【23話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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 ──お願い。私を褒めないで。
 私を肯定しないで。
「連れて歩くにはいいんだろうな。……ああいう女は」
 クラリッサについては言葉少なに言うと、ルーファスは私を抱きしめて髪に鼻先を埋める。
「……けど、もう離さないけどな。お前は俺が奪った。……俺のもんだ」
 スゥッと肩口で息を吸い、ルーファスは私の香りを確認しているようだった。
「……狡いわよ。ルーファスは……何でも……」
 だだ甘に甘やかされ、快楽の海に突き落とされて。私はもうルーファスに逆らう気力を失っていた。
「惚れた女をただ幸せにする。それが男の甲斐性だよ」
 ──この人の『甲斐性』は、何て愛され甲斐がある言葉なんだろう。
 彼のような人に愛されたら絶対に幸せになれると分かっている。
 けれど、私にはこんな人に素直に愛される自信が、正直ない。
「……私は……。まだ、……復讐したい相手がいるもの」
 言い訳めいた言葉は、力ない。
 クラリッサや王子のことはまだ恨み、妬んでいるけれど、今はルーファスの圧倒的な愛情に色んなものが霞み始めている。
「心ゆくまで晴らせばいいんじゃないか? 付き合うさ。俺は魔王だしな」
「…………」
 そしてその醜い感情を、ルーファスは「悪い」と言わない。彼は私のすべてを肯定する。
「ま、それにライラの復讐を一つ叶えれば、俺が一回気持ちいい思いするだけだし」
「……復讐するの、やめようかしら」
「いいね、そういうトコ。感じる」
「……やめて。変態」

**

 翌日から、私の本格的な復讐が始まった。
 私は憎悪と怒りを抱えて魔界に来たんだから。それに魔王とも契約したのだから、ちゃんとその内容を充実させないといけない。
 うんっと酷い辱めをさせてやるんだから。
 そう思うものの、正直ルーファスからの身も心も溶けるような愛情を受けると、色々どうでもよくなっている自分がいる。
 けれど私の復讐心や憎悪、呪いで生贄に選ばれ、この世界に来たのなら──。
 ちゃんとそれを果たさないと。
 贅をこらした自室にいてもすぐに飽きてしまうので、私はルーファスの執務室にいることが多い。
 その中で楽しみを見いだしたのは、彼の趣味だという時計収集に関わること。
 世界中──魔界、人間界、果ては天界や他の世界から集めた、彼のコレクション。
 それを見て回ったり、ルーファスが「組み立ててみな」と与えてくれた部品を前に、よく考え込むことも多くなった。
 彼は時計の部品を無心で磨くのも好きらしく、実に地味な趣味だ。
 それもまた、ルーファスという魔王らしからぬ彼を形作っている一つだと思う。
 時計のことや、彼が暇つぶしにと用意してくれた人間界の本。
 美味しいお茶にお茶菓子。
 それに──、時々盗み見すると黒縁眼鏡をかけた彼が、やけに格好良く見える。
 彼を待っている時間が、なんだか気に入ってしまった。
 ベッドではあれだけねちっこい言葉を言って、私にかける愛情も底知れないものを見せるのに、仕事になるとルーファスはとてもドライだ。
 部屋中にある本や資料は、絶え間なく空中を浮かんで、すぐルーファスの手元にいくようになっている。
 一度集中すると、ルーファスは滅多に顔を上げない。
 黒縁眼鏡をかけた目も、死んだ魚のような状態でずっと書類に落とされている。だというのに、彼の手元は次から次に動いて書類をさばいてゆく。
 二、三十分に一回は、彼の部下という人たちが代わる代わる駆け込んでくる。
 どうにも上手くいかないことがあったり、ハプニングを持ち込むらしいけれど、ルーファスがそれで動揺することはない。
 持ち込まれた問題を冷静な目で見て、すぐに解決案を出す。
 その時も、やはりアクシデントを乗り越えたという感情の起伏はない。
「仕事、楽しい?」
 思わずそう尋ねてしまった。
 決まった時間になると、彼の時計が休憩時間を告げる。
 短い休憩を設けている彼は、私の声にコックリと一つ頷く。
「楽しいよ」
「……そうは見えないんだけれど」
「そうかな」
「……とても分かりづらいわ。自動人形を見ているみたい」
「ふぅん。……まぁ、ライラを抱いてる時の方が圧倒的に楽しいが」
「そろそろ休憩時間終わりじゃない?」
「あ、冷たい。感じた」
 そんな奇妙な会話も、大分慣れてきた。

**

「さて、今日はどんな復讐をしようかしら」
 あの大きな魔鏡の前に、私は罪悪感に後ろ髪を引かれながら立つ。
「昨日は『晩飯食べた後なのに、腹が鳴ればいい』だっけ?」
「ええ、そうよ。我ながら酷い復讐だわ」
 昨晩のクラリッサの様子を思い出し、私は身震いしてしまう。
 王宮の食事は豪勢で、王族や貴族が食べ終わった後の食事は、順次身分の高い使用人から下の使用人へと回されてゆく。
 満腹に食べてもなお余るという食事をとったばかりなのに、クラリッサは王子の前で地響きがするほどお腹を鳴らしたようだ。
 あの白い顔が真っ赤になり、青い目に涙が浮かぶ。
 シリル王子は半笑いになって、彼女を宥めていた。
 私だったら──、堪えられないかもしれない。

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