【12話】一途な次期公爵様は身ごもり令嬢を逃がさない
待ちに待った、王宮での夜会。
それは社交シーズンの終わりを意味し、これが終わると貴族は各領地へ帰り、秋の狩りのシーズンを過ごす。
マクレガー公爵家は王都にほど近い領地のため、王都から離れずとも問題ないし、現在はまだ父が爵位を持っているので、俺は領地へ行かずにそのまま王都で過ごすことにした。
秋から冬にかけて、仕事も落ち着くので何とか彼女を探し出そうと考えていた。
なので、ジェファードと夫人に会うのを励みになんとか仕事を終わらせた。
そうして迎えた夜会で、今回もいろんな貴族に捕まりつつ、なんとかジェファードを見つけて声をかけることができた。
「ジェファード、久しぶりだな」
そう声をかけると、ジェファードは一緒にいた女性と振り返り、穏やかな笑みを浮かべて迎えてくれた。
そして隣にいる女性は俺を見ると、会釈し挨拶をしてくれた。
「初めまして、マクレガー様。ベランナと申します」
そう挨拶をしてくれた彼女は、俺をまじまじと見つめるとジェファードと顔を合わせた後に俺に言った。
「あまり人に聞かれるのもなんですから、休憩室でお話ししませんか?」
それには異議もないので頷いて、俺たちは給仕からグラスを受け取ると、今はまだ空いているであろう休憩室へと向かった。
ブルーのドレスが似合う彼女は華やかで、俺にとっては敬遠しがちなタイプに見えたが、どうやらジェファードとの様子を見ると性格は穏やかそうである。
部屋に着くと、最初に口を開いたのはジェファードだった。
「この間は悪かったね。ローウェンが探している女性は、ベランナにとっても大事な友人だというから。君がなぜ彼女を探しているのか、その理由を聞くまではそう簡単に教えることはできないと言うし、それは僕も同意見だったから」
確かに、いきなり手紙で友人の行方を尋ねられても、どういった関係なのだろうかと疑うだろうし、疑いのある状況では、友人の居場所など普通教えないだろう。
しかし切羽詰まっていた俺は、そこまで考えも至らないほどには、彼女への手掛かりもなくて焦っていたのだ。
「今考えれば、手紙で聞いて答えてもらえるような内容でないのはわかるんだが。彼女の手掛かりが本当になくて焦ってしまって。申し訳なかった」
俺が話せば、夫人が話しかけてきた。
「マクレガー様は、サリーをどうして探しているのでしょうか? 探して、会ってどうしたいのですか?」
その問いかけに、俺は正直に答えることにした。
「春先の舞踏会で初めて会い、その時名前も教えてくれなかったが、彼女に惹かれたんだ。初めて一緒に居たいと思える人に出会えた。なんとしても、彼女と結婚を前提にお付き合いしたくて、探している」
そんな俺の回答に、彼女は目を丸くした。
「サリーは、ミラーティア子爵家の娘です。次期マクレガー公爵であるローウェン様とは身分が釣り合いません」
そんな彼女の言葉に、俺は真剣そのもので返す。
「身分なんてどうってことはないし、俺は彼女みたいな真面目で優しい人に隣にいてほしいんだ。だから、探している」
そんな俺に聞いてきたのは、ジェファードだ。
「お前の両親は、子爵令嬢が嫁に来るのは大丈夫なのか?」
ジェファードのもっともな質問に、二人とも俺の返事を聞く態勢で待っている。
「父も母も、やっと結婚したい相手を見つけたと話せば手放しで喜んだし、子爵だろうと問題ないと言っている。彼女の母方は、エランドル伯爵家だというのも大きい」
俺の返事を聞いて、二人は少し驚いている。
「あの旧家、エランドル伯爵に繋がるのか。それなら血筋は何の問題もないんだな」
夫人の驚く様子から、きっとサリー自身も知らなかっただろうことが窺える。
彼女の母親の実家であるエランドル伯爵家は、アルビレント王国ができた当初から王家に仕える由緒ある伯爵家で、爵位は変わらぬままだがその地位は侯爵にも劣らない、由緒正しい家柄の貴族である。
騎士を多く輩出している家で、今の騎士団の団長もエランドル伯爵家の次男だ。
何度か王宮でも顔を合わせていると思う。
「きっとサリーも、母親の実家のことは知らなかったと思うわ」
たぶん、そうだろうと思うし、それを知っていても彼女の人となりは変わらなかったのではないかと思う。
「そして、ローウェン様のことをサリーはどういった相手か理解していました。だからこそ相手は遠い人と思っていたんです。なので、名乗り出ることはなかったんですよ」
夫人のその言葉に、鈍器で殴られたかのような衝撃を受ける。