【36話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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第六章 限界

 この日から、わたしはめちゃくちゃ忙しくなった。
 いつもより一時間早起きして、旭家の夜ごはんの下ごしらえをし、保冷バッグに入れて出社する。一生懸命働いたあとは、すぐさま旭家へ出向いて夜ごはんを作り、のんびり食べる梨々子ちゃんのとなりで料理を素早くかき込んでから、電車に飛び乗って団地へ急いだ。
 お母さんの様子を見て、家の状況などを翔から聞いて、やりきれていない家事をしたり、足りない日用品を買ってきたりした。
 それからマンションに帰ると夜の十時くらいになっている。翌日は、また早起きをして夜ごはんの下ごしらえだ。
 土日はファミレスのバイトである。以前働いていたところに連絡して、短期で雇ってもらえないか頼み、オーケーをもらったのだ。フットサル帰りの同僚に目撃されるのを防ぐため、厨房で働かせてもらうことにした。店長からは「助かるよ」と感謝された。最近はどこも人手不足のようだ。
 ということで、ファミレスバイトは朝の九時から十七時までのシフトになった。休日のファミレスは目が回るほどの忙しさなので、バイトのあとはへろへろになってマンションに帰り着く。
 そして、土日が終われば当然月曜日がやってくるので、早起きして旭家のごはんの下ごしらえをして……というサイクルだ。
 ものすごく疲れるけれど、わたしはもともと頑丈な体をしているのでなんとかなった。けれどやはり、なんともならない部分もある。
 諒太郎だ。
『帰りは送るといつも言っているだろう。どうして先に帰るんだ』
 団地通いの初日、夜十時に家に帰ってきてからの、電話での会話である。
『暗い時間に一人で出歩くようなことはしないでくれ。俺がどれだけ心配したと思ってる』
「ごめんごめん。でも最近眠気がすごいから、なるべく早く家に帰りたくて。しばらくは諒太郎を待たずに、食べ終わったらすぐに帰るよ」
『眠気がすごいって、疲れているのか? だったらなおさら俺の車で家に帰ったほうがいいじゃないか。いや、バイト自体をしばらくやめにしてもいい。咲の体を第一に考えて──』
「そんなに休めないよ。お金足りなくなっちゃう」
 なんとかごまかしたくて冗談めかして言ったら、逆に諒太郎を怒らせてしまった。
『そんなことは気にしなくていい! 俺がなんとでもする。土日は会えるか? 会社では長く話せないから、そのときに話を聞かせてくれ』
「ごめんなさい、土日は用事があるから、夜の六時以降しか時間作れないんだ」
 言いつつ、自分はなんてひどい彼女なんだと思う。
 けれど、母親のことを言わなくて良かったとも思う。
 俺がなんとでもすると、諒太郎が言ったからだ。これ以上、諒太郎に良くしてもらうことはできない。
「それと、しばらく今日みたいな感じでやらせてもらってもいいかな。一ヶ月くらいでいいんだ。梨々子ちゃんの家庭教師はしっかりやらせてもらうから安心して」
『そんなに長い期間? 疲れが溜まっているなら、それこそ夜ごはん作り自体を休止するべきだろう』
「休止すると、梨々子ちゃんの栄養状態が心配すぎて余計に疲れちゃう。大丈夫だから気にしないで」
 諒太郎をなんとか宥めて、土曜日の夜に会おうと話をまとめて通話を切った。無音になったリビングの中で、わたしはため息をつく。体も疲れているけれど、精神的にも疲れた。
「……わたし、意地になってない?」
 ソファに身を沈めながら呟く。
 諒太郎に迷惑を掛けたくない。甘えたくない。頼りたくない。
 その裏には、諒太郎の力を借りなくても自分で解決できると、頑なになっている自分が存在していないだろうか。
 長女の悲しいさがなのかもしれない。こんなにも可愛げがないんじゃ、いつか諒太郎に愛想を尽かされてしまわないかな。そうなったらどうしよう。
 自分自身を持て余しつつ、わたしは重たい体を引きずるように立ち上がった。明日も早起きしなくちゃいけないんだから、お風呂に入ってすぐに寝よう。

 団地通いを続けて三日も経つころには、いろいろ仕込んだ甲斐もあって、翔は家事を見事にマスターした。もともと全般的にこなせる子だったから、あとは細かいところを教えるだけだったのだ。
 それでも様子がやっぱり気になって、毎日のように団地に顔を出した。旭家のバイトももちろん継続していたから、早起きからの下ごしらえも欠かさなかった。
 土日はファミレスのバイトを入れていたので、諒太郎と会う時間は限られた。限られたというか、この土日は会うことができなかった。夜に会う約束はしていたけれど、わたしが疲れきってしまって、来週に伸ばしてもらったからだ。

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