【43話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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「どうしても続けたらだめ?」
「だめだ。経済的な理由でやめることができないというのなら、夜ごはん作りのバイト代を多めに出す」
「それはダメ!」
 間髪入れず拒絶した。諒太郎がこう言うのはわかりきっていたからだ。
 諒太郎が険しい表情になる。信号が青に変わりアクセルを踏んだ。しかし進み始めてすぐに、諒太郎は交通量の少ない道の路肩に車を停めて、エンジンを切る。
「諒太郎?」
「なら結婚しよう」
 ぱちんと自分のシートベルトを外しつつ、諒太郎がとんでもないことを口にした。
「ええ!?」
「結婚しよう。夫婦の財布は同一だ。だからなにも問題はないだろう」
「ちょ、諒太郎、結婚って、いきなりそんなこと言われても」
 わたしが混乱していると、諒太郎は真剣な顔で言う。
「いきなりじゃない。俺は、最初からそのつもりだった」
「さ、最初からって……、でも、その」
「きみが好きなんだ、咲」
 諒太郎の言葉に息を呑んだ。心をつかみ取られるような、真剣な声だったからだ。
「咲が好きだ。この先一生、俺にきみを守らせてくれ」
「諒太郎……」
「好きだよ、咲」
 言いながら、諒太郎はわたしを抱きしめた。胸の鼓動が痛いほどで、わたしの頭の中は混乱のさなかだった。でも力強い腕の中にいると、熱を帯びた感情がこみ上げてきて、涙で目が潤んだ。
 ああ、わたしは本当に幸せ者だ。
「諒太郎。わたし、……わたしもね」
 ピリリリリリ。
 自分の想いをあふれ出るままに伝えようとした瞬間、軽快な電子音が車内に鳴り響いた。
 わたしと諒太郎は同時に固まって──、数秒後、がっくりと肩を落とした。
「なぜ俺は……肝心な時にマナーモードにしておかないんだ……」
「まだ鳴ってるよ……早く出てあげなよ……」
「ああ、そうだな……」
 諒太郎はカバンからスマホをのろのろと取り出した。わたしはなんだか脱力感に襲われて、背もたれに身を預ける。タイミング悪いなぁ。
「もしもし、梨々子か? どうした? ……え?」
 相手は梨々子ちゃんか。諒太郎の声がいきなり焦り始めたので、わたしは首を傾げた。
「すまん、すっかり忘れていた! そうだったな、今日はその予定だったな。すまない、いますぐ向かうからもうあと十分待っていてくれ」
 慌てた様子で通話を切り、諒太郎はシートベルトを締める。梨々子ちゃんと約束でもしていたのだろうか。
「諒太郎、大丈夫?」
「ごめん咲、先にうちに寄ってもいいか? 梨々子の用事をすっかり忘れていた」
「それはぜんぜん構わないけれど、どんな用だったの? 梨々子ちゃん怒ってなかった?」
「怒っていたというより、呆れてたよ。頭の中が咲先生一色なのはわかるけど、たまには妹のことも思い出してくださいと、冷静な声で言われてしまった。返す言葉もなく、兄の威厳も形無しだ」
 わたしは思わず笑ってしまった。ここの兄妹は、いつも仲が良くてほほ笑ましい。
「がんばってね、お兄さん。ところで梨々子ちゃんとの約束ってなんだったの?」
「ああ、家庭教師の後任だよ。この前センターから連絡があって、後任の候補が決まったから顔合わせをしてほしいと言われていたんだ。それが今日の四時だったということを、すっかり忘れていた」
「あ、決まったんだ。良かったね。いまちょうど四時だけど、後任の人、もう旭家に到着してるの?」
「ああ、五分前に自宅に来たらしい。申し訳ないが、ちょっと飛ばすぞ」
「はいはい、安全運転でね」
 後任の家庭教師、どんな人だろう。大事な梨々子ちゃんを任せるんだから、ちゃんとした人かどうか、わたしもこっそりチェックしておかないと。

 諒太郎の自宅に着いた。後任の先生のことは気になるけど、諒太郎のとなりに座ってまじまじと観察するわけにもいかない。
 廊下からこっそり様子を窺おうと思って、諒太郎と玄関に入ると、居間のほうから声が聞こえてきた。
「あ、帰ってきたみたい。ちょっと待っててくださいね、先生。あ、出てきちゃダメですよ。お兄ちゃんたちをびっくりさせたいから」
 梨々子ちゃんの弾むような声である。とってもご機嫌な様子だ。後任の先生、いい感じの人なのかな。それにしても、びっくりさせたいからってどういう意味だろう?
「おかえりお兄ちゃん、咲先生! お泊まりからのご実家訪問ツアーはどうだった? お兄ちゃん、ヘマしなかった?」
「おいこら、兄をからかうな。先生はもういらしているんだよな。ほら、居間に行くぞ。咲はどうする?」
「わたしは廊下からコッソリ覗くことにする」
 小声で答えると、梨々子ちゃんが「だめだめ」と腕を引っ張ってきた。

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