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【10話】一途な次期公爵様は身ごもり令嬢を逃がさない

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 今は社交シーズンで、依頼も多く忙しいのに。
 一体いつ作ってくれていたのか。
 淡いブルーの綿の生地に、同じく綿のレースで縁飾りされたシンプルだけれど可愛さもあるワンピース。
 もう準備してくれていたことに私は驚きつつも、そのゆとりある作りに感心してしまう。
「着心地も良さそうだし、大きくなるお腹でも着られそう」
 私の声に、ビーさんもリーシャさんも頷いて答えてくれる。
「近所のレナリーが最近出産したでしょう? 産む前にお腹周りのサイズ感を見せてもらっていたのよ。後ろにリボンがあるからウエストも調整できるし。最後はリボンなしで着れば大きなお腹でも大丈夫よ」
 妊婦さんを考えた、機能的にもデザイン的にも可愛い服を作り上げてしまうビーさんとリーシャさんは本当にすごい。
「すごいです! ありがとうございます! これ、買う人は限定されるけれど、売れるんじゃないでしょうか?」
 そんな私の声に、ビーさんもリーシャさんもシシリーさんもニヤリと笑い、そして言った。
「もちろん、こんな商売になりそうなこと逃すわけがないわ。庶民用と、飾りといい生地を使った貴族用と二種類作って売り出して、貴族用のデザインはオーダーメイドも受け付けるわ」
 ビーさん率いるドレスサロンは、なかなかに商魂たくましいのである。

 ゆっくりと夏を過ごせたかと聞かれれば、答えは一気に忙しくなった。
 私に作ってくれた妊婦用のワンピースの評判がすこぶる良く、庶民用も貴族用も一気に注文が入ったからだ。
 妊婦さんの前には私も姿を出して、着用の様子を見せた。その影響もあり、一気に人気が出たのだ。
 それまではあまり妊婦用の服なんて無くて、みんな大きめの古着を買ってなんとかやり過ごすのが定番だった。
 しかし、妊婦生活なんてそんなにあることではないし、そんな時にも可愛い服が着たいというのが女性の心理であった。
 そこにマッチしたこのワンピースは、瞬く間に口伝えで伝わっていき、大忙しとなったわけである。
 そんな形で、現在の私はまた少し大きくなったお腹を抱えてワンピースをひたすら縫い上げることになった。
 この服のさらに良いところはリボンがあるため、産後はウエストを締めてそのまま着られるところにある。
 つまり、出産後でも着られる作りなのだ。
 これに食いついたのは、妊婦だけではなかった。
 少し年上のふくよかなマダムたちにも人気となったのだ。
 そんなわけで、夜会シーズンも落ち着いてきた秋に差し掛かる現在もワンピース制作で大変忙しいビーのドレスサロンである。
 そんな中でも、私が来てから習慣化した午前と午後のお茶休憩は未だに継続中だ。
 やはり休憩は大事で、少し休むことで作業効率は上がるのだ。
「すっかりこの休憩も習慣化したわね。今じゃ休まないと効率が下がるんだもの。人間適度な休憩が大事だって学習したわ」
 そう語るのは、デザインや商談で人と接することに忙しいビーさんだ。
 シシリーさんも、接客が多いので結構忙しい。
 ワンピースはサイズごとにパターンを引いた後、オーダー以外はその型紙で量産体制に入った。
 近所の裁縫が得意な奥様方にも内職で手伝ってもらい、既製服として販売を始めて少し落ち着いたところだ。
 貴族の奥方はオーダーが多いので、そちらはリーシャさんが担当している。
 店頭に置く分を私と近所の奥様数人で担当して、ようやく一番忙しい時期を乗り越えた。
「ご近所さんにもお世話になりましたね」
「そうね。日頃のお付き合いの大切さを学んだわ」
 日々家族の繕い物をしているご近所の奥様方は、やはり針仕事に強かった。
 一着仕上げればいい給金になるのだから、皆さん丁寧にかつ最速で仕上げてくれた。
 非常にたくましい奥様集団である。
 私が大きなお腹になって働いていても、この近辺の奥様達はみんな似たような感じで働いてきたので違和感はないらしい。
 それでも、身体にいいからとお野菜やお肉を頂いたこともあるし、たまには甘いものも食べなと飴を貰ったこともある。
 優しく温かい人たちに囲まれて、私の妊婦生活も仕事も順調に進んでいるのだった。

 そして、その日は突然にやってきた。
 ワンピースの販売も落ち着き、私のお腹も大きくなってもうすぐ生まれるという、冬の訪れを感じる頃。
 私の前に、もう会うこともないだろうと思っていた相手が現れたのである。
 お腹の子の父親にして、初めて一夜を共にした相手。
 次期公爵でもある、宰相補佐官のローウェン様だ。
「やっと見つけた。サリー」
 その声に振り返り、お互い驚いたのは間違いないだろう。
 驚きの種類は違うと思うけれど……。

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