【3話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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 ポカンと開かれた口からは、そんな間抜けな声しか出なかった。
 だって悪魔の世界に、人間の世と同じように歴史があり王が統治する治世があるとは思っていなかった。
 魔王と『王』がつく存在がいるのなら、その部下もいるだろうけれど、悪魔が自分より上の存在に粛々と従っているイメージはない。
 常に争ってばかりの野蛮な存在という思いがあったから、彼らが魔王の下で穏やかな暮らしを送っていたのがとても意外だ。
「皆さん、そのように驚かれます」
 バーナードさんの言葉に、私は「ん?」と引っかかりを覚えた。
「皆さん……とは?」
「他に『生贄』として、こちらの世界にスカウトされた人間の皆様のことです」
「はぁ……? スカウト?」
『生贄』と全く繋がらない平和な言葉に、また呆けた声が出る。
「皆さんこちらで、精力的に働いてらっしゃいますよ。あちらで過労死しかけたり、世を儚んだ方を、魔王陛下は積極的にスカウトしていらっしゃいます。結果、ヒト同士の軋轢のないこちらの世界で、皆さんのびのびしてらっしゃいます」
 ……なんですか、その異例の優遇は。
 思わず私は、心の中で突っ込んでいた。
 そうこう話している間に、体のショックより心のショックの方が上回ったらしい。逆に冷静になった私は、思ったより自分が動けることに気付いてソファから立ち上がった。
「大丈夫でございますか?」
「ええ、ありがとうございます」
「では、魔王陛下の所へご案内致します」
 バーナードさんは私を先導し、ゆっくり歩き出す。

 最後に人間界にいた時は、生贄に逃げられないように騎士が大勢いた。けれどいざ魔王の城に来てみれば、いるのは執事のみ。
 同じ人間なのに私を見張っていた人々を思い出し、逆にここの自由さに内心面食らう。人気の無いこの城なら、逃げようと思えばすぐに距離を稼げるのかもしれない。
 だがこんな広大な城で、土地勘もないのに逃走を試みるのは愚の骨頂だ。
 すぐに捕まるに決まっているし、生贄として選ばれたのに逃げようとしたら、どんな報復があるか分からない。
 ここは、大人しく従ってついて行った方がいい。
 そう思い、私はバーナードさんの後をついて歩く。

 やがて、広大な城の中を歩き回り、私は一つの優美な扉の前にいた。
「魔王陛下、アシュバートン侯爵令嬢ライラさまをお連れ致しました」
 バーナードさんが告げると、重たそうな扉が内側から開いた。
「どうぞ、ここからはお一人で。陛下はとても温厚な方ですので、気負わずご対面ください」
「……はい」
 不安を拭えないながらも、私は頷いて足を進めた。
 扉は内側から開いたのに、部屋の内部に控えている人影はない。
 そんなことよりも、目に飛び込んだ光景に私は思わず「わぁ……」と声を上げた。
 執務室──なのだろうか。
 広い空間をぐるりと囲むように、天まで延びる本棚が続いている。本棚からは魔法なのか、様々な本が勝手に空中を移動している。
 他にも多種多様な時計が部屋に置いてあって、それぞれ異なる時を刻んでいた。
 執務室に入った途端、川の流れの如くチクタクチクタクと耳に入る音は、どこか落ち着かない。けれど永続的に続くそれを雨音だと思えば、心地いいとも思える。
 そんな中、奥まった場所にあるのは、どっしりとした大きな机。
 横幅はベッドほどある重厚な机の上には、山ほど書類が重なっていた。資料なのか本が周囲に浮き、ペンが浮かび上がり書類にサインをする。
 世にも不思議な仕事風景の奥に、一人の男性がいた。
「あー……、悪い。今ちょっと手が離せなくて。そこ座っててくれるか? そこ」
 聞こえてきたのは、随分……緊張感のない声だった。
 生贄として呼び出した私には目もくれず、『彼』は眼鏡の奥にある目をじっと卓上の書類に向けていた。
 何やら考え、羽根ペンでサラサラと書いては書類を横に置き、また新しい書類を……。その間にも空中では別の仕事が行われている。
 同時に様々なことをこなせる人がいるのは知っているけれど、これは人知を超えているのかも。
「……お仕事、ですか?」
「そう。魔王って言っても、労働から解放された訳じゃないからな。逆に、民を楽に暮らさせるには、上が頑張らないといけない」
「はぁ……」
 また、私は間の抜けた声を出す。

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