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【38話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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「志を同じくする側近を見出し、説得して味方につけるところから始めた。反発する一部の貴族は文字通り切り捨てることもした。それでも一気に粛清を押し進めれば近隣諸国に弱みを見せてしまうことになる。多少の蜜をちらつかせて時間を稼ぐこともあった。父は肉欲に溺れ、子どもばかりをぽこぽこと生ませていたから、余の蛮行に反発する貴族を後ろ盾に反旗を翻す弟妹をも切り捨てざるをえなかった。だから、帝位についたときには、余の手はすっかり血に塗れてしまっていた」
 私はじっとクリストフ様の顔を見つめた。泣くわけでもない、淡々と語っているだけなのに、彼が迷子になってしまった子どものように錯覚してしまう。
「民たちは公明正大な政を掲げる余を支持してくれていた。だからこそ、これで良かったのだと思うことができたのに、すぐにそれが幻想だと思い知らされた。彼らは自分に都合の良いことしか見ないのだ。公共設備の設立維持管理、必要なところに税金を割り振っているのに、まったく生活が楽にならないと騒ぎ立てる。治安維持のための騎士がいなくなったら、経済を回すための街道が整備されなくなったら、なんて考えてもいない。中央から遠く離れた場所を治める貴族たちと意見を交わすためにも、夜会は必要だ。それすら民からは贅沢だと突き上げられ、それを宥めて何とか場を設ければ、貴族たちからは恐怖の眼差しで遠巻きに見られる。――――これが余の望んだものなのかと、側近がいなければ気が狂っていたかもしれぬ」
 私はクリストフ様の手を取ると、そっと頬ずりをした。たとえこの手が血塗られていたとしても、それがこの国をより良くしてきたのなら、厭うことなどない、と伝えたかった。
「側近は余の心が膿んでいたことを悟っていたのかもしれぬ。だからこそ、国を少し離れて気分転換するようにと送り出された。――――まさか、そこでそなたを見出すとは思わなかった」
「クリストフ様」
 ゆっくりとおりてきた唇が、私の額に触れる。
「私は、今でこそ王族の扱いを受けていますが、下位貴族の生まれです。それに、前世での所業を反面教師として、権力から遠ざかろう、逃げようとしていました。そんな私では――――」
「構わぬ」
「それに、母国ビンデルでは、貴族の令嬢が政治に口を出すことなどもってのほかとされていました。私がクリストフ様の隣にあってもお役に立てるとはとても思えません」
「構わぬ。前世で王の隣に立つ心構えは散々教え込まれていただろう。それに、母国の考えに染まらず知識も蓄えていただろう? そうでなければ、ここへ来る途中の馬車の中で、あのような会話はできぬ」
 私は目を閉じて考えた。もしここで、クリストフ様が単に「癒やし」として隣に居てほしいと願うなら、それでいいと思っていた。けれど、隣に立つことも望まれている。ならば、私はそれに応えよう。前世からずっと想い続けてくれた貴方のために。
「分かりました。クリストフ様、今度こそ、私を守ってくださいますか?」
「もちろんだ……!」
 痛いほど強く抱きしめられる。少し苦しかったけれど、それだけ求められているのだと知って、私も彼の胸にしがみつくようにくっついた。
「カティア」
「クリストフ様……」
 私たちは唇を重ね、吐息を混じり合わせた。それはまるで、二度と離れることのないようにと祈るように。

◆―――――――◆―――――――◆

「お母様……!」
 懐かしいその顔に、私は思わず抱きつきに行きそうになった。慌てたステファニーに止められなければ、大惨事になっていたに違いない。何しろ私は着替えと化粧と髪結いが同時進行な状態なのだから。
「あらあら、ちょっとだけ顔を見に来たのだけれど、お邪魔になってしまったかしら」
 表向きは王女となってしまっているため、今日のこの晴れの日を近くで祝福することは叶わない。そう思っていた私のために、クリストフ様が尽力して私の両親を呼んでくださったのだ。
 クルッグ侯爵に脅迫材料にされたなんて露程も知らないお母様は「そそっかしい娘で申し訳ないわ」と女官たち――特に私を止めたステファニーに謝っていた。
「お父様は?」
「さすがに花嫁の準備中に男性を入れるわけにはいかないから、外で待っているわ。ふふ……あの人ったら、式に列席される方々がやんごとない身分の方ばかりだからって、かちんこちんに緊張してしまっているのよ」
 そう。今日は私とクリストフ様の結婚の儀なのだ。皇帝という立場上、どうしても諸方への通知やら根回しやら、厳格な式をつつがなく終えるために様々な準備があって、私が帝国へ来てから半年以上の月日が流れてしまっている。それでも、異例と言える早さで式にこぎつけたのだから、それだけ愛されているという証左なのだという言は側近のナヴィル様のセリフだ。
「みんなは変わりない?」
「えぇ、私たち二人しか出席できないことを残念がっていたわ。でも、帝都には一緒に来ているの。お披露目で帝都を馬車で回るんですってね。アンドレアス広場、というところに場所をとってもらったから、そこで待っているそうよ」
「そういえば、一部の豪商や貴族のために席を設けるという話だったわ。……うん、私もみんなを探して手を振るわね」
「あらあら、帝妃として問題発言よ。ちゃんと平等に挨拶をしなきゃいけないわ」
「でも、家族を思うのは普通でしょ? 大丈夫、バレないようにするから」
「あらあら」

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