【11話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

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「さすがに疲れたみたいだな」
「結婚式まで、怒濤の日々だったからね。君の協力には本当に感謝しているよ、アレン」
「ああ、どんどん感謝してくれたまえ。君が結婚式当日に爵位を継げるように、僕もそれなりに奔走したんだからね」
 ふふんと鼻を鳴らしてアレンが胸を張る。相変わらずの親友の様子に、ウォルトもニヤリとした。
「おかげでリディアム伯爵夫人の目も誤魔化せたよ。今頃フィオーナが好色な老人に嫁いだと思って、高笑いしている頃だろう」
「だろうな」
 ――リディアム伯爵夫人サンドラが金の亡者だという話は、なにも継子フィオーナの求婚者を募り始めてから明らかになった話ではないのだ。
 サンドラは以前から、高価な宝石を買い集めてコレクションにしたり、最新のドレスを着られないほど新調したり、派手な舞踏会を開いて豪遊したりと、貴族のあいだではかなり有名な浪費家だった。
 彼女の亡き夫であるリディアム伯爵は、それなりの財産家だったから、遊ぶ金はいくらでもあるのだろうと周囲は想像していた。が、フィオーナを競売にかけるようなやり方で嫁に出すと言い出したときに、一部の人間は気づいたはずだ。
 ――おそらくサンドラの豪遊のせいで、伯爵家の財産は底をつき始めている。だからこそ、サンドラはフィオーナを餌に大金を集めるつもりなのだ、と。
 普通ならそんな状況に陥ったことを嘲笑するか、自分の贅沢のために継子を売りに出すなんてと怒って、サンドラを非難するかのどちらかだったろう。
 だがフィオーナの美しさを前にした者は、たちどころに正常な感覚を失った。
 普段なら鼻で笑っておしまいになるところなのに、彼女を見た途端、目を背けるどころか釘付けになってしまったのだ。
 それだけ、フィオーナ・リディアム嬢は『氷姫』の呼び名にふさわしい美姫だった。
 とても清楚で、ガラスでできているような繊細な美貌の持ち主なのに、にこりともしないミステリアスな雰囲気に、多くの男が狂わされた。
 ただ美しいだけなら、ここまで話題にもならなかっただろう。彼女が真に人々の欲望を集める理由は、滲み出るその特異な雰囲気にあったのだ。
 おかげで、彼女が社交界デビューを果たした翌日には、彼女を我が物とするためなら、全財産を投げ出しても惜しくないと豪語する者まで現れる始末だ。それは伯爵家で舞踏会が開かれたあとに、いっそう大きな声となって話題を攫っていった。
 そしてサンドラは、一番金を積んだ者にフィオーナを嫁がせるという趣旨のことを、舞踏会にて明言していた。家柄も重視すると言っていたが、最終的には金に物を言わせた者に決めるであろうことは、彼女の性格を知る者なら誰でも予想ができる。
 おかげで舞踏会翌日は、伯爵家の前を馬車が通れなくなるくらいに、求婚者の列で道が埋まってしまったのだ。
 この事態を知って、ウォルトはすぐにアレンに協力を頼んだ。なんとしてでも、ウォルトはフィオーナを手に入れたかったのだ。
 噂の『氷姫』に親友がご執心であることに、アレンは目を丸くして驚いていた。
 おおよそウォルトは女性の外見に惚れるタイプではないので、どうして彼女を花嫁にしたいのかと、根掘り葉掘り聞かれることになった。
 ウォルトは質問のすべてに誠意を持って答えた。それを聞いたアレンはすぐに協力を請け負い、ウォルトに対し色々助言も与えてくれた。
『ウォルト、求婚するときは君自身の名前じゃなく、家の名前でするほうがいい』
『家の名前……ということは、ブランドン侯爵の名で求婚しろということか? 今の侯爵は養父だぞ。あの男の名前を出せというのかっ?』
『そう。結婚相手はあくまで君の義父上だと伯爵夫人に思わせるんだ』
『あの女好きのジジイが、彼女を欲しているとでっち上げろと……? たとえ嘘だとしても、おぞましくて吐き気がするよ』
『よく考えろよ、ウォルト。伯爵夫人の性質を。一番金を出した奴に継子を嫁がせると、てらいもなく言ってのける金の亡者だぞ? そんな女が、継子を嫁がせてはい終わり、にすると思うか?』
 アレンのその助言に、ウォルトは背筋がひやりとする思いだった。
 きっと伯爵夫人サンドラは、フィオーナを嫁がせたあともなんだかんだと言って、嫁ぎ先から金をせしめようとするだろう。
 そして結婚相手が年老いた老人なら、きっと死ぬのも早い。夫に先立たれた若い未亡人が実家に戻り、再婚に備えるというのはよくある話だ。
『まさか伯爵夫人は、フィオーナが未亡人となって実家に戻ってくるたび、求婚者を募って金を稼ぐつもりなのか……?』
 声に出して言うと確信が深まり、ウォルトは恐怖と嫌悪感に思わず身震いした。
 一方のアレンはその生まれから、この手の話をごまんと聞かされて育ったのだろう。さもありなんと頷き、だから、と身を乗り出した。
『おまえは代理人として伯爵家に赴いて、結婚相手が老人であることを強調して求婚するんだ。その裏で、結婚式当日に、爵位がおまえ自身に継承されるように調整しろ。そうすれば結婚相手がブランドン侯爵であるという公の事実は変わらないし、結婚誓書にはおまえ自身の名前を書くことができる』
『結婚式当日に爵位を継ぐ……そんなことができるのか?』
『国王陛下には爵位の生前継承を願う届けを出したと、この前会ったときにおまえ自身が言っていたと思うが?』
『ああ。だが死亡時の継承と違って、生前継承の場合、緊急ではないことが多いから、受理には時間がかかると聞かされている。役人も、実際に僕が侯爵位を名乗れるようになるのは、社交期が終わったあとあたりだろうと言っていたよ』
『そこはおれがなんとかする。父にも頭を下げて、国王陛下に急いで受理していただけるように働きかけてもらうよ』
『いや、ありがたいが、そこまでしてもらうわけには――』
『気にするな。父は君のことを気に入っている。逆に君の義父上のことはあまり好きじゃない。歴史あるブランドン侯爵位が、色ぼけジジイから清廉潔白な君のものになることには、大賛成のはずだから』
『それは、買いかぶりすぎだと思うが』

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