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【27話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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「その夢については、後で聞かせてもらえるか。今は――――東の庭園であったことを確認したい」
 あぁ、身体から力が抜けそうになった。
(当然よね、最警戒対象が接触してきたのだから)
 何を言われたのか、もちろん把握しておきたいだろう。だけど、私は話してもいいのだろうか。持ちかけられた話をそのまま伝えてしまえば、ここにいる三人はどういう判断を下すのだろう。私の母を見殺しにするだろうか。
「どうした? 口止めをされているだろうが気にすることはない。ここには余と余の信頼する者しかいないのだから」
 そう言われても、私は迷ってしまう。あの脅迫を口にすることはすなわち……
(私が、クリストフ様とお母様を天秤にかけて悩んでいたことを知られてしまう)
 大国の最高権力者と、下位貴族の妻。失われた場合の影響を考えれば、前者を選ぶのが為政者の考え方だ。それは嫌というほど知っている。
「侯爵は……」
 声がみっともなく震えた。情けない。こんなことでいちいち動揺していたら、クリストフ様の隣になんて立てないだろう。
「私の母の指輪を見せて、私にクリストフ様の毒殺の片棒を担ぐように脅迫してきました」
 端的に言えばそれだけのこと。でも、たったこれだけの説明を口にしただけで、私の声はがたがたに震え、両目からは涙が流れてしまった。
「大丈夫だ、カティア。つらいことを言わせてしまってすまない」
 私をロングケープの上から抱きしめたクリストフ様の声に、少しだけ呼吸が楽になる。
「毒殺の片棒……ですか。その方法は指示されましたか?」
 淡々と事実確認をするニノ様に、私は母の指輪と共に見せられたブレスレットについて説明する。途中、声が詰まってしまうことが何度かあったけれど、優しいことに誰も指摘してはこなかった。
「そのブレスレットと指輪はどこに?」
「私が寝室に戻ったときには、既に届けられていました。中は確認していませんが、テーブルの上の赤いビロード張りの小箱です」
 ニノ様の目配せを受けて「はいはい」とやる気のない返事をしたナヴィル様が立ち上がった。どうやら取ってくるらしい。
「追い詰められた鼠は何をするか分からないと言いますが、随分とお粗末な手を使ってきたものですね」
「両手両足をもぎ取った後だ。余の隣に誰もいないことであいつなりに余裕を感じていたところだっただけに、焦ったのだろう」
「それで、いつまでクリス様はその格好なのでしょう」
 ニノ様の指摘はもっともだった。何しろ、私を両腕でしっかり抱きしめたままなのだから。体温や心臓の鼓動を感じるのは正直ありがたいのだけど、ちょっとだけ苦しい。
「余の気が済むまでだ」
「そんなに、今回の陽動がお嫌でしたか」
(陽動?)
「当然だ! 何が悲しくて余がカティアを抱き潰す宣言を大声でしなければならないのだ! しかも、今もアンネリーとドミニクが演技中なのだぞ! 余が抱けもしないのに! せめて抱きしめるくらい構わないではないか! 余がカティア不足なのは真実なのだから!」
 声高にまくしたてられた上に、抱きしめられて身動きができない状況にあった私は、クリストフ様の言葉を聞き流すこともできなかった。
(演技中? 入れ替わりで寝室に残った人のことなのかしら。でも、演技中?)
 頭を働かせれば、どんな演技かは簡単に推測できるだろうけど、私は意図的に考えることをやめた。その先には羞恥しか待っていない。
「ただいまー、いやー、アンネリーもドミニクもノリノリだったよ」
(いやぁぁぁぁぁっ!)
 何がノリノリとか聞きたくない。というかナヴィル様は、確信犯なの? 一番聞きたくない部分だったのに!
「で、姫君、これで合ってます?」
 クリストフ様の腕の中でもぞもぞと体勢を変えた私は、ナヴィル様の差し出した小箱を見た途端、すっと血の気が引くのを感じた。そして、震えそうになるのを堪えながら一度だけ頷き、これで間違いないことを伝える。
「はいよ、ニノ」
「……検分はわたしですか。まぁ、クリス様があの様子で使い物になりませんから、仕方がありませんね」
 ニノ様は白手袋を両手に着けると、小箱をゆっくりと開けた。向かい側に座っているこちらからは見えないけれど、中には指輪とブレスレットが入っているはずだ。
「カティア姫、貴女がこの指輪を母親のものだと思ったのは何故ですか?」
「庭園で小箱を一度渡されたときに、母のお気に入りの指輪によく似ていると思ったんです。クルッグ侯爵も私の家族について匂わせてきましたし……」
「成程。母君が着けているという指輪について、覚えていることを教えていただいても?」
 覚えていることも何も、その指輪ではないのだろうか。ニノ様の質問の意図は分からなかったが、私は一つずつ思い出しながら口にしていく。
「母が父からもらった贈り物の一つだと聞いています。柔らかな曲線を描く銀のリングに、小さなエメラルドが三粒はめ込まれていて、リングの裏には……花と豊穣と春の女神への祈りが古語で彫られていると」
「あぁ、確かに裏にも……なるほど」
 ニノ様は何か納得された様子で何度も頷いている。何か分かったことがあったのだろうかと思ったけれど、残念ながら説明してくれる気はなさそうだった。

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