【5話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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第一章 華麗なる悪役令嬢

 ハートフィールド王国の侯爵、アシュバートン家の長女ライラ──私は、『淑女の中の淑女』と言われていた。
 美形の両親のもと生まれ、当たり前のように美しい容姿を持つ。
 髪の色は薔薇色で、当時まだご存命だった王太后さまが、「将来薔薇色の淑女になるわ」と仰った。
 その一言から、私は周囲の期待を一身に受けることになる。
 エメラルドグリーンの瞳は宝石の如し。愛らしい声もコマドリのようだと賛辞され、噂は本人が物心つく頃には否定できない勢いで広まっていた。
 美しいという外見は、遺伝もあるし私自身も保つよう努力している。
 けれど人は、美しい者を見れば「中身が……」と言いがちだ。
 そう言われないように、私は徹底して英才教育を叩き込まれた。結果、勉強、作法、趣味に至るまで完璧に身につけた。
 結果しか知らない人は、私を『天性の才能』、『完璧な令嬢となるべく生まれた存在』と言う。
 けれど実際の所、私が完璧であるのは私の努力の賜物だ。
 しかし往々にして、淑女というものは見苦しい姿は決して見せないものである。
 装った姿を披露する時、その下のパニエは見せてはいけないのだ。世の中には、見れば人を幻滅させてしまうものもある。
「努力しました」「頑張りました」と言うのは、貴族という人種の中では禁句のようなものだ。あくせく働いたり努力するのは、労働階級の人間がすること。
 何をしなくても美しく、華麗で周囲が羨むほどの財がある。常に笑っていて、享楽の中に生きている。
 それが、貴族。
 私は努力したことなどおくびにも出さず、「両親や周りのお陰です」と優雅に微笑むのだ。
 ちやほやされて育つのは、そう悪いことでもない。
 私は自分に自信を持つようになったし、言動も振る舞いも大らかになる。そして寛容な言動と行動は、更に私を華麗な淑女たらしめる。
 私は私が幸せになるのだと信じて疑わなかったし、周囲もそうだった。
「あんなに非の打ち所がない令嬢なのだから、大貴族か王子殿下を射止める」との噂が絶えず私の周りを飛び交っていた。

 しかし、気付けば私は二十五歳になっていた。
 十七歳で社交界デビューし、早いレディは十代のうちに結婚が決まる。そんな中、私は『遅れた花』になりかけていた。
 社交界デビューをしてすぐに引く手数多だったけれど、幼い頃から私に纏わり付いていた賞賛の声は、逆に私を『高嶺の花』にさせていた。
 母は「下手な人が寄りつかなくていいじゃない」と言う。周囲の大人たちも同じように頷いた。
「良い方が声をかけてくださる」と思っても、私の周囲にいる取り巻きまでもが「あなたにはライラさまは無理よ」と知らない間に殿方を牽制するのだ。
 ライラ・アシュバートンの隣に立つのは、最高の男性しか許されない。
 そのようにして、私に課せられる期待は本人が望まないほど高まる。
 有力候補となっているのは、三十代男盛りの公爵閣下か、結婚相手が誰なのか国中の注目を浴びている王子殿下。
 陰では私がどちらと結ばれるのか、賭けさえされているようだった。
 皆が私の行く末を案じてくれているのは、ある意味ありがたい。
 けれど本音は──重圧、だ。

 数多くの舞踏会に出席している間、私に年の離れた親友ができた。
 クラリッサという名の子爵令嬢だ。
 名前の通り透明感のある、可愛らしい彼女は十九歳。
 抜けるような肌に、色の薄い金髪。まだ少女らしさを残す彼女は、汚れのない白百合の花のように思えた。
 けれど彼女は、積極的な性格ではなかった。
 舞踏会がある毎に姿を見かけていたけれど、彼女はいつも壁の花だった。男性が彼女にダンスを申し込んでも、顔をみるみる赤くさせ話せなくなってしまう。
 クラリッサの家のシェルヴィー子爵家は、領地内の農作物が不作だとか、交易に失敗したとかいう噂がある。
 領地の多くが山に近い農牧地で、財政が傾いている。
「彼女も必死よね」
 令嬢の誰かが、笑い交じりに言っていたのが耳に入った。
 そんな風に言ってしまうのなら、──皆必死だ。
 男性から愛を乞われる令嬢という存在は、結局、家を存続させるため、よりよい身分の男性と結婚するために舞踏会に繰り出している。
 私だって──同じなのだから。
 クラリッサは男性受けする外見、性格ではあったけれど、女性にはそうでなかった。
 野心を見せなさそうな挙動、どこか怯えたような眼差し、儚げな笑み。
 それらは令嬢たちに、すべてマイナスに取られてしまうようだった。

**

 アルダーソン公爵邸の舞踏会に出かけた時、休憩しようと思ってシャンパンを片手に外に出た私は、不審な気配を感じた。
 そっと声がする方に行ってみると、クラリッサが数人の令嬢に囲まれていた。
「あなた、何をしてもどうせ上手くいかないのだから、諦めたら?」
「シェルヴィー子爵家は、もうお終いだって皆言っているわよ? 可哀想」
「玉の輿を狙う気持ちは分かるけれど、誰か騎士でも探してみたら? 騎士だって一応準貴族なんだし」
「一応サーがつくわね? アハハハ!」
 嘲りの言葉の中央で、クラリッサは表情を暗くし、体を小さくさせていた。
 それを見てしまった私は、胸をムカムカさせた。
 ──同じ穴の狢の癖に!
 知っているわ。クラリッサを責めている一人は、さっきお目当ての男性からダンスを断られたばかり。
 もう一人は、母の不義が露呈して捨て鉢になっている。
 婚約者に結婚を断られた人や、婚約者が浪費家で賭博にばかりお金を掛けている人。
 みんなみんな、心に不満のある人ばかりだわ。
 きっと、集まって愚痴大会をしようとしていた所に、運の悪いクラリッサが通りかかったのかしら。
 ──あの子は何も関係ないのに。
 私は、人並みの良識を持ち合わせているつもりだ。
 だからこそ、自分の中の正義と照らし合わせて、間違えていると判断したことが許せない。

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