【22話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

作品詳細

 少しの沈黙のあと、ルーファスの手は私の髪をくしけずり始めた。
「綺麗な髪だな。薔薇の色だ」
「……それなりに、持て囃された髪だわ」
 ほんの少しだけ自負を込めて呟く。
 けれどすっかり魔王の手の中に堕ちてしまった私には、地上での賛美の言葉はずっと遠いものに思えた。
「もう他の男に褒められなくていい。俺だけがライラを褒める」
「……私を満足させられるの?」
 ちょっと意地悪な気持ちになって言えば、彼がニィッと笑って私を覗き込んできた。
「声出なくなるまでイかせてもいいんだぞ?」
「ちっ……、違うってば! そっちじゃない!」
 鎮まったはずの熱が、カァッと蘇ってきた。赤面して彼の胸板を叩く私を、ルーファスは無邪気に笑って抱きしめた。
「あーあ。可愛い。……手に入れられて良かったー」
 心の底からの言葉に、私はまた違う意味で頬を染める。
「……どうして私なの? 地上にはもっと女性がいるじゃない。それにわざわざ人間を選ばなくても、悪魔に素敵な人がいると思うわ」
 今更なことだと思うけれど、素朴な疑問だ。
 そう問うと、ルーファスは少しだけ真面目な顔をして教えてくれる。
「お前がいいんだ」
「……もう。答えになってないわ」
 眉間にしわを寄せてしかめっ面をすると、ルーファスにチュッとキスをされた。
「さっきの鏡あったろ」
「ええ、望むものを見られる魔鏡……よね?」
 クラリッサと王子さまを思い出した私は、少し後味が悪くなった。
 誰よりも愛というものを知っていそうなルーファスを前に、憎悪と呪いを抱えていた自分が情けなくなる。
「俺は時間のある時、あれで世界中を見ている。その中で人間界を儚み、今にも死を選びそうな奴や、この世に未練のなさそうな奴を探してる。そいつらを、色んな形でこっちに呼んでるんだ」
「スカウト?」
「そ、スカウト。まぁ人間は生贄とか言って、ちょっと魔法使ったらビビる生き物だしな」
「……性格が悪いわ」
 私は思わず眉をひそめる。
「仕方ないだろ。そうでもしなきゃ、人間は仲間を手放さない。家族とか、社交界の一員とか、貴族とか。もしくは村人とか町人とか。そういう群の中から、異端を出したくないんだよ」
「異端?」
「一人で生きるアウトローとかな。魔女とか呼ばれるただの草花大好きな知識人も、あいつらの手にかかれば異端だ。どれだけ辛い目に遭わされて死を選ぼうとしても、お得意の神の名の下に自殺は罪深いとされている」
「それは……確かにそうだけれど」
「周りに合わせてなぁなぁに生きてる奴より、そういう奴らの方がずっと専門的な仕事に向いてる。周囲と馴染めないのをこっちに呼んで、自由なやり方で生きていいって言われたら……。もいっちょ生きてみようって思わないか?」
「うーん……」
 色々学んで賢くなったつもりだけれど、ルーファスの言うことは私が今まで生きてきた中にない思想だ。
「死んだら大抵の奴は天に召される。ライバルの所にやるにゃ、惜しい人材だっている。それを含めて、俺はあの鏡で地上を見て回ってるんだ」
「私も……異端だったの?」
 聞きたいようで、あまり聞きたくないかもしれない。
 けれど私が今魔界でこうしているのは、ルーファスがスカウトするに値すると判断したということだ。
「お前、息をするのも苦しそうだった。すげぇ美人で誰よりも努力して、皆に認められるのが当たり前だったのに……。誰にも認められてなかったろ」
「…………」
 ──なんで、この人は私の心を見透かしてくるんだろう。
 真っ直ぐな言葉が刺さり、涙が零れてしまいそうになる。
「頑張って勉強したこと、誰よりも上手にできると思っていたこと。それを誰も『頑張ったな』って褒めてくれなかった。ライラは完璧であるのが当たり前に育ってた。悪いがそれは……とても歪んだことだよ」
 頭を優しく撫でられ、目の前で赤い瞳が哀れみを纏って私を見る。
「……だって」
 また、私の口から反論が出ようとする。
 プライドが高いから、自分が間違えていたと指摘されると否定したくなる。
 ──分かっているけれど──。
「ヒトだって悪魔だってな、頑張ったらその分褒められるのが当然なんだ。ライラがいい女なら、その分周囲が絶賛すべきだった。上っ面の言葉だけじゃなく、ライラに魅力を感じればそのまま口説けば良かった。そしたらお前はもっと自分に自信が持ててただろ」
 ──唇が、歪んで震える。
 脳裏に蘇るのは、私を「キツイ女」「悪役顔」と言っていた言葉たち。
「そんなの……っ。だって。私に魅力を感じない男性だっているわ」
「お前がいい女過ぎたから、野郎共は自分に引け目を感じてたに決まってるだろ。自分より立派な女を隣に歩かせるのが嫌だったから、声を掛けなかったんだ。そういうくだらない奴らのせいで、お前は今まで自尊心をどんどん低くしていった。勿体ない」
「ク……クラリッサみたいな女性が、本当はモテるんだもの」

作品詳細

関連記事

  1. 【19話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  2. 【5話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  3. 【2話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  4. 【4話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  5. 【17話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  6. 【52話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  7. 【3話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  8. 【23話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  9. 【5話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。