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【9話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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(まぁ、隣国の一介の貴族でしかない私でも、粛清三昧で恨みを買いまくっていることを知る程だもの、自分の身を守るために鍛えていたっておかしくはないわ)
 皇帝陛下はその感情の読めない顔で私をじっと見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「そなたにはひどいことをしたと思っている」
「……滅相もございません」
「だが、婚約者がいたのであろう」
「親の決めた相手ですから、より上位の方に求められれば、それに従うまででございます」
 さすがに皇帝陛下に向かって「元凶のお前が言うな」とは言えない。けれど、私の答えに、皇帝陛下が少しばかり眉間に皺を寄せたように見えた。
(まさか、不興を買うような答えだったとか……?)
 この国の貴族令嬢としては満点に近い受け答えのはずだ。ただ家長の方針に従い、嫁ぐのが当然とされているのだから。帝国では求められる令嬢像が全く異なるからとか言いませんよね? 連座でうちの家族が粛清されることはありませんよね……?
「そのように畏まることはない。素のままで話して構わぬ。この度のことで不満の一つもあろう」
 だったらこの話をナシにしてもらいたい、と言ったところで無理なんだろうなぁ。もう婚約解消ということで話は動いてしまっているし。
「あの、お伺いしても……?」
「なんだ」
「どうして、私だったのでしょうか」
 不満というわけではないが、これだけは聞いておきたい。だって、全く分からないもの。
「あぁ、一目惚れ、という言葉では足りぬか」
「自分の容姿については重々承知しておりますから。それに国の第一位の方ともなれば、その隣に立つ者が散財癖を持っていたり、権力を思うままに振るう悪女であったりするのは問題なのではございませんか?」
 不敬上等。そんな思いで諫言かんげんのような質問を重ねてぶつけると、皇帝陛下の目元が少しだけ緩んだような気がした。
「それは問題ない。昨晩のパーティーの折り、そなたの評判について配下に探らせた。可もなく不可もない平均的な令嬢との報告が上がっている」
「で、ですが、人は過ぎた力を持てば変わってしまうものです」
「なおさら問題ない。その程度を制御できずに、皇帝などやってはおれぬ」
 どんな自信家だ、と思わず白目を剥きたくなった。いや、自信はあるんだろう。皇帝という地位で采配を振るうようになってから数年が経ち、近隣諸国はその手腕を認めていると聞く。もちろん、粛清しまくった『冷血皇帝』のイメージは拭いきれないけれど、爛熟して腐り落ちそうだった帝国に新しい風を吹き込んで再生させたのもまた事実。
「余の心がそなたを望んだ。それだけでは不服か?」
「……畏れ多いことでございます」
 これ以上、どうやって皇帝陛下の一目惚れという名の勘違いを正したらいいのか方策を考えられず、私は俯いた。だが、目の前の人はそれを許してはくれないらしい。
「地位ではない、余を見よ」
 皇帝陛下の指が私の顎を捉え、上を向かせる。自然と至近距離で皇帝陛下の美貌を拝むことになってしまって、胸が騒いだ。
(目鼻立ちはくっきりとして整っているし、睫も長いし、あー、この顔の隣に並ぶとか考えただけで無理……)
「何を考えている?」
「いえ……」
 まさか皇帝陛下の美貌にげんなりしてました、なんて言えるはずもない。私は言葉を濁す。
「余はそなたを守る。それがそなたを望んだ余の責任だ。だから、余の隣に立ってはくれまいか」
 皇帝陛下の瞳が熱を持つのが分かった。けれど、その提案に頷いていいものか、と理性が警鐘を鳴らす。すると、私の迷いを感じ取ったのだろう。皇帝陛下はあろうことか、私の手を取り、片膝をついた。
「カティア・シュナーベル嬢。余の全てでそなたの心を守り、愛し抜くことを誓う。どうか余の隣に立ってはくれないだろうか」
「こ、皇帝陛下、畏れ多いです! 私なんかに膝をつかないでください」
 こんな所を誰かに見られたら……って、案内の人には確実に見られてるわよね。って、いつの間にかいなくなってるし! 人払いされてるの? 犯人はもちろん目の前の人よね?
「皇帝陛下ではない、クリストフ、だ」
「いえ、ですから、その……」
「クリストフ」
「……クリストフ、陛下」
「クリストフ」
「クリストフ様、本当に、お召し物が汚れますから……っ」
 勘弁して欲しい。そんな熱い目で懇願されたら、さすがに心も揺らぐ。平々凡々で平穏な人生と、誰かに愛される人生を秤にかけてしまう。
「仕方ない。呼び捨てはいつかに取っておくとしよう」
(とてもそんな日が来るとは思えません!)
 皇帝陛下は慣れた様子で私の手の甲に唇を寄せる。薄い手袋越しに彼の唇の温度を感じてしまい、心臓が壊れそうになった。
 ようやく立ち上がってくれた皇帝陛下は、私の手を離さないまま「あちらの花も盛りと聞いた」と歩き出す。エスコートされている以上、私も隣で歩かなければならないのだけど、正直、緊張で手が震えそうだった。

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