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【26話】無慈悲な皇帝の行き過ぎた純愛~前世は断罪された悪女でした~

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 薄暗い部屋の中、クリストフ様に囁かれると、知らず身体の芯が熱くなる。
(抱き潰す、って言っていたわよね。それってやっぱり……ってこと?)
 熱に浮かされたように、思考がうまくまとまらない。まさか小耳に挟んだ絶倫というやつなのだろうか。朝までコースとかされたら、私の体力は絶対に保たない。それは断言できる。
「他の者にそなたの声は聞かせたくないな。あまり声を上げないでくれるか?」
「え……?」
 ふわり、と感じた浮遊感と、薄暗いながらも視界がぐるりと回ったことで、クリストフ様に抱き上げられたことを知る。
「クリス様」
 知らない男性の声に、私は驚いて息を飲んだ。慌てて口を押さえたので、変な声は出ていないはず。
「うむ、予定通りに頼む」
 クリストフ様の指示に頷いた男性は、もう一人とともに寝台に座った。何を……? と疑問を抱いていたら、私を抱えたままのクリストフ様に「驚くなよ」と囁かれた。
 もうこれ以上驚くことなんてないだろうと思いながら何度も頷いてみせると、クリストフ様は壁をさらっと撫でた。すると、音もなく壁の一部がぽっかり開いたのだ。あぁ、帝城にも隠し通路はあるんだな、と驚くより先に呆れてしまった。
「しっかり捕まっていろ」
 通路は狭く、灯り一つない。だというのに、クリストフ様はまるでその中でも道が見えているかのように、迷いなく進む。私はつい前世で教えられたように彼の歩数を数えながら、頭の中の帝城の見取り図と照らし合わせた。
(居住区画を出ようとしている……? こっちは、クリストフ様が執務をしている部屋の方かしら?)
 視界が闇に覆われた中では、悪いことばかり考えてしまいそうになる。行き先の把握に集中することで、私は余計な考えを頭の中から追い出していた。
「出るぞ。少し眩しいが我慢だ」
 クリストフ様の言葉に頷き、光に焼かれないよう目を細めた。出た先は、革張りのソファに長机、書類がぎっしり詰まった棚に囲まれた小さな部屋だった。
「お待ちしておりました」
 目を慣らしながら部屋を見回すと、少しくだけた服装の黒髪の優しげな青年が、眼鏡を押し上げて机に積まれた書類に目を通しているのが見えた。その隣には、ナヴィル様が座って同じように書類を確認している。
 私はどうしたらいいか伺うようにクリストフ様を見上げる。もう声を出していい、と許可を出してくれた彼は、私をその場に立たせた。
「初めてお目にかかります。カティアと申します。……宰相職に就かれている、ニノ・フリーガー様でしょうか?」
 容姿だけはステファニーに聞いていたので、すんなりその名前が出た。すると、なぜか困ったように笑う。
「初めまして、カティア姫様。――――陛下、もう少し、レディに配慮が必要ではないでしょうか」
「……っ、見るな、減る」
 クリストフ様は、突然ご自身が羽織っていたロングケープを脱ぐと、私に巻き付けるように着せてきた。すると、「はいはい」と呆れた表情を浮かべたナヴィル様が立ち上がり、どこかへ行ってしまった。まさか見るなというクリストフ様の言葉を真に受けたんだろうか。
(すっかり失念していたけど、私、夜着のままだったわ……)
 渡りがあるとき限定なのだとステファニーに見せられたセクシーなものではないけれど、それでも薄い生地だし無防備過ぎる。
「わたしに憤るより、姫君に謝るのですね。――どうぞ、こちらへお座りください。男の手で申し訳ありませんが、茶も入れますので」
 読んでいた書類を机の端に寄せたニノ様が、私に向かい側のソファを勧める。躊躇していると、クリストフ様にひょいっと抱き上げられ、指定された場所に座らされてしまった。その隣にクリストフ様もどっかりと座る。
 説明も何もなしに連れてこられ、しかも目の前には腹心中の腹心であろう宰相のニノ様がいる状況。なんだろう、これ。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて」
 戻ってきたナヴィル様が私とクリストフ様の前にカップを置いた。どうやらニノ様が言っていた「男の手」というのは、彼のことだったらしい。ふわりとゆらめく湯気が温かく、私は無造作に巻き付けられたロングケープを動きやすいように着直して、そっと手を出した。すっきりとした飲み口のハーブティーに、身体の力が抜ける。
「ここならば、誰に聞かれることもない」
 隣のクリストフ様が私の背中を優しく撫でる。まるで全てお見通しだと言わんばかりのその大きな手に、涙がこぼれそうになった。
「――朝から様子がおかしいという報告があったが、何があった?」
 私は、ちらりとニノ様とナヴィル様の顔を見て、そして「夢見が少し悪かっただけです。お恥ずかしい……」と頬に手を当てて答える。「夢」という言葉に、クリストフ様だけが反応したのを見ると、前世の因縁については目の前の二人にも話していないのだろう。まぁ、話したところで、前世なんて証拠もないし、信じてもらえるとも思えないけれど。

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