• HOME
  • 毎日無料
  • 【5話】一途な次期公爵様は身ごもり令嬢を逃がさない

【5話】一途な次期公爵様は身ごもり令嬢を逃がさない

作品詳細

 夜、ベランナが仕事を終えて部屋に戻ってきた。
「あら、今日は少し顔色が良くなってるわね。休んで落ち着いたのかしら?」
 私の顔を見てそう言ったベランナに、私は笑って答える。
「えぇ。休んだおかげか、体調が少し落ち着いたの。それでね、ベランナ。私、侍女見習いを辞めようと思うの」
 私の唐突な発言に、ベランナは驚きを隠さずに勢いよく聞いてきた。
「えぇ!? このまま結婚せずに侍女を目指そうって言ってたサリーが? なにがあったの?」
 私は、ベランナには隠さずに話しておくことにした。
「たぶん、子どもができたの」
 三拍ほど置いて、叫びそうになったベランナの口を手で押さえる。
「叫んだらダメよ?」
 ベランナの目を見て念を押し、口から手を離す。
「どういうこと? まさか、あの舞踏会の日、帰ってくるのが遅かったのって……」
 ベランナの言葉に頷いて、私は言った。
「そう。その時、そういうことをして。医師に診てもらったわけではないけれど、たぶん授かってると思うわ。お相手は雲の上の方だから、一人で産んで育てようと思うの」
 私がしっかりと口にしたことで、ベランナは私の意思が固いことを理解したらしい。
「だから、侍女見習いを辞めるのね?」
「そう。ここにこのまま、いられないから」
 私の返事に、ベランナは少し考えた後に言った。
「わかった。あの時、誘ったのは私だもの。力になるわ。仕事には当てがあるから、任せてちょうだい!」
 そうして私は翌朝、仕事を始める前に侍女頭の元を訪れて、次の給金を貰う日を最後に仕事を辞めることを伝えた。
 その際怪しまれないように、辞める理由は実家を手伝いに帰るということにしたのだった。

 そうして眠気や気持ち悪さをなんとかごまかしながら仕事を続け、辞める三日前。
 その日、仕事で歩き回っていた私はあの日以来会うことのなかった宰相補佐官のローウェン様を見かけた。
 あちらもたくさんの書類を抱えて、同僚の方と話しながら移動しているところだった。
 もう会うこともないだろう彼を見て、私は小さく呟いた。
「さようなら、ローウェン様……」
 そして、私は振り返らずに仕事に戻った。
 その日の夜、ベランナが仕事と住むところを明日の休みに一緒に案内してくれることになった。
 月のものが来ないで、約二か月半。
 なんとか、仕事と住むところが確保できそうでホッとしたのだった。

 翌日、私とベランナは一緒に城下町に続く門へと向かった。
「おや、二人でお出かけも久しぶりだね。気を付けて」
 この間と同じ門番さんが、私たちに声をかけてくれた。
「ありがとう。行ってきます」
 そうして向かったのは、城下町の中でも商業地区にあたる場所。
 ベランナの進んでいった先は、その地区の中でも衣類関連のお店が多い場所だった。
 たどり着いたのは、ドレスのお店。
 扉の上には『ビーのドレスサロン』と書かれた看板が下がり、店先にも素敵なドレスが飾られている。
「ここ、実家でも取引のあるところで、王宮にもたまに商品を卸しているお店よ。腕が良くて、最近評判なのよ」
 そう言って、ベランナはお店のドアを開けて、声を出した。
「こんにちは! ビーさん、いるかしら?」
 ベランナの声に、最初に答えたのはカウンターにいた可愛らしい女性だった。
「あら、ゲイーツ商会のお嬢様。ごきげんよう。ビー! お客様よ!」
 女性は後ろにある扉に向かって声を上げた。
「あぁ、来たのね。いらっしゃい、ゲイーツのお嬢様とお友達」
 ハスキーな声で話しながら目の前に現れたのは、背が高く、長い髪を綺麗にまとめて、真っ赤なドレスを着た、たぶん男性だった。
 少し驚いていると、その男性は私を見て目を見開いた。
「あら、あなた。前に王宮のお針子部屋で声をかけた子じゃない!」
 その言葉に、私は男性の顔をじっくり見て気づく。確かに前にお手伝いで行ったお針子部屋で出会った、おねえさんだった。
「あの時の! ドレスサロンの店主さんだったんですね」
 そんな私の反応に、ビーさんはクスッと笑って答えてくれた。
「訳アリって聞いて、どんな子が来るかと思ったけれど。あなたなら腕は確かだもの。訳アリだろうと大歓迎よ」
 そうして、私は王都のドレスサロンに無事職を得て、そこに隣接する建物の一室を貸してもらうことも決まった。
 そこは、従業員みんなで住んでいるお家だそうで、そこに私も住まわせてもらうことになったのだった。

 王宮に戻り、翌日。
 最後の仕事を終えて、給金も頂き、私はまとめていた少ない荷物を持ってその日のうちに王宮を辞した。
 事情がバレる前に、なんとか辞めることができてホッとした。
 荷物もあるので、ビーさんが貸し馬車で王宮の裏手にある城下町に続く門へと迎えに来てくれていた。
 至れり尽くせりな状況に頭を下げると、ビーさんはからりと笑って言う。
「あんたはもう家の子みたいなもんよ。なにがあっても投げ出さないから、無理せずに働いてちょうだい」
 優しい出会いに感謝して、私は四年過ごした王宮を見上げる。
「お世話になりました。どうか、息災で……」
 こうして、私は新しい生活へと一歩を踏み出したのだった。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。