【37話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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(これくらいで疲れきるなんておかしいなぁ。体力には自信があるのに)
 ひさびさに土日にバイトを入れたから、いつも以上に疲れてしまったのだと思う。体が慣れてきたらここまで疲れることはないはずだ。電話口で、例によって諒太郎はとっても心配している様子だった。
 月曜日に出社したら、諒太郎はいつもと変わらず鬼上司だった。平常運転のごとく冷たい眼差しで叱られて、でもこういうところが諒太郎だなぁと思って、なんだかほっとした。
 午前中は外回りで、午後からは社内で事務仕事をした。無言でパソコンに向かっていると睡魔が襲ってくる。
 眠ってしまわないように、ブラックコーヒーをがぶ飲みしつつキーを叩いた。でも、気づかないうちに寝そうになっていたようだ。
 ぽん、と肩に手が置かれて、わたしはハッと目を覚ました。
「大丈夫か?」
 すぐ耳もとで声が聞こえてきて、どきりとする。諒太郎だ。
 身をかがめてこちらの顔を覗き込んでいる。その瞳が、心配そうに揺れている。
 ほかの社員がいる場所では、絶対にこんなふうに声を掛けてこなかったのに。わたしは急いで頷いた。
「大丈夫です。ごめんなさい、居眠りしかけてました」
「疲れているなら無理はするな。体を壊してしまっては元も子もない」
「はい……」
 わたしはぎこちなく頷いた。諒太郎は、それでも心配そうな表情で見つめ返してくる。
 そんなわたしたちの様子を、同じ課の人たちは「なにも聞いていません」というふうを装いつつ、耳を大きくして聞いていることだろう。まずいよ諒太郎。いつもの感じを会社で出しちゃ駄目だって。
 とはいうものの、自分勝手だとは思うけれど、諒太郎が気に掛けてくれたことが嬉しかった。そして、安心した。疲れているということをわかってくれている人が近くにいるのは、想像以上に心強いものだということを知った。
 諒太郎の手が、どことなく名残惜しそうに肩から離れていく。彼の温もりだけが残されて、胸がせつなくなった。
(大丈夫。ちゃんとがんばれる)
 諒太郎と付き合う前は、土日含めて副業に毎日精を出していたのだ。それでも体調を崩したり、疲れきってしまうことはなかった。たまに休日にシフトに入れなかったときは、伶奈を誘って買い物や呑みに行ったりもしていたくらいである。
 だから今回も大丈夫。お母さんが元気になるまでのことなんだから、楽勝だ。
 楽勝だと、思っていた。

「──咲!」
 伶奈の悲鳴が耳を打って、我に返った。
 昼休みに社内の食堂に行ってから、デスクに戻る途中の階段でのことだ。伶奈の話をぼーっとした頭で聞いていたら、ふいに目眩に襲われた。
 あっと思ったときには階段を踏み外していて、転げ落ちそうになったところで、逞しい腕がわたしの腰に回り、ぐいっと力強く抱き寄せられた。
 なにが起こったんだろう。
 まばたきをするわたしの、右耳のすぐ後ろから、震えるような声が聞こえた。
「危なかった──」
「咲、大丈夫!?」
 伶奈が顔色を変えて駆け寄ってきて、わたしはノロノロと頷く。諒太郎の腕は腰に回ったままで、わたしは彼の腕の中で後ろを振り向いた。
「りょ……あさひ、課長」
 諒太郎と目があって、そうしたら彼の眉がきつく寄せられた。直後にふわりと体が浮いて、わたしは諒太郎に抱き上げられる。
 突然のことに、事態が理解できない。
「あ、旭課長、ええと──」
「仮眠室に連れていく」
 諒太郎は端的に告げた。
「麻木さん。申し訳ないが、榎並さんの荷物を仮眠室まで運んでくれないか。今日は早退させる」
「はい。わかりました」
 伶奈は、戸惑った様子ながらも頷いて、パタパタと駆けていった。わたしのロッカーの鍵は、デスクの上から二番目の引き出しに入れてあることを知っているのだ。
 仮眠室に行く必要なんてない。ましてや早退なんて。わたしは諒太郎に、自分は大丈夫だと訴えようとした。でもふたたび目眩に襲われてしまって、諒太郎のスーツを握り込むだけになってしまった。
 諒太郎は無言で踵を返し、同じ階にある仮眠室に向かった。途中でほかの社員とすれ違ったらどうしようと、くらくらする頭で考えたけれど、幸い誰とも会わなかった。
 仮眠室には、四畳半くらいの空間に二段のパイプベッドが置かれている。そのほかには、小型の冷蔵庫とテレビが置いてあるだけの殺風景な部屋だ。
 諒太郎は、ベッドの下段にわたしをそっと横たえてくれた。
「上掛けはどうする? 寒くないか?」
「寒くは、ないけど……」
 しどろもどろに答えると、諒太郎は薄手の毛布を掛けてくれた。それから、ため息をついてわたしの頬に手を添える。

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