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【35話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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「あの、事後処理で忙しかったのではありませんか?」
 だからこそ、帝城に到着してから夕食を共にすることもできず、姿を見かけないのも仕方ないと思っていたのに。
「手筈通りにいったからな。小者は他の者に任せてきたし、それ以外は処断の書類に余がサインするだけで事足りる」
「あの、男の人は――――」
「あぁ、帰りの馬車でも気にしていたな。余が罰したある男爵家の生き残りだ。当時は年齢を鑑みて親類に引き取らせたのだが、阿呆にあることないこと囁かれて、そそのかされたようだ」
 あぁ、やっぱり、と私はため息をついた。せっかく生き延びたというのに、こうなってしまったら、おそらく二度目の温情はないだろう。いや、クリストフ様の対外的なイメージを損なわないよう、むしろ厳しく処罰されるはずだ。
(だから、こうやって人を狂わせる権力が嫌いなのよ……)
 そんな私の気持ちに気がついたのだろう。クリストフ様が予想外なことを提案してきた。
「あの男を助けたいのか?」
「……更生する道があると思ったのです。でも、クリストフ様のお立場を考えれば、難しいでしょう?」
「そうだな、余は許すことはできぬ」
「……」
「だが、そなたが許すことはできるぞ?」
「え? どういうことですか?」
「新しく帝妃となるそなたが、温情をかけることはできる。もちろん、限度はあるがな」
 思わぬ提案に、私は目を瞬いてしまった。だけど、クリストフ様の表情を見れば、嘘でも何でもないことが分かる。
「本当に、よろしいのですか?」
「そなたが望むなら。あぁ、だが浮気はだめだぞ?」
「そういうのではありません! ただ……、たとえ罪を犯したのであっても、彼にとってはかけがえのない家族だったのだと思ったら、その復讐を考えてしまうのも仕方がないのかと、そう思えてしまって」
「あの男も随分と反省しているようだったからな。死罪でも強制労働でも構わない。罪を償いたいと落ち着いた様子で話していたと聞いている」
「ありがとうございます……!」
「まぁ、そなたが笑顔を浮かべてくれるなら、余も満足だ。そなたを守るために動いたのだからな」
 あぁ、まだ、この人は。
 クリストフ様の口にした「守る」という言葉に、私は嘆息した。
「そんなに、前世でソーニャを守れなかったことを気に病まなくていいんですよ、デニスブラント様
「いや、気に病んでいるということはなく…………今、なんと?」
「デニス・ブラント様、と呼びました」
 私が再びその名前で呼ぶと、クリストフ様の顔がみるみる赤く染まっていった。なんだか、すごく貴重なものを見ている気がする。
「いつ、から……」
「違和感は、帝城に到着した頃からありました。そうではないかと確信したのは、前世の……ソーニャが死んだときの夢を見たときです。だから、確かめるために一度、クリストフ様に確認をとりました」
「確認?」
「はい。もっとにこやかにしなさい、と言ったときのことを覚えていますか?」
「あ……あぁ、そうか、そうだな。余としたことが、うっかり答えてしまっていたな」
――――そう、クリストフ様の前世は、ソーニャを婚約破棄した王太子殿下ではなく、よく護衛をしていた騎士だったのだ。
「それに、コルネリウス殿下にしては、その……愛情が深過ぎる印象もありましたし。前世の贖罪にしても、えぇと、やり過ぎかな、と」
「そうか? だが、ソーニャは殿下を愛していただろう?」
 思わぬ問いかけに、私は目を丸くしてしまった。前世でソーニャがコルネリウスを愛していたかと問われれば――――
「違います」
 こういう答えしかできない。なのに、クリストフ様は逆に驚いていた。もしかして、気付いていなかったのだろうか。だとしたら、ソーニャの言動が分かりにくかったからだろう。
「ソーニャが愛していたのは、自分を王太子妃にしてくれるコルネリウス殿下の地位ですわ。そこは政争に負け、婚約破棄されたソーニャを領地に押し込めた挙げ句、少しでも地位を挽回するべく、娘を内々に殺して同情を買おうとした父に似ていましたけど」
「……思い出したのか、いや、夢で見てしまったのだな」
「そうですね。おそらく、あれが最期の記憶だったのだと思います」
 私は、そっと自分の胸に手を当てる。あの想いは前世の記憶だったけれど、それが本当の気持ちだということは私もよく分かっている。
「ソーニャは、一緒に逃げようと言ってくれたことが、本当に嬉しくて、けれど彼女自身の運命に巻き込んでしまったことを、本当に申し訳なく想っていました」
「違う。それは余が無理矢理そなたを……デニスがソーニャを強引に抱いたからだ。だからこそ、ソーニャがあのように追われることに」
 私は首を横に振った。
「違います。遅かれ早かれ、ソーニャは父に始末されていたでしょう。確かにデニス様と通じていたことで、あのような暴力的な手段にはなりました。ですが、何もなくとも行く当てもない娘を飼っておくほど広い心の持ち主ではありませんでした。おそらく、毒殺することも考えていたでしょう」

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