【25話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

作品詳細

「……嫌われてるのかと思ってた」
 心底安堵したという言い方に、私は不覚にもキュウンとときめいてしまう。
「な、……何よ。だってあなたは私の夫でしょう?」
「『夫』も初めて聞いた。……何だ畜生。今日は天界で祭でもやってるのか」
 ……どうやら、いいことが続いていると言いたいらしい。
「……何よ本当に。だってあなた、強引に私をこっちの世界に連れてきて結婚させたじゃない。自分たちのこと夫婦だと思っていなかったの?」
「俺の片思いだって思ってたんだ。だってライラは、あの人間の王子が好きなのに横取りされたから、絶望していたんだろ? そこまで好きだったんだろ?」
 ぎゅう、と私を抱きしめたまま、ルーファスは拗ねたように言う。
 可愛い。
 つい、そう思った。
 同時に、自分がそこまであのシリル王子を好きだったのか、考えてしまった。
「確かに舞踏会の時は、一緒にダンスを踊れて凄く嬉しかったけど……」
「ダンス?」
 ガバッと顔を上げ、ルーファスは真剣に私を覗き込む。
「……じゃあ、俺と踊ろう。ライラ」
「えっ?」
 勢いのまま立たされ、ワルツのファーストポジションを取らされる。
 音楽がないじゃない。
 ──と思った途端、周囲の空中にフワッとヴァイオリンをはじめ、様々な楽器が現れた。
 ジャンッと最初の一音が華やかに奏でられると、奏者のいない楽器は、最高級の音色でワルツを奏で始めた。
「え……っ、えっ?」
 絶妙なリードでルーファスが一歩足を踏みだし、私も思わず最初の一歩を引いてしまう。
 そこから先はなし崩しで、宮廷楽団にも劣らない演奏の中、私はルーファスと二人だけのワルツを踊った。
 クルクル、クルクル。私たちが回る度に大きな魔鏡に私たちの姿が映る。
 奇しくもこの日着ていたドレスは瑠璃色で、あの舞踏会の日のドレスと似ている。
 赤い目がじっと私を見つめ、その視線に乗る愛しげな感情がむず痒い。
「俺を見ろ、ライラ。お前が今踊っているのは、俺だ。魔王ルーファスだ」
 ワルツという何気ない貴族の嗜みに、ルーファスが酷く嫉妬している。私の記憶に重ねがけをしそうなほど、ルーファスは熱烈に私を見つめ足を運ぶ。
 握り合った手も、肩甲骨の下に添えられた手も──熱い。
 彼の魔法なのか、回転する度に視界に映る魔鏡には大勢の着飾った紳士淑女たちがいた──ような気がする。
 鏡が見えるのは一瞬なので、彼らが人間なのか魔族なのか分からない。けれど全員が好意的な雰囲気で私たちのワルツを見つめている。
 魔法だとしても、まるで大舞踏会のホール中央で踊っているようになった私は、陶然としてルーファスに身を任せるのだった。
 そのようにして、魔法のワルツが煌びやかな一音と共に終わった。
「……は……」
 最後の一音が軽やかに鳴り終わった後、楽器たちは空中に煌めきながら溶けてゆく。その残滓が光の雨みたいに降り注ぐのを、私は高揚した気持ちのまま見上げていた。
「……これで、俺を好きになったか?」
「え?」
「俺の方が、あいつより一緒にいる思い出がある。──俺を好きになったか?」
 いつにない真剣な声と目。
 言葉は子供の縄張りごっこのようなのに、ルーファスは必死に私の愛を勝ち取ろうとしていた。
 その情熱に気圧されて、私は唇を開きかける。
「あなたのことは、もう好きになっている」と言いかけて──、唇がキュッと結ばれた。
 代わりに平坦な声が、可愛げのないことを言う。
「……今日の呪い、どうしようかしら」
 あああああ……! バカ!
 内心絶叫する私の横で、ルーファスも獰猛に唸った。
「……何でも叶えてやる」
 っはー! と大きな溜息をつき、ルーファスは暗鬱とした目で魔鏡を睨む。
 勃然と腕を組むその横顔をそっと盗み見して、私は心の中でルーファスに謝った。
 ──ごめんなさい。
 だって、まだあなたの真っ直ぐな気持ちに応えられる状態じゃない。
 私はまだどこか、初恋のシリル王子に未練を持っていた。
 そんな想いを残したまま結婚してしまったとは言え、真剣なルーファスの告白に答えるのも不誠実だ。
 どこか気まずい思いを持って、私も魔鏡に向き直る。
 魔鏡の中のクラリッサは、シリル王子と一緒に庭園を散歩していた。
 本当に……、何だかもう復讐したい気持ちは薄れてきたのに。
 今はただルーファスへの行き場のない想いをどうかしたいと思った私は、適当なことを口にした。
「ケガをしない程度に、軽く転んで」
 途端、魔鏡の中のクラリッサがベチャッと転んだ。
「…………」
 ほんの数日前なら、それで罪悪感と共に多少のスカッとした気持ちがあった。
 けれど今は何だかもう──。
 私の中は、ルーファスで一杯になっていた。

 ルーファスはまたいつも通りの彼に戻り、私だけがぎこちないまま一緒に夕食をとる。
 そしてその晩も、溺れるほど愛を囁かれ、私は快楽の中むせび泣いた。
 心の奥底で、彼に「ごめんなさい」と詫びながら──。

作品詳細

関連記事

  1. 【1話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  2. 【3話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  3. 【28話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  4. 【1話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  5. 【21話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  6. 【18話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  7. 【3話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  8. 【2話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  9. 【4話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。