【2話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

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 そう叫ぼうと思った瞬間、私の体は異質なモノに包まれ──異界へと放り込まれた。
 すぐにドンッと体が硬い物の上に落ちた。
 けれどゲートをくぐり抜けた途中の、異界への通り道がとても気持ち悪かった。ヒトの世界にはないぐんにゃりとした空間。重力がどこかおかしく、上下左右が一瞬分からなくなる。
 その混乱も刹那の間だったけれど、強烈な不快感に私はお下品にも嘔吐えずいてしまっていた。
「おえぇっ、き……もちわるいっ、う……えぇっ」
「ご愁傷様でございます」
「は……」
 すぐ近くで冷静な声がしたものだから、私はまだ大司祭さまが側にいるのかと思った。
 文句を言ってやろうと顔を上げて──絶句する。
「あく……ま……」
 そこに立っていたのは、黒髪を撫でつけた執事風の──悪魔。
 悪魔と思ったのは、他でもない。彼の額から黒くねじれた角が二本生え、燕尾服の腰からヒュッとした悪魔の尻尾が生えていたからだ。
 けれど見た目は……角と羽と尻尾さえなければ、ごく普通の人間に見える。
 特に肌が青いとか黒い、赤いでもない。目だって白目がなくて真っ黒とか、真っ赤とかではなく、さっきの大司祭さまと似た青い目をしている。
 私が考えていた恐ろしい『悪魔』の姿ではない。
 半ば呆けて彼を見上げていると、彼はひとつ小首を傾げてから手を差し出してきた。
「お手をどうぞレディ・ライラ・アシュバートン。ようこそ魔王陛下の城へ。わたくしは執事のバーナードと申します」
 理性ある人間と同様に自己紹介をした彼は、ヒトで言えば三十代半ばから四十代ほどに見える。
 しかし悪魔である彼が、外見通りの年齢である保証はない。
「門に慣れないヒトには、アレの通り具合はお体に障ると思います。まだ頭痛や立ちくらみ、嘔吐感などあると思いますので……。もし良ければあちらにお座りになって、お休みください。魔王陛下への謁見はその後でも構いません」
 バーナードさんが指し示した方には、ソファがある。それも、とても趣味のいい物だ。私の屋敷や王宮にあるような物と、なんら変わりのない上等な織物のソファ。
 私が今いる場所は丁度廊下が交差したあたりだけれども、その部分だけ円形の広間のようになっていた。円を取り囲むようにソファがあり、その後ろには水路と花壇がある。
 廊下と言っても壁に囲まれているでなく、廊下の向こうは広々とした空間が広がっていた。空中回廊──と言えばいいのだろうか。
 遠くにバーナードさんと似た、羽の生えた悪魔が歩いているのが見えた。悪魔の城は静寂に包まれていて、けれどその中は人……いいえ、悪魔が活動している。
 私がいる円形広間の中央に、くぐってきた門がある作りなのだろう。
 ハッとして振り向き確認したが、そこに人間界へ戻る門はなかった。
 悪魔がいる異界といえば、勝手な想像をしていた。
 骨が浮いている沼。血や臓物などが飛散し、鴉みたいに死骸をつつく生き物が跋扈ばっこするような──。空は常に夜か血色の黄昏で、空気だって血臭がしてヌッと生ぬるい……。
 そんな風景をイメージしていたけれども……、これはどういうことか。
 パッと見、目に入る風景は贅をこらした内装の城。
 赤い絨毯が通路を続き、壁際には趣味のいい風景画や人物画──けれどそれは悪魔の姿であるようだが──が掛けられてある。
 甲冑が飾られてあり、細部に美しい装飾が施された彫刻こそは、神や女神という訳にはいかないらしく、立派な角と羽が生えた悪魔のものだ。
 花瓶にお花が生けられてあるのも、意外と言えば意外……。
 遠くにある大きな窓の外には、整えられた庭園が見える。そこを人間の貴族と似た格好をした悪魔が歩いていた。
 空は──青かった。
 バーナードさんの手を借りてソファに座ると、ほんの少し気持ちが落ち着いた気がした。
「ここが本当に……、魔王が住む城なの……なんですか?」
 半ば呆けて尋ねる。
 バーナードさんは友好的に思えた。
 けれど彼は悪魔なので、下手に怒らせるとどうなるか分からない。
 私はなるべく、下手したてに出た。
「ええ、現魔王ルーファスさまが治める、魔王城でございます。現在は悪魔紅玉ルビー歴一五二一年。現在の魔王陛下が治められてからの、新暦が続いております平和な世です」
「は……、はぁ……」

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