【30話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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 ベッド横の姿見は、ルーファスが最中の姿を見たいということで置いてある。些かそれは悪趣味だと思うけれど……。
 それは置いておいて。
 鏡に映る私は、青白い顔をしていた。
 体の肉が落ちて、髪の毛は記憶にあるよりかなり伸びている。
 記憶にない間……どれぐらいの時間が経ったのかしら?
 恐ろしくなり、体が震えてきた。
 ギュッと自分を抱きしめていると、顔を綺麗にしてきたルーファスが血相を変えて私の元に飛んでくる。
「どうした!? 寒いか?」
「い……いえ……。私……、どれぐらい寝ていたの?」
 恐る恐る尋ねると、ルーファスは表情を曇らせる。
 それからポツリと呟いた。
「……ショックを受けて、一年半は寝ていたと思う。何も食べようとせず、生体維持をするためにエネルギーは分けていたが……。やっぱりお前自身が栄養を取らないと、肉や血も作れない。……だから……」
 そこで何となく、私はぼんやり思い出した。
 自分がクラリッサとシリル王子の本心を知って──、とてもショックを受け寝込んだだろうこと。
 思い出したことで再びショックを受けることはなかった。
 彼ら二人に関しては、心が麻痺して「もう関わりたくない。考えたくない」と訴えている。
 二人に関わる所だけ、心に分厚い膜ができたようだった。
 それより私は──、この優しい魔王に謝って、彼の看病に感謝すべきだ。
「じゃあ、ゆっくり元気になっていかないとね」
 優しく微笑んだつもりだけれど、頬のこけた病人が無理に笑っているように見えるのだと思う。
 ──恥ずかしい。
 ルーファスにこんな顔、見られたくない。
「欲しい物、あったら何でも言ってくれ」
 私を抱いたまま、ルーファスもクッションの山に体を預ける。
「大丈夫よ。病み上がりの人は、そんなに一気に食べられないの。それよりあなたは、ちゃんと食事をしていた? 仕事は?」
 心配していたことを言うと、ルーファスはあまり興味がなさそうに頷く。
「してたよ。妻が心配で全部放り投げたかったが、……周りが許してくれない」
 暗くなった目は、心底私の看病を望んでいたようだった。
 それが嬉しくて、私は彼の肩に額をつける。
「あなたは魔王なんだから。大勢の人……悪魔が、あなたの仕事を待っているわ。それにヒトは、そんなに簡単に死なない」
 思い出していたのは、最初にクラリッサとシリル王子の結婚を知った時。
 あの時も私はショックを受けて、夏を丸ごと寝込んで過ごしていた気がする。
 つくづく、私は心が弱い人間のようだ。
 ──情けないわ。
「ヒトは──、簡単に死ぬんだ」
 けれど、ルーファスの声は固く強張っていた。
 その奥に秘められた強い感情を抱いて、私は思わず顔を上げる。
「…………」
 視線の先には、私が見たことのない表情をしているルーファスがいた。
 眉間にグッとしわを寄せ、赤い目にはやり場のない感情が渦巻いている。形のいい唇も引き結ばれて──。
「俺の……、前妻は自ら死を選んだ」
 小さな声に、私はハッと体を硬くする。
 ずっと気になっていた。
 彼の前妻がどういう人なのか。
 性格とかは初めて会った時に教えてもらったけれど、そんなに愛していた人が今どうしているのか──。怖くてずっと聞けなかった。
 悪魔が簡単に死ぬなんて思えないし、離れた所で暮らしているかもしれない。
 だとしたら私は、いつ戻ってくるか分からない前妻の影に怯えなければならない。
 だから──、私は彼の気持ちに応えるのが怖かった。
 そして、意識的に前妻のことを聞くことをしなかった。
「……亡くなっていたの……?」
 恐る恐る問うと、彼は傷ついた目で笑う。
「戦争でもなんでもない。人間の世界でもよくあることだ。前妻は俺の母親と折り合いが悪かった」
「……嫁姑問題?」
 些か毒気を抜かれた私に、ルーファスは疲れたように頷く。
「大したことじゃないように思えるだろ。……けど、前の妻はそれで酷く心を病んだ。元々外に出てバリバリ働くような奴だったのに……。俺の母親がこの城に押しかけては、前妻が働くことに口を出したり、子供を産めと催促してきた。どれだけ強く生き生きしていても、バリバリ働いていても……根が真面目であればあるほど、病みやすいんだ」
 彼の前妻に深く同情すると共に、私は今度は自分がそうなるのではと恐ろしくなった。
 が、それを察したようにルーファスは緩く笑う。
「父も母ももういないから、安心しろ」
「ご両親、もういらっしゃらないのね。他のご家族は?」
「……何せ悪魔族は長命だからな。両親は寿命として、兄弟も存在を把握しきれないぐらいいるが……。この広い世界で何をやってるのか分からん。把握してる奴らは、堅い職についてるまともなやつらだが」
 自分の家族のことだというのに、ルーファスは興味なさそうだ。

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