【12話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

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 苦笑いするウォルトの肩を、アレンは笑顔で叩いた。
『そう思うなら、今後も僕の親友で居続けることで、恩を返してくれればいいよ。それにこういうときこそ、僕の持つ高い身分や生まれが役に立つんじゃないか。ありがたく利用すればいいんだよ』
 親友の計らいに感謝しつつ、ウォルトはフィオーナを手に入れるために、侯爵の代理人を名乗りリディアム伯爵家に日参した。
 アレンの助言通り、結婚相手は六十歳の老人だと伝え、たとえサンドラに目通りが叶わなくても、高価な贈り物を必ず置いていった。それ以外にも、侯爵家の名前で多くの品々を日に三度は届けさせた。
 金に物を言わせた品のない手段ではあるが、これがサンドラにはてきめんだった。少しする頃には彼女のほうから詳しく話をしたいと連絡がきて、あれよあれよと結婚話がまとまったのだ。
 無事に婚約したあとも、毎日贈り物をして、万が一にも心変わりしないように計らった。
 最終的には銀行に新たな口座を作り、中の金貨ごと、サンドラにそっくり明け渡したほどだ。これにはサンドラも目の色を変えて喜んでいた。
 そして、結婚後に相手がウォルトに変わったことをすぐに責められないように、それとなく国外に旅行へ行ってはどうかとけしかけた。
 最近、社交界では南方にある島へのバカンスが話題になっていて、サンドラが行きたがっているという情報を事前に掴んでいたのだ。
 すでに豪華客船の一等室と、現地の高級宿を押さえてあると伝えると、サンドラは狂喜乱舞してウォルトの案に飛びついた。
 そうして彼女は、フィオーナを老い先短い老人に嫁がせることに成功したと思い込んだまま、式後に船に乗って国外へ旅立っていったのである。
 求婚から旅の手配までにかかった最終的な金額を聞いて、さすがのアレンもしばし絶句していたが、ウォルトは後悔していない。彼女を手に入れるためと思えば惜しくない金額だった。
 罪悪感が残るとすれば、結局金を積むことでしか、彼女を得られなかったという事実だ。
 フィオーナを金で買うなどしたくなかった。彼女を迎える方法がそれしかなかったとはいえ、だ。
 有頂天だったサンドラと違い、フィオーナはこの結婚に絶望していたに違いない。
 きっと一睡もできなかったのだろう。結婚式の日の彼女は顔色も悪く、化粧でも誤魔化しきれない濃い隈が目の下に浮いていた。
 無事に屋敷へ迎え入れ、夕食の時間に迎えに行ったときには、疲れ切った様子で眠っていた。あまりに憔悴した姿に、こちらの胸も痛くなるばかりだったのだ。
 おまけに夜にはひどくうなされ、あろうことか父親に助けを求めていた。彼女の父伯爵は、もう十年も前に亡くなっているのに……
 サンドラは自分とフィオーナの親子関係は良好だと胸を張っていたが、本当に良好なら継子を売り払うような真似はしない。それだけでもフィオーナがつらい目に遭ってきたであろうことは予想できるが、それがいかほどのものかはわからない。
 だから、ウォルトは親友のアレンを頼ったのだ。
「――それで、頼んでいた調査はどうなっている?」
 酒を一口含んで、ウォルトはさっそく用件を切り出す。アレンは口角を片方だけ上げた。
「リディアム伯爵夫人は、どうやら人望がないらしい。ちらっと金貨を見せただけで、伯爵家の使用人たちはいろんなことを話してくれたよ」
 名門公爵家の出身ながら、アレンは学校を卒業後は弁護士として働いていた。生まれが生まれだけにかなり広い人脈に恵まれており、主に貴族や資産家を顧客にしている。
 が、その裏では探偵業のようなことも請け負っていた。そちらをメインに動くことは少ないが、世間を騒がせる『氷姫』フィオーナについてはアレン自身も興味があったらしく、二つ返事で調査を引き受けてくれたのだ。
「リディアム伯爵夫人は、継子であるフィオーナ嬢のことを『我が儘すぎて自分の手に負えず、規律が厳しいことで有名な隣国の修道院に預けていた』と吹聴していたが、あれは完全に嘘」
「嘘……?」
「本当は屋敷の奥に閉じ込めて、朝から晩まで家庭教師と監視をつけて、淑女教育を施していたということだ。『教育』と言っていいかわからないほど、その内実はむごたらしいものだが」
 詳しくは調査書を見てくれ、とアレンが封筒を渡してくる。
 そのときの親友の口がへの字に曲がっているのを見て、これは相当ひどいことが書いてあるのだろうな、とウォルトは覚悟した。いつも陽気で、気分が悪いことがあっても無理やり微笑むのがアレンだけに、率直に嫌悪を示している彼はかなりめずらしい。
 フィオーナの従順すぎる様子を見ていても思ったことだが、やはり彼女はサンドラにかなり酷な扱いを受けていたようだ。
 夕べの疲れ切った寝顔と、青白い頬を伝っていた涙を思い出して、ウォルトはかすかに唇を噛みしめた。
「――それで? どうだった、新婚初夜は。披露宴をしなかったから、二人きりで過ごす時間はたっぷりあっただろう?」
 湿っぽくなった空気を嫌ったのか、アレンが身を乗り出して尋ねてくる。ウォルトは微笑み、残りの酒を飲み干して立ち上がった。
「親友のおまえが相手でも、そういうプライベートなことは黙秘するよ」
「けっ。つまらないなぁ。色っぽい話を聞かせてくれるなら、もっと面白い情報を提供してやろうと思ったのに」
「必要なときはまた頼むからいいよ。今回はありがとう。助かった」
「――気をつけろよ、ウォルト」
 酒代を置いて立ち去ろうとしたウォルトの背に、アレンが声音を低くして忠告した。
「これは憶測……というか、おれの勘の域を出ないが、あの伯爵夫人、かなりの悪女だ」
「血のつながりがないとは言え、庇護すべき娘を痛めつけていたんだ。そりゃ悪女だろう」
「まぁそうだが。なんというかな……ただ金が欲しいってだけじゃない気がするんだ、あの伯爵夫人は。夫人が国外に行っているあいだはいいが、帰ってきたら嫁さんの周りに護衛をつけてもいいかもしれないぞ」
「そこまでする必要があると感じるのか?」
 ぎょっとするウォルトに対し、アレンは厳しい表情だ。こういうときのアレンの勘は妙に当たるだけに、ウォルトも自然と険しい面持ちになってしまう。

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