【24話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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 いま鏡の中でクラリッサは、閨に入る前に身を清めている。
 どうやらこちらとあちらでは時間に差があるらしく、こちらでの夕方があちらの夕方に当たるとは限らなかった。
 湯船に浸かったクラリッサを、侍女が丁寧に洗っている。
「……あ、あんまり人妻の肌を見ちゃだめよ」
 彼の目にクラリッサがどう映っているのか気にして、私はそう注意する。
 けれど、彼の答えは簡潔だった。
「いや。俺、あの女相手だったら絶対勃たないから」
「言い方」
 どこかホッとしつつ、私はいつものように彼に突っ込む。
 正直、クラリッサは女性の私から見てもとても可愛いし、美しい。
 おまけに貴族という人前で肌を晒さない立場の女性の入浴シーン。男性だったら垂涎もののような気がして……いたんだけれど。
「……魅力を感じないの? あんなに抜けるような白い肌を見て」
「何も感じない」
「……あなた、どこか感覚が欠落しているのかしら?」
「不能か? って訊いてるんなら、毎晩勃ってるだろ」
「好みじゃない」と言われれば納得できる気がするけれど、「何も感じない」と言われると少し心配になってしまう。
 眉間にしわを寄せてルーファスを覗き込むと、「ん?」と眉を上げて私を見てからチュッとキスをしてきた。
「ちょっ……」
「隙あり」
 得意げな顔をして、ルーファスはペロリと赤い舌で唇を舐める。
「……も、もうっ」
「あー、怒ってる。可愛いなぁ、ライラは」
 ……この人、やっぱりどこか変なんだわ。
「私は酷い女だもの。何せ魔王の妻よ」
「おーおー、その意気だ。で、復讐はどうする?」
 適当に乗せている感じでルーファスは私の返答を待ち、復讐した後のベッドタイムの期待を隠さない。
「……じゃ、じゃあ。大きなニキビができてしまえばいいわ」
 ゴクリと唾を飲み込み、私は思い切り悪いことを言う。
 美白、美肌を第一にしている貴婦人にとって、吹き出物は大敵だ。
 私がそう言うや否や、気持ちよさそうに入浴しているクラリッサの頬に、プクンと赤く大きなニキビができあがった。
「…………」
 あまりにもそれが立派なものなので、私は自分が口にした呪いをすぐに後悔し始めた。
「あ、あの。やっぱり背中とか見えない所でいいのよ?」
「無理だ。もう呪いは成就された」
 興味なさそうに言うと、ルーファスは私をヒョイッと抱き上げる。
「ふぁあっ!?」
 驚いて変な声を出すと、そのままルーファスはスタスタと部屋を出る。
 私の視線の先で、魔鏡はフッと映していた映像を消してしまった。
「ちょっ……、ちょっと待って! やっぱり、あのっ」
「だーめ」
「アーッ!」
 性欲を制御できない魔王に連れ去られ、私は夕食前だというのにたっぷり愛された。

**

「……で、今日は何にする?」
 魔鏡の前に椅子を用意し、私はそこにやや疲れた表情で座っている。
 そんな私を覗き込むルーファスは、立ったまま肌をツヤツヤとさせていた。
 連日私は二人──主にクラリッサに呪いをかけ、ルーファスはそれを叶えてくれている。
 けれど如何せん私もそろそろネタが尽きてきて、この魔鏡の前で考え込む時間も長くなっていた。
 おまけにそれを口にしてしまえば、後はルーファスに腰が立たなくなるまで抱かれる、の繰り返しだ。
 日に日に私は体力をなくし、昼間も腰がだるくて横になっていることが多くなった。
「……私、そろそろやめようかしら」
 思わずそう呟くと、目の前でルーファスの表情は面白いほど絶望に彩られていく。
 スローモーションで目が見開かれ、口があんぐりと開いてゆく。
「……ナンデ?」
「だって、これ以上悪いこと思いつかないわ。私も知恵を絞りきったもの」
「じゃあ、俺が考えてやろうか?」
「嫌よ。ルーファスが考える復讐って、本当に血が出そうなもののような気がするし。人を不幸な目に遭わせるのと、ケガをさせるのはまったく別のことだわ」
 ──そもそもにして、人に呪いをかけて復讐している私が、お説教するなという話なんだけれど。
「……きょ、今日は何かあるだろ? それに二日に一回とかにすれば、思いつくかもしれないし」
 やけに必死なルーファスを、私はジロリと睨む。
「どうしてそんなに必死なの?」
 怒っているふりをして、本当は彼の答えを聞きたかったのかもしれない。
 私の心の底にある狡い感情に気付かず、ルーファスは真っ直ぐ私を見てキッパリと言う。
「俺はライラとやりたい。その口実が必要だ」
「……はー」
 ガックリと脱力したふりをし、私は俯いた顔でほんの少し笑った。
「……本当に仕方がないわね。あなた、魔王じゃなくて淫魔なんじゃないの?」
「…………」
 困ったように笑ってルーファスを見ると、何だか変な顔をしてボゥッと私を見ている。
「そんなに性欲が有り余って、今までどうしていたの?」
「ん?」と問い詰めるように彼を見て微笑んでも、ルーファスはモゴモゴしたまま顔を赤くしている。
「何よ?」
「……いや。ライラが俺に微笑みかけてくれたの、初めてだなって思って」
「……はぁ?」
 言っている意味が分からずキョトンとすると、ルーファスは立ったまま私を抱きしめてきた。

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