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【2話】一途な次期公爵様は身ごもり令嬢を逃がさない

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 数日後、いつもより早めに仕事を終えたベランナと私は、ドレスを着て身支度を整えると、王宮側の迎賓館へと向かう。
 その時、ニコニコとベランナが差し出したものに、私は小首を傾げることになる。
「はい、サリー。今日はこれを付けて楽しんでね」
 手渡されたのは黒い色にベールまで付いた、目元を隠す仮面だった。
「これは、どういうこと?」
 私の問いかけに、ベランナはとびっきりの笑顔で答えた。
「今日の舞踏会は、みんな身分と顔を隠した『仮面舞踏会』よ」
 人生初の舞踏会が仮面舞踏会……。
 あぁ、でも王宮で働く貴族もきっと多くいる。顔が隠れるのは、ある意味互いに身バレをしないということ。理にかなっているのかもしれない。
「まぁ初めての舞踏会だし、もし誰か知り合いに会っても、顔が見えなければ上手く切り抜けることも可能よね」
「そうよ。今日の仮面舞踏会は、王宮で働く貴族の子息や子女の息抜きなんですって」
 ますます王宮での知り合いに会いそうな予感がし、仮面をありがたく受け取った。
 迎賓館に着くより前に仮面をしっかり装着して、今夜限りの初めての舞踏会を楽しむことにしたのだった。

 王宮から近い距離にあったものの、今まで機会もなかったので、迎賓館に足を踏み入れるのは今夜が初めてで、他国のお客様を迎えることを目的としたその建物の作りはとっても豪華なものだった。
 王宮も人を迎え入れる謁見の間や大広間などは豪華だけれど、迎賓館はその建物全体が華やかで、王宮の大広間よりさらに気品と輝きに満ちていた。
 王宮は執務棟など侍女見習いやメイドが生活する場所は華美にはなっていないから、ついつい物珍しくてあちこち眺めてしまう。
 最初こそ一緒にいたベランナだが、仮面をしていても彼女の美しさはわかるようで、ダンスに誘われて離れていった。
 綺麗なドレスの舞う会場は華美な雰囲気と相まって、まるで夢でも見ているような気持ちになる。
 ドレスが綺麗でも、私はやっぱり平凡なのね。
 軽食をつまみシャンパンを飲んで、壁から会場を見ている私はつまりまごうことなく壁の花に徹していた。
「雰囲気を味わえただけで十分よね。本来なら、こんなところ縁がないもの」
 綺麗だし夢のようだけれど、やはり私には場違いだと感じてしまい早めに帰ろうかと考えていた時、近くから声が聞こえた。
「お嬢さん、よかったら踊ってみませんか?」
 振り返れば、スラリと背の高い、黒髪が印象的な男性が立っていた。
「えっと……」
 周囲を見回したものの、私以外に近くに人はいない。
 ということは、この男性は私に声をかけている?
「私で良いんでしょうか? 舞踏会は初めてなので、上手く踊れるかわかりませんが……」
 そんな私の返事に、男性は穏やかな声音で答えてくれた。
「大丈夫ですよ。私も久しぶりなので、お付き合いいただけると助かります」
 差し出された手を取って、私は大勢の人が踊っている広間の中に入ると曲に合わせて足を踏み出した。
 踊るのは王宮への侍女見習いに出る前に教えてもらった時以来だから、ずいぶん久しぶりだ。
 それでも問題なく踊れているのは、相手の男性が上手にリードしてくれているから。
 お相手がかなり上手なことに私は驚きつつも、初めての舞踏会で楽しく踊り切ることができた。
 踊っている間に落ち着いて相手を見ると、姿勢の良さと、彼が着ている落ち着いた雰囲気の衣装が高級な素材で仕立てられていることに気づく。
 お相手は、かなりの高位貴族のご子息だとこの時に把握したものの、一度踊れば終わるのだろうと思っていた。しかし曲が終わると、そのまま一緒に広間から抜け、軽食をつまみお酒を飲むことになった。
 初めて顔を合わせた相手でも、仮面をつけていることで途端に話しやすくなる。話をすると、男性は凄く真面目にお仕事をしていることがわかった。
「事務官にも不真面目な者が多く、暇を見つけては侍女見習いと仕事中に逢引きしていたり、なかなか仕事が進まず大変なんですよ」
 そんな彼の言葉に私もつい共感して、愚痴をこぼしてしまう。
「私の同僚も、うわさ話や、異性の知り合いを増やそうと行動して真面目に仕事をしない者が多くて。真面目な人が少なくて大変です」
 お互い話し始めると、周囲の不真面目なタイプに振り回されていることに共感して話は弾み、ついついお酒もすすむ。

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