【最終話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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「……すごぉい……」
 空になった俺の掌をじっと見つめ、ライラは己の手でペタペタと指輪がなくなったのを確認する。
「ルーファス、またライラが困ったら助けてくれる?」
 俺の膝の上で、ライラは期待に満ちた目で俺を見上げる。
「……魔法使いは、あんまり人の前に出て奇跡を起こしちゃいけないんだ。分かるな?」
 だが俺が静かに言うと、華奢な肩を落として落胆した。それを見ると、何だかとても悪いことをした気持ちになり、慌ててつけ加える。
「でも、ライラが本当に困った時は、俺が必ず力になる」
「うん、約束ね。ピンキープロミスよ」
 小さな小指が差し出され、俺の小指の先に絡みつく。
 ライラが口ずさんだのは、約束のまじないの歌の中でも一番残酷ではないフレーズだったが、それでも「もし私が嘘を言ったなら、死を願うことを誓います」と小さな女の子が言うのは、なかなか恐ろしい。
「ん? あれ。この場合、俺がライラの力にならなかったら、俺が死を願うのか」
 遅れて気付くと、ライラがクスクス笑う。
「べつに死ななくてもいいけど、ライラにすてきなお婿さんができなかったら、ルーファスがお婿さんになってちょうだい」
 ませた言葉に、俺は思わず破顔していた。
「ははっ! 分かった。丁度俺もいま独身だし、ライラがすてきなお姉さんになるのを、見守っててやるよ。姿を現すことはできないが、遠くからライラを見守ってる」
「ほんと?」
「本当だ。魔法使いには、魔法の鏡があるからな」
 ライラを抱き上げて立ち上がると、目線がグッと上がってライラが歓声を上げた。
「さ、戻るぞ。きっと家の人間が心配してる」
 屋敷があった方向に向かって歩き出すと、ライラがギューッと俺に抱きついてクンクンと匂いを嗅ぐ。
「ルーファスはいい匂いがするのね。お母さまのパルファムもすてきだけれど、ルーファスに似合った匂いだわ。でもね、ライラこの森の匂いも大好きなの」
 俺の腕の中で伸び上がるようにして、ライラは森の空気を肺一杯に吸い込んだ。
「霧がかかっていて、ひんやり冷たくて、安心する匂い」
「ふぅん? そうか」
 なら、俺もそういう香りに変えてみてもいいな、と思った。特に香水をつけているつもりはないが、気分によって好みの香りを発することはできる。
「あとね、もしルーファスとけっこんするなら、ゆびわはルーファスの目みたいな色がいいわ。お母さまのゆびわとそっくりだし、とってもきれいな色だもの」
 このお姫様は、もう早結婚式のことを考えているらしい。好きだなぁ、女の子はこういうの。
「あぁ、分かったよ。でも俺はこわーい男かもしれないから、その前にライラはいい相手を見つけるんだぞ?」
 俺の言葉を理解できないという風に、ライラはきょとんと俺を見つめている。
「森の出口までもうちょっと掛かるから、寝てな」
「うん……」
 ゆっくりとライラに眠りの魔法をかけてゆく。
「ライラは女の子なんだから、あんまり一人で森をうろついたら駄目だぞ?」
「……わかったわ。ルーファスのおねがいなら……、きいて、……あげる」
 次第にうとうとと目蓋を重たくさせ、ライラは俺の胸にもたれかかってスゥスゥと寝始めた。
「ごめんな、ライラ。森の中で魔法使いに会ったって言ったら、きっとお前に変な疑いがかかるから。俺との記憶は消しておくな。お前は母親の指輪も取ってないし、森の中にも入ってない」
 また意識を飛ばしてライラの屋敷を遠見すると、彼女の部屋には誰もいないようだった。
「よい、しょ」
 一歩足を跨がせると、俺はライラの部屋にいた。
 少女らしい花柄の壁紙に、彼女の髪の色に合わせたのか薔薇色のベッドカバーやカーテン。家具は白を基調としていて、実に令嬢らしい。ベッドの上には、大きなクマのぬいぐるみがあった。
 ライラの体には大きすぎるぐらいのベッドに寝かせると、俺は彼女の額にキスを落とす。
「いい女になれよ。約束通り、お前をずっと見守っているから。そして、本当にどうにもならないぐらい追い詰められた時は、必ず力になってやる」
 薔薇色の少女は、天使のような寝顔でスヤスヤと寝息を立てている。
「ありがとうな。お前に出会えて、前向きになれた。次に結婚する時は……。本当にお前でもいいのかもな」
 冗談めかして笑い、ポンポンとライラの頭を撫でる。
「ありえない」と思いつつも、この世界は様々な運命の糸によって成されていて、何が起こるか分からない。
 俺が魔王として人間界を見ているのも、この世界のバランスを取るのに適材適所の人間を見つけるためだ。
 その中で俺が自分の花嫁を見つけても──いいのかもしれない。
 あと一つ新たに思ったのは、リボン結びくらいちゃんとできるように少しは手先を器用にしておこうということだ。何か細かなものを扱う趣味でも、見つければいいのかもしれない。
「じゃあな、ライラ」
 魔界への入り口を開け、俺は少女の寝顔を目蓋に焼き付けてから職場に戻った。

 それから約二十年後、見守り続けた少女が自分の妻になるとは、さすがに魔王の俺も想像できなかった。
 人生は何が起こるか分からないから、楽しい。
 見守って美しく育った少女が自分のものになるなんて、この上ない幸せじゃないか。

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