【8話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

作品詳細

 ふと、踊っている最中に壁の花になっている女性たちが目に入る。
 あ……。
 女性たちの中に、クラリッサの姿を認めた。
 クラリッサ、また壁の花になっているのかしら。折角綺麗なドレスを身に纏うようになって、あの子の魅力も存分に発揮されているのに。
 歯がゆくなってしまった私は、次々と踊る間もずっとクラリッサを気にしていた。
 ──もう、あの子消極的なんだから。
 壁にべったりついていないで、もう少し前に出ていれば男性だって誘いやすいでしょうに。
 途中でどなたかが、クラリッサにダンスを申し込んでいるのを見かけた。
 けれどクラリッサは、あろうことか顔を真っ赤にして断ってしまっていた。
 ──何をやっているの、あの子は。
 自分の中でムズムズと言いようのない感情が芽生え、もどかしくて堪らない。
「……もうっ」
 十番目の曲が終わった後の小休止に、私は足早にクラリッサに近づいていた。
「あ……、ライラさま……」
 私の姿を認めて顔を明るくしたクラリッサだったけれど、その手をグイと引っ張られて目を瞬かせた。
「あ……、あのっ?」
「いいから。いらっしゃい」
 そしてダンスホールの中央で待っていたのは──、シリル王子。
 彼も、私がクラリッサの手を引いてきたことに驚きを隠せないようだ。
「王子殿下、まことに失礼ながらこちらの方と踊って頂けないでしょうか? シェルヴィー子爵家令嬢、クラリッサさまです。類い稀な美貌をお持ちでありながら、とても慎ましやかな女性でして……」
 ──ああ、もう! 私のバカ!
 何をやっているのかしら、もう。
 私はいつも先に行動してしまってから、後で深く反省する。
「あ……あのっ、ライラさま? で、殿下……」
 クラリッサは可哀想なほどオドオドして、私の顔と王子さまの顔とを見比べている。
「一度くらい、幸せな思いをしてらっしゃい」
 そんな顔を向けられれば、私は姉のような笑みを浮かべて彼女の背を押すしかない。
 彼女がそれ以上何かを言う前に、音楽が始まっていた。
 踊り出す人々の間から私は抜け出て、自分のバカ具合に溜息をつきながらシャンパンを手に取った。
「……美味しい」
 そう呟いて息をついた時──。
「あら、アシュバートン家のライラさまがお一人だわ」
 わざと私の耳に入るような声がし、ハッとしてそちらを向くと、以前の舞踏会で私に言い負かされた令嬢──ジャクリーンが笑っている。
 彼女は髭を生やした男性と腕を組んでいて、しなだれかかるようにしてこちらを見ていた。
「あの方、とてもお美しいですしお強い方ですのよ。きっとこの先お一人でも生きていけるのではないかしら?」
「おやおや、ジャクリーン。高嶺の花のアシュバートン侯爵令嬢が、そんなことになる訳ないだろう」
 髭の男性が本心から言っているのか分からない。
 けれど心が荒れている私は、自分が嗤われているのだと思ってしまった。
 カッとなってその場を離れたくなり、私はテラスから外へ歩いていく。
 中庭には、ダンスをもう踊らない、様々な理由で踊る必要がない者たちがいる。そこで──、私はまた耳にしたくない言葉を聞いた。
「アシュバートン侯爵令嬢、今日も綺麗だったなぁ」
「あぁ。だがあの人は見るだけに限るよ。どう見たって顔立ちがきついだろう。物凄い美人ではあるが、その隣に立って彼女の夫になれるかと言われれば、ノーだ」
「違いない。彼女は観賞用だよなぁ」
「レディたちの噂だと、すんごい気が強いらしいぞ。財布も家の実権も、何もかも乗っ取られるとか」
「レディたちも、彼女の強い言い方に泣いているそうだ」
「……まぁ、美人だけどあの顔は悪役顔だよな」
 無責任な噂話に花を咲かせる彼らに、私は手にしていたシャンパンを引っかけたい気持ちだった。
「……知らない癖に」
 私が何を考えているのか、言葉を交わしたこともない癖に。
 勝手に決めつけないで欲しい。
 外見だけで決めつけないで欲しい。
 噂なんてものを信じるなど、愚かな証拠だ。
「そういうことは、私に直接聞きなさいよ!」と怒鳴り込んでやりたい。
 喉元まで文句がせり上がり、──けれど一つも言葉にできない。
 所詮、私は女性。
 男性にまで自分の正義を振りかざせば、逃げられ、婚期が遅れる。
 同時に噂が真実になるのだ。
「アシュバートン侯爵令嬢は、男に意見するきつい女だ」と。

 それから少し、私は物陰で泣いた。
 いつもならこんな風に外で泣いたりなんかしない。
 私は誇り高い、アシュバートン侯爵令嬢なのだから。
 いつも自分の矜持に従い、正しく行動してきた。それに自信を持つことはあれど、負い目を感じることなんてない。
 きっと、誰かありのままの私を受け入れてくれる人が現れるはず──。
 ──そう。例えば笑顔の素敵なシリル殿下とか。

 自分に甘い夢の暗示をかけ、私は立ち直った。
 クラリッサに譲った一曲が終わった頃、私はダンスホールに戻ってゆく。
 背筋を伸ばし、前を向いて堂々と。
 周囲にいる人が私に気付き、思わず道を譲るような誇り高いレディ。それが私だ。
「ライラさま……!」
 私の姿を見つけたクラリッサが、頬を紅潮させて近寄ってくる。
「先ほどはありがとうございました。お陰で雲の上の方だと思っていた、王子殿下と踊ることができました。本当にライラさまには、良くして頂いてばかりで……」
「よくってよ」
 あぁ、それに引き換え、クラリッサはなんて素直なのかしら。
 世の中、皆この子のように純粋だったらいいのに。
 ささくれ立っていた私の心は、清廉なクラリッサの存在で救われた気がした。
「ありがとう、クラリッサさま」
「? 何がです?」
 キョトンとするクラリッサに、私は明るく笑った。
「ふふ、あなたは何も知らなくていいのよ」

作品詳細

関連記事

  1. 【9話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  2. 【4話】強引御曹司に注がれる溺愛の味

  3. 【34話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

  4. 【32話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

  5. 【5話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  6. 魔性の色男は鋼鉄処女を蕩かせる

    【5話】魔性の色男は鋼鉄処女を蕩かせる

  7. 【1話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

  8. 【32話】強引御曹司に注がれる溺愛の味

  9. 【31話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。