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【3話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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 そうこう考えているうちに、ハンネス様が言った通り、奥の扉が開き、年嵩としかさの貴族に先導されるようにして隣国の視察団が姿を現した。
(……って、先導しているのは宰相閣下じゃない? 私だって何度か見たことがあるわよ。そんな方が案内役につくなんて――――)
「まぁ、あの方は……」
「視察団に交ざっていらっしゃるというのは本当でしたのね」
 ざわつく貴族たちの囁きを耳にして、私は視察団をもう一度よく確認する。そして、すぐに気がついた。
「ハンネス様、あの御方は……」
「あぁ、驚きましたね。僕も絵姿でしか存じ上げないのですが」
 そう、登場した視察団の中で、一際目立つ男性がいたのだ。光を束ねたような金髪を首の後ろにまとめており、整った顔のパーツは精巧に作られた人形のように温度を感じさせない。サファイアの瞳は大広間の灯りに照らされてもなお深い理知の色に沈んでいた。確かに容姿が優れているが、そういうことではない。何というか、その男性がいる場所だけ空気が違う。それぐらいに目を引く存在だった。
 周囲でひそひそと囁き交わされる会話から、彼が何者なのかという情報はすぐに拾い取れた。
(あれが、クリストフ皇帝陛下……!)
 隣国の冷血皇帝だというその人をもう一度見て、私はようやく高位貴族ばかり集められたこのパーティーの意図に気付いた。いや、我が家は共同事業に噛んでるってだけで違うけど。
 大規模な粛清をしまくっただけあって、冷血皇帝クリストフには未だ伴侶どころか婚約者もいない。帝国の貴族はよほど後ろ暗いことがあるのか、婚約者候補として手を挙げただけで、あちこち痛い腹も痛くない腹もほじくられて領地没収だの左遷だのされてしまうと思っているようだ。我が国としては、友好の証に高位貴族の令嬢をうまく送り込みたいというところなんだろう。今なら帝妃として隣に立つのも夢ではない。
 視察団に続くようにやってきた国王陛下が帝国との街道敷設事業の有益性などを口にし、パーティーの開始を告げるのを聞き流しながら、私はなぜか冷血皇帝から目が離せないでいた。
「カティア嬢、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありませんわ」
 金髪に藍色の瞳という組み合わせは、夢で私を断罪した婚約者――元婚約者を思い出させる。顔の作りまでは似ていないけれど、彼を視界に入れているだけで、胃の辺りがすぅっと冷えていくような居心地の悪さを感じていた。扇で口元を隠し、ため息をついて不快感をやり過ごす。
 何とか自分の視線を隣のハンネス様に戻すと、彼は心配そうに私を見つめていた。
「やはりカティア嬢も容姿と地位に見惚れてしまいますか」
「婚約者の前で肯定したら、浮気になってしまうのではないかしら。目の保養にはなりますけど、あちらのご令嬢方のようには振る舞う気はありませんわ」
 ハンネス様に「ご覧になって」と扇で指し示した先には、それこそ獲物を狩る目をした令嬢方と、それを後押しするかのように強い目を向ける保護者たちがいた。噂に聞く冷血皇帝がそう易々と狩られるとは思えないけれど、隣国まで来てこれでは、ご愁傷様と言いたくなる。それとも、それを折り込み済みでやって来たのかしら。自国では見つからない伴侶を探しに。
(それでも、下手に権力があると大変そうね)
 そう、私は決めたのだ。平凡かつ安定した一生を送るのだと。だから、あの令嬢方のようにギラギラせず、その様子を隣の婚約者と眺めながらこのパーティーも過ごすのだ。
「最初のダンスは身分の高い方だけが踊るのでしたよね?」
「あぁ、ここでは陛下と妃殿下、もしかしたら皇帝陛下も踊るかもしれませんが、下手なパートナーとは踊れないだろうから、おそらく断るでしょうね」
 私は念のためにパーティーの作法を確認するというおバカな子を装いつつ、列席者をざっと確認した。正直、うっかり粗相もできない高位貴族ばかりが目につくので、ハンネス様と二人で通行のお邪魔にならない壁際に逃げておきたい。だけど、少し離れた場所に設けられている軽食スペースが気になるのもまた事実。困った。けれど、高位貴族の口にするようなものだから、きっと美味しいに違いない。
「カティア嬢?」
「申し訳ありません。少し、緊張しているようなのです。今日はずっと隣に……というのは難しいですよね」
「そうですね。正直なところ、僕も付き合いのある方々へ挨拶をしなければなりませんし」
「えぇ、ハンネス様の足手まといになるのは心苦しいです。ですから、ダンスが終わった後は、あのあたりの壁でひっそりとパーティーの様子を眺めていようかと」
 私が指し示したのは、軽食スペースにほど近い壁だ。さすがにあからさまに軽食を食べるとは言いにくい。
「そうですね。僕も一通りの挨拶が終わればすぐに迎えに行きます」
「ありがとうございます」

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