【42話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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「えっ、ちょっと諒太郎!?」
「しばらく起きていたからか、また顔色が悪くなってきているぞ」
 長い脚で居間を横切り、寝室のベッドにわたしをそっと降ろす。それから毛布を掛けてくれた。
「このまま昼まで寝ていろ。俺は居間にいるから、なにかあったら呼んでくれ」
「でも、家に帰らなくていいの? 梨々子ちゃんは大丈夫?」
「こんな状態の咲を置いて一人で帰ってきたとあいつに知られたら、逆にこっぴどく怒られるよ」
 笑って、諒太郎はわたしの額に口づけた。
「この三日間はとことん甘やかすからな。覚悟しておけよ」
「諒太郎、普段から甘すぎるのにこれ以上って……」
「おやすみ、咲。クーラーは少し弱くしておくな」
 声と髪を撫でるてのひらが、とんでもなく優しい。わたしはドキドキしながら、そしてそれ以上に安心感を覚えながら「ありがとう」と告げた。

 三日後、わたしはすっかり元気になっていた。諒太郎は、そのあいだわたしのそばにいて(梨々子ちゃんの様子を見に、たまに帰宅していたけれど)、言葉どおりとことん甘やかしてくれた。諒太郎が看病してくれたから、有給が終わるまでに元気になれたのだと思う。
 最後の有給の翌日は土曜日だったので、わたしは団地に行くことにした。ファミレスのバイトはお休みにしてもらっている。
 そのことを諒太郎に話したら「俺も行く」と言う。半ば予想していた言葉だったけど、諒太郎が団地に来ると思うと緊張した。
 諒太郎サマの本日の装いは、白いシャツに紺色のジャケット、スッキリしたラインのベージュ色のパンツである。足もとはカジュアルな革靴を履いている。さすが営業部のエース。かっちりし過ぎず、かといってチャラく見えず、恋人の家を初めて訪ねるには最適の服装だ。
「咲のお母さんに会うのはこれが初めてだからな。手みやげはないがいいだろうか」
「気にしなくてもいいと思うけど」
 それでも気になると言うので、美味しいと評判の和菓子屋さんでおまんじゅうを包んでもらった。お母さんの大好物なのだ。
 この時間、翔は大学に行っている。お母さんには「お付き合いしてる人といまから様子を見に行くから」と伝えておいたからか、玄関に入ったら満面の笑顔で出迎えてくれた。
「あらあらあら、咲のカレシさんがこんなにもカッコいい方だなんて! どうも初めまして、咲の母です。娘がいつもお世話になっています」
「ちょっとお母さん、ベッドで寝ててって言ったじゃない。もー、パジャマのまんまで良かったのになんで着替えてるのよ。挨拶はいいから、ほら、早く戻ってよ」
 お母さんをベッドに戻して、それから諒太郎は礼儀正しく頭を下げた。彼女の親に初めて会うのは緊張しそうなものだけど、営業職なだけに心臓が強いのか、諒太郎は悠々としている。
「初めまして、お母さん。旭諒太郎と申します。咲さんとは、一ヶ月ほど前からお付き合いをさせていただいております」
「じゃあ付き合いたてなのね! いまがいちばん楽しい時期でしょう?」
「ええ、そうですね。咲さんがいてくれるおかげで、毎日が楽しいです。できることなら、この先もずっととなりにいてくれたらと思っています」
 ほほ笑みながら恥ずかしいことをさらりと諒太郎が言ってのける。お母さんは嬉しそうだけど、わたしはこの場から逃げ出したいくらいだ。
 それから諒太郎は、簡単な自己紹介をして、お母さんの体の調子を尋ねつつ自分の連絡先を渡した。
「僕も力になりたいので、なにかあったらこちらにご連絡ください。咲さんや翔くんが動けないときには僕が駆けつけます。一人暮らしが長かったので、たいていの家事には対応できます。車も出しますので、いつでも僕を使ってください」
「まあまあ。ありがとう、諒太郎さん」
 お母さんは、感動した表情で深々と頭を下げていた。そのあと居間でおまんじゅうを食べつつ会話を楽しみ、実家の家事をすませる。夕方になり、わたしと諒太郎が帰るときに、お母さんはこっそりわたしに耳打ちした。
「とってもいい人とお付き合いしているのね、咲。良かったわね。諒太郎さんを大切にするのよ」
 わたしはくすぐったい気持ちになりながらも、ほほ笑みながら頷いた。

 諒太郎の車でマンションに送ってもらう道中で、彼が口を開いた。
「いいお母さんじゃないか。あの家で榎並一家が温かな歴史を刻んできたのだということを想像して、お母さんの前で泣きそうになるのを何度もこらえていたぞ。ああ、思い返すとまた涙が……」
「はい、このハンカチ使って。赤信号気をつけてね」
 わたしもだいぶ慣れてきたものだ。目もとを拭ってから、諒太郎は信号機の手前でブレーキを踏んだ。エンジン音が途切れて車内が静かになる。
 やがて諒太郎がふたたび口を開いた。
「咲。土日のファミレスのバイトのことだがな。あれはもう辞めてくれ」
「……。言われると思った」
 わたしは気まずい思いで諒太郎を見た。

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