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【4話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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 ハンネス様の優しさに感謝しつつ、列席者の中で位の低い私たちは、王族や高位貴族が踊らなくなってきたタイミングでさりげなくダンスを披露した。もちろん、注目なんて浴びるはずもない。そこからは予定通りに私は壁の花に。
(言いがかりとかをつけられないよう、ちょっと様子見をしておくべきよね)
 壁に馴染みつつ、軽食スペースをチラチラ確認する。やはり高位貴族はがっつかないのか、そこにはまだ誰もいない。チャンスに思えてしまうかもしれないが、誰もいないところへ行けば、自然と目立ってしまうだろう。それだけは避けなければ。
 軽食スペースに人が来ない理由は簡単だ。誰もが帝国の視察団と、何より冷血皇帝に少しでもアピールをしたいのだ。望みが叶って話しかけることができている人はいるが、周囲で話が一段落するのを待っている人がその三倍はいる。
(だいたい、冷血皇帝にアピールするって言ったって、全員ができるわけがないじゃない。ちょっと考えれば分かるでしょ?)
 よほどツテがある人、権力を持つ人でなければ話もできないだろう。待っている人はそれが分からないんだろうか。いや、分かっていても、微かな可能性にかけているんだろうなぁ。特にご令嬢の中には「少しでも目を向けさせれば、私の魅力を分かってくれるはず……!」なんて謎の自信を持っている人もいるようだし。
(やっぱり権力を持つ人は大変よね)
 私は先程から真面目くさった顔でニコリとも笑わない冷血皇帝を見た。頭がキレる方のようだから、自分が獲物になっていることも理解しているんだろう。それでも国同士の関係を悪くするわけにはいかないから、話しかけてくる人を無下にできないんだろうな。本当に大変だ。
 そんなことを思っていただけなのに。
(……!?)
 冷血皇帝と視線が交わった。その瞬間、彼の藍色の瞳が少しだけ大きく見開かれたような気がした。
(って、何をバカなことを考えているのよ)
 この距離で、壁の花になっている私なんかと視線が合うわけがない。何かの弾みでこちらを向いて、一生懸命アピールしている周囲の誰かが彼を驚かせるようなことを言ったに違いない。――――だというのに。
(どうして視線が動かないわけ……?)
 あの冷血皇帝に見られている、という可能性に、私の背筋がひんやりと凍るように冷たくなっていく。不快に滲む冷たい汗で、シルクの手袋が肌にはりつくようだった。扇を持つ手も情けなく震えている。
(いえ、気のせいよ。偶然よ。他に何か気を引くようなものがこちらの方向にあったに違いないわ)
 もしかしたら、こうして冷血皇帝を見つめ続けてしまっていることも不敬にあたるかもしれない。そういう考えに至った私は、何とか視線を冷血皇帝から引き剥がした。不思議なことにそうやって強い意志を持って動かなければ、ずっと彼を見つめてしまっていただろう。もしかして、これが皇帝のカリスマというやつだろうか。だとしたら、是非とも我がビンデルの国王陛下にも兼ね備えてもらいたい。どこか神経質で景気の悪そうな表情ばかり見せている国王陛下も見習ってくれると、他国へのはったりもきかせやすいだろう。
 現実逃避するように考え事をしながら、私は上手く柱と人影を使って冷血皇帝の視線から逃れる。不必要にドキドキと激しくなってしまった鼓動を何とか宥めつつ、中央から見えない位置をキープしながら周囲をそっと伺う。自分の動きが不審に見えないかと気になったが、誰も私のことなんか見ていない。うん大丈夫だ。
(まさか、私にもプリンセス願望なんていう可愛らしいものがあったのかしら?)
 前世らしき夢を見るようになってからは、絶対に平々凡々な伴侶を見つけて程々の幸せで満足するんだと心に決めていたのに。
(バカね。これは現実よ。万が一にでもありえないけれど、素敵な王子様を見つけたところで『そして二人は幸せに暮らしました』なんて無理な話に決まってるじゃない)
 素敵な王子様に恋い焦がれたところで、そう思っているのは自分だけじゃない。運良くその隣の座をゲットしたところで、その場所を狙っている他の女に足を引っ張られないように常に気を張ってなければいけないし、王子様が他の女を見ないように自分を磨き続けなければならない。迂闊にも嫉妬心にかられてやったアレコレを追及されて転落したのが前世の私だ。だから、私は絶対に王子様の隣なんて目指さないし、皇帝なんて問題外だ。平穏無事に孫に囲まれた老後を迎えたい。
「カティア嬢?」
「あ、っ、はい、ハンネス様」
 前世を思い出しながら決意を新たにしていたせいで、私は隣に婚約者様が戻ってきたことに気付かなかった。
「必要な挨拶は済ませてきたよ。それで、なんだけど」
「え、えぇ」
 ハンネス様が少し困ったような表情を浮かべていた。何だろうか。何か困ったことでもあったんだろうか。
「どうにも高位貴族ばかりで居心地が悪くてね。予定より少し早いけれど、もう帰ろうかと思うんだ」
「あら……、そう、ですわね。私も知った顔がほとんどおりませんし」

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