• HOME
  • 毎日無料
  • 【28話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

【28話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

作品詳細

「こちらがクリス様に着けさせようとしていたブレスレットですか……あぁ、これは見覚えがありますね。同じ仕組みの物を随分と昔に贈られた覚えがあります」
 淡々とおっしゃっているけれど、それはニノ様も毒殺されそうになったということではないだろうか。怖くて聞けないけれど、たぶん推測は間違っていないのだろう。
「やっぱりあのデブ、残すべきじゃなかったんじゃない?」
 あっけらかんと、とんでもないセリフを口にしたのは、ニノ様の横で小箱を覗き込んでいるナヴィル様だ。
「やっぱり一度で根こそぎ焼き払ったほうが手っ取り早かったんだよ。残しておいたら、こうやって忘れた頃に祟るし」
「ナヴィル、あの時点で全て潰していたら、その後にわたし達が過労死していましたよ。悪党でも仕事はできる悪党だからこそ、猶予を与えてあげたのですから」
 ひ、という悲鳴を飲み込む。すごく丁寧な口調だし、声音も柔らかいのに、ニノ様の発言が不穏過ぎた。
「二人とも、それは過ぎたことだ。今は余のカティアに手を出してきた報いをどうさせるか、そこが重要だろう」
 ぎゅむぎゅむと私を抱きしめているクリストフ様の発言も不穏だった。やっぱり大国の中央なんて魑魅魍魎ちみもうりょうしか跋扈ばっこできないんだから、私みたいな小心者が皇帝陛下の隣に立つなんて精神に負荷が掛かってストレスで死んでしまうんじゃないだろうか。前世のソーニャならともかく、今はもう権力のトップに立って周囲を見下ろすことにカタルシスを感じたりしないし。
「あの、……クリストフ様」
「カティア。そなたはこれらの声をあまり聞くな。そなたが染められてしまえば、余が泣く」
 いえ、こんな殺伐とした考え方に染まれというほうが無理です。そもそもクリストフ様の発言だってたいがいでしたよ?
 そんな反論を全部飲み込み、私は彼を見上げた。
「苦しいので、腕、離してもらってもいいですか?」
 私のお願いに、クリストフ様は渋々腕を緩めてくれた。呼吸が楽になったとホッとする私を、何故かナヴィル様とニノ様がニヤニヤと見つめていた。
「無理矢理攫ってきたわりには、随分と腹が据わっていますね。下位貴族出身と聞いていたので、余程権力欲が強いのかと思っていましたが」
「あー、それはないない。むしろクリス様の癒やしだろ、これ。そりゃオレらに染まって欲しくないよな」
「これとか言うな。刺すぞ」
 クリストフ様から剣呑な空気が漏れる。あぁ、でも羨ましいなぁ。私の周囲にはこんなブラックジョークを言い合う関係なんて構築できなかったし。いえ、男性特有なのかしら。
 私は、ニノ様とナヴィル様に今にも噛みつきそうなクリストフ様の袖をちょいちょいと引っ張って下から見上げた。
「クリストフ様、少しよろしいでしょうか?」
「……っ、待て、その顔は少し凶悪だぞ、カティア」
 凶悪と言われたことを不思議に思いながら、私はクリストフ様の腕をそっと離し、真正面のお二方に頭を下げた。
「私の油断でこのようなことになってしまい、申し訳ありません。母を助けるためのお力添えをいただけないでしょうか」
 これは私がちゃんと言わなければならないことだ。クリストフ様に庇護されているからといって、彼の大事な側近の手を煩わせることを当然と受け取ってはいけない。
「カティア。そなたがそのように頭を下げることはない。余が守ると決めた者を守るのは、配下として当然なのだから」
 私はクリストフ様の慰めに対し、首を横に振る。
「いいえ、私はお二方に謝らなければならないのです。こうして余人の耳のないところでお話を聞いていただく場を整えてもらうまで、私は、お二方の大事なクリストフ様と、私の母とを天秤にかけていたのですから」
 それは、大国のトップの隣に立つ人間としては失格だ。けれど、私はそれでも母を諦めることなんてできなかった。
「申し訳ありませんでした」
 私は再び深々と頭を下げる。謝罪したところで、許されることはないだろう。けれど、まず謝らなければ私の気が済まなかった。
「頭をお上げください、姫様」
 ニノ様の声に従い、ゆっくりと彼に向き直る。穏やかな微笑を浮かべるニノ様からは、怒気は感じられない。
「聞き及んでいるかもしれませんが、この国は血を流しすぎました。もちろん、それは必要だったものです。けれど、これからの帝国には、貴女のような当たり前の感覚を持った方が必要です」
「そうそう、オレらにしてみれば、家族が大事っていう人として当然の感情が、もはや貴重だよね。っていうか、忘れてたぐらいだし」
 私は、隣のクリストフ様の顔を見上げた。彼は『冷血皇帝』という渾名とはほど遠い優しい微笑みで私の頭をそっと撫でてくれる。
「余は今度こそそなたを守ると決めたのだ。それはそなたの身体だけでなく、心も守るということだ。……だから、大船に乗ったつもりで守られてはくれないか」
「でも、私は、この国の役に立てるとはとても思えません」
「いいや、そなたの視点でこの国を見て欲しい。きっとそなたなら、余らの気付かぬものを拾い上げてくれるはずだ」
「買いかぶり……です。でも、でも……どうか、よろしくお願いいたします」
 私は再び頭を下げる。その拍子に、目に溜まっていた涙がぽろり、とこぼれた。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。