、驚いてふらついただけなのよ」
「本当ですか、奥様? 頭がくらくらしたり、気持ち悪かったりとかは……」
「ないわ。本当に大丈夫。その……心配をかけてごめんなさい」
 気まずさと恥ずかしさに小さくなりながらぺこりと頭を下げると、見守っていた使用人たちは、一斉にほーっと安堵の息をつき、笑顔になった。
「よかったですわ、奥様になにもなくて」
「ですがこのところ急に暑くなりましたからね。外歩きのときは気をつけないと。ささ、飲み物をお飲みください。さっぱりしますよ」
 用意されていたのは、氷がたくさん入ったレモネードだ。勧められるまま口にしたフィオーナだが、その味がいつになく濃く、美味しく感じられたのでびっくりした。
 そうして飲み物を味わう彼女の横で、メイドと庭師が朗らかに会話を進めていく。
「奥様は庭歩きがお好きなのですね。今度から、あらかじめ日傘と帽子を用意しておきますわ」
「ベンチやパラソルなんかも用意しておきましょうか? この庭は屋敷から鑑賞する前提で造られているから、あんまり木も植わっていないし、東屋以外に日陰がないんですよ」
「それ、いいわね。そうだわ奥様。陽気のいい日が続いていますし、これからは外でお茶にいたしませんか?」
 メイドたちが顔を輝かせて提案してくる。
 この美しい庭園でお茶をいただく……想像しただけで心躍る提案だ。この円形の東屋にもテーブルと椅子が備えられており、クロスを広げればお茶会だってできそうだ。
 フィオーナの瞳に期待の色が宿ったのを、メイドたちは見逃さない。「決まりね」と嬉しそうに頷き合った。
「あ……でも、勝手なことをしたら、旦那様がお怒りになるんじゃ……」
 パラソルはともかく、あちこちにベンチなど作ったら、屋敷から見たときの景観が悪くなる気がする。そもそも妻が庭歩きすることを、ウォルトは嫌がるかもしれない。
 しかし、メイドたちは笑顔で首を横に振った。
「旦那様はこういったことでお怒りにはなりませんよ。奥様がしたいとおっしゃったことはどんどんやらせるように、ということでしたし」
「旦那様が……?」
 目をパチパチさせて驚くフィオーナに、メイドたちはひどく嬉しげに頷いた。
「旦那様は奥様をとても大切に思っておいでですから。奥様が笑顔になれることならなんでも叶えて差し上げたいと、常日頃からおっしゃっておりますのよ」
「奥様がご自分から庭に出たいとおっしゃったと聞けば、きっととても喜ばれるはずですわ」
 メイドたちが胸を張って請け負う。フィオーナは驚きのあまり息を呑んで、アイスブルーの瞳をしきりに瞬かせた。

 その日の夕刻。夕食の前に帰ってくる予定だと言っていたウォルトを、フィオーナはいつも通り玄関先で出迎えた。
「ただいま……。おや? 今日は一段と綺麗だね、フィオーナ」
 鞄を手に馬車を降りてきたウォルトは、フィオーナを一目見た途端、軽く目を瞠る。
 フィオーナは恥ずかしさから少しうつむいた。
 夕食の前にはそれにふさわしい装いに着替えるのが上流階級の風習だが、フィオーナはいつもさほど華美ではない……というより、やや地味なドレスに着替えていた。例えば襟が詰まったデザインのものや、深緑や藍色の落ち着いた色合いのものを選んでいたのだ。
 しかし今日は、これまで着たことのない鮮やかな赤い色のドレスを着込んでいる。
 襟ぐりも深く空いていて、ほっそりとした首もとには、ルビーとダイヤモンドを連ねた美しいネックレスが輝いていた。
 まっすぐな銀髪も少し凝った形に結い上げ、うなじを露わにしている。これまで肌を見せることが少なかったフィオーナにとっては、冒険と言ってもいい装いだった。
 というのも、ここでの厚遇をウォルトに感謝したいとメイドたちに相談したところ、「それでしたら、美しく着飾るのが一番ですわ!」という言葉が返ってきたのだ。
 着飾ることで感謝を示せるのかと疑問だったが、ウォルトの反応を見る限り、メイドたちの言うとおりだったらしい。彼は自分が用意したドレスを、フィオーナが美しく着こなしていることに、いたく満足した様子だった。
「ドレスも宝石も、よく似合っている。奥さんが素敵な格好をしているから、僕もきちんとした服に着替えてくるよ」
 そう言ったウォルトは、少ししたのち、服だけでなく髪も撫でつけた格好で食堂に降りてきた。
 きちんと正装した夫の姿はとても凜々しくて、フィオーナはついぽうっと見惚れてしまう。
 相手も同じ心境らしく、二人は食堂の入り口で向かい合ったまま、しばらくじっとお互いのことを見つめていた。
「旦那様、奥様、せっかくの夕食が冷めてしまいますので」
 やがてメイドが咳払いとともに声をかけてくる。二人はハッと我に返り、どちらともなく顔を見合わせ、うっすらと目元を染めた。
「フィオーナ、手を」
 おずおずと差し出されたウォルトの腕に、フィオーナはぎくしゃくしながら手を添える。
 いつも一緒に夕食を食べるときはこんな風にエスコートされるのだが、なんだか今日は勝手が違った。席に着き、食事が始まっても、じっと見つめられて落ち着かない。
 別にウォルトは怒っているわけでも、不機嫌になっているわけでもない。しかし、なにか言葉にしがたい熱のようなものが、そのまなざしからは感じられる。
 ウォルトの視線を感じるたびに、フィオーナも妙に身体が熱くなって困惑した。頭の中はふわふわするのに、心臓はトクトクと早い鼓動を刻んで、せっかくの食事の味もよくわからない。
 そのせいか、夜になっていざ夫婦の寝室に入ろうというときは、顔が真っ赤になるほど緊張してしまっていた。どくどくする胸元をなだめつつ、扉を開いたフィオーナは、ウォルトがすでに寝室に入っているのに気づきドキリとした。

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