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【34話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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「なぜっ! 陛下は直轄領へ向かわれた筈では……」
「こんな見え見えの手に引っかかると思うほうがおかしいだろう。ことごとく帝城の狐狸妖怪どもを駆逐したせいで、お前の勘が鈍ったのか? 五年前のお前であれば、こんな短絡的な手段はとらなかったろうに」
「なぜ、この場所だと」
「お前はカティアについた女官の弱みをついて、脅迫し手引きさせたと思っているだろうがな。その女官はそもそも余の忠実な配下だ。屈するわけがない」
 ぞくり、と肌が粟立った。クルッグ侯爵を睥睨するクリストフ様は、私の知るクリストフ様ではなかった。容貌だけが同じ、全く別の生き物にしか見えない。けれど、これが『冷血皇帝』と呼ばれるクリストフ様なのだろう。
「余のカティアにも同じ手を使ってくれたな。居もしない人質をでっちあげ、よくもいたぶってくれたものだ」
 クリストフ様が、先程まで男が持っていた剣を拾い上げる。その刃を確認すると、なんのてらいもなくクルッグ侯爵に向けた。
「こちらとしては、残しておいたお前に群がった小物を一網打尽にできて幸いだがな」
 剣の切っ先がクルッグ侯爵の整えられた顎髭を撫でる。はらはらと糸くずのように舞い落ちる髭に、クリストフ様の本気を感じた。
「ここで切り捨てたいのは山々だが、生憎私刑をするのは禁じていてな。大人しく法の裁きを受けよ。――――連れて行け」
 クリストフ様の声に従い、やって来ていた騎士たちが、侯爵と男を連れて出て行く。部屋に残されたのは私とクリストフ様だけになってしまった。男を連行していくナヴィル様が去り際にウィンクしてきたのは「気を利かせたよ」ってことなのだろうけど、ごめんなさい、今のクリストフ様はちょっと怖いです。
「カティア、……すまない」
「いいえ、来てくださると信じていましたから」
 種明かしをしてしまえば、私を囮にしてクルッグ侯爵を捕縛するという計画を事前に聞いていたのだ。もちろん、怖かった。けれど、クリストフ様のお役に立てたらとも思ったし、目が覚めてからは、あの男の行動に反発と同情をして、つい、口が過ぎてしまった。
「カティア、カティア……」
 クリストフ様が、私の手首を戒めていた縄を切ると、そのままぎゅうっと抱きしめてきた。私も「信じていた」と言いつつ、やっぱり緊張していたのだと思う。彼の体温を感じると、膝がかくりと折れて座り込んでしまいそうになった。
「今度こそ守ると口にしたのに、こんな役回りをさせて済まなかった」
「ふふ、クリストフ様は最後まで反対されていたじゃないですか」
「だが、最終的に決断したのは余だ」
 私を囮にするという案を出したのは、ニノ様だ。あの優しげな眼鏡の奥で、とんだ鬼畜な計画を立てるものだと白目を剥きそうになったことは内緒だ。でも、クリストフ様は私に甘過ぎるところがあるから、ああいう方がいると逆に安心する。イエスマンだけでは問題あるものね。
「さぁ、こんなところに長居は無用だ。帝城へ戻ろう」
「はい。……あっ」
「どうした?」
 私の腰に手を回してエスコートしてくれるクリストフ様に、大変申し訳ないことを言わなければならない。
「あの……」
 うぅ、恥ずかしい。
「ちょっと、気が抜けてしまったみたいで、足が震えてうまく歩けないので、ちょっと待ってもらってもいいでしょうか?」
 あれだけ勢いよく啖呵を切っていたのに、どうしてこう締まらないんだろう。なんていうか、自分の残念さに泣けてくる。
「待つ必要はない。こうすればよいだろう?」
 ふわり、と浮遊感を感じる。クリストフ様に抱き上げられてしまったのだと気付いた私は、慌てて彼の胸元にしがみついた。
「だ、だめです。私、重いですから!」
「あぁ、重いな。そなたの存在そのものが、余にしか抱き上げられない程に重い。だから、この重みを感じさせてくれ」
 クリストフ様のセリフに、私の頬がかぁっと熱くなる。重いって言われたこと以上に、赤面するようなセリフ回しに、とにかく恥ずかしくなってしまう。
「お、下ろしてくださいっ」
「断る」
 そんなやりとりをしている私たちを、騎士たちが生温かい目で見ていたことに気付いたのは、帝城に向けて馬車が走り始めてからのことだった。

◆―――――――◆―――――――◆

「――――落ち着いたか?」
「うぅ……、はい」
 帝城に無事に帰り着いた私は、医者に全身をチェックされ、軽く夕食をとり、ゆっくりと湯浴みをさせてもらった。女官たちには心配をかけたようで、特にステファニーは私の手首に残る縄の擦り傷に顔を青くしたり怒りで真っ赤にしたりと忙しなかった。
 そして何故か、向こう側が透けてしまいそうな程薄い夜着に着せ替えられ、寝室に放り込まれた。……と思ったら、すぐにクリストフ様がやってきたので、思わず悲鳴を上げてしまったのだ。だって、この夜着、本当に透けてて、全裸よりも恥ずかしいんだもの。ちなみに今はクリストフ様の羽織っていたロングケープを上に引っかけて身体を隠している。

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