【3話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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 母は、わたしたち姉弟を女手ひとつで育ててくれた。母が苦労を重ねている姿を見ていたから、わたしは少しでも家計の足しになるように、中学生のころから新聞配達のバイトなどをして働いた。
 弟は、医者になって生活を助け、そして父のように病気で亡くなるような人たちを救いたいという夢を持ち、医者になるために寝る間を惜しんで勉強に励んでいた。
 けれど、さっきも言ったように大学にはお金がかかる。
 奨学金を借りるにも、あれは利子付きのローンなので、できれば弟には利用させたくなかった。わたし自身が奨学金で学費を賄ったのだが、返済期間は十年以上あるから苦労するのだ。
『負担を掛けてごめん、姉さん。医者として働けるようになったら、かならず返すから』
 翔は、申し訳なさそうにしながらわたしに頭を下げた。でもわたしは、働くことがもともと好きだった。趣味を持っているわけでもないから、副業のバイトはいい気分転換になっている。
(さあ、今日もがんばって働くぞ)
 毎週金曜日は家庭教師の日だ。庭とガレージのついた綺麗な家のインターフォンを押すと、しばらくして扉が開いた。
「咲先生こんばんは! 待ってたよー、入って入って」
 現在高校二年生、二年前から勉強を見ているわたしの生徒・梨々子《りりこ》ちゃんである。まだ着替えていないようで、スカート丈の短いブレザー姿だ。
 JKらしく、明るい色に染めた髪を胸のあたりまで伸ばして軽く巻いている。つけまつ毛と黒のカラコンで瞳を大きく見せていて、ピンク色のチークをほんのり入れていた。
 すっぴんの彼女を見たことがあるけれど、素材自体が可愛いから、メイクで盛らなくても充分人目を引くと思う。梨々子ちゃんに以前そう言ったら「すっぴんで学校行けるわけないじゃん」と真顔で返された。最近の女子高生は大変だ。
「中間テスト返ってきたよね。結果どうだった?」
「いい感じだよ。この調子だと学年ヒトケタ狙えるかも」
「ほんと? すごいじゃん、答案見せて」
 玄関の左手にある階段を上って、二階の廊下のいちばん奥にある梨々子ちゃんの部屋に入る。淡いオレンジ色で統一された、可愛らしい部屋だ。
 梨々子ちゃんは早速、通学カバンの中から答案を探し始めた。わたしは、室内の真ん中に置かれているローテーブルの前に座って、自分のトートバッグから筆記用具を取り出す。
 この家にいまいるのは、わたしと梨々子ちゃんの二人だけだ。じつは、梨々子ちゃんのご両親はこの家に住んでいない。去年、家庭教師として配属されたときにご両親とお会いしているけれど、おっとりとした優しい感じのご夫婦だった。
 梨々子ちゃんは遅くできた子で、ご両親は現在還暦を過ぎ、仕事もすでにリタイアしている。それを機に、ご夫婦は互いの出身地である地方に引っ越していった。第二の人生では、田舎でのスローライフを楽しむことが長年の夢だったらしい。
 梨々子ちゃんも連れていく予定だったらしいのだが、そこは都会のJK。「田舎暮らしなんて絶対にイヤ!」と断固拒否して、この家に残ったというわけだ。
 十六歳の女の子に一人暮らしをさせるわけにはいかないので、ご両親は、独立してすでに家を出ていた長男をこの家に呼び戻した。長男は都内の会社に勤務しているので、ここからも通いやすいらしい。
(妹のために一人暮らしをやめて実家に帰ってくるなんて、家族思いのいいお兄さんなのね)
 激務の彼は帰宅がいつも遅いので、わたしは顔を合わせたことがない。梨々子ちゃんが言うには「無口で面白みのない兄貴だけど、やたらと情に篤くておせっかい」というような人物らしい。不器用な熱血教師みたいな感じなのかな。
 梨々子ちゃんがテーブルに並べた答案は、本人が言っていたとおりなかなかの出来だった。この調子だと、学年順位は過去最高になるかもしれない。
「がんばったね、梨々子ちゃん!」
「先生のおかげだよ。で、テスト直しでよくわかんなかったところがあるんだけど」
「うん、どれ?」
 家庭教師は地味なバイトだけど、生徒の努力が点数に直結するからやりがいがある。テスト直しや授業の予習などに取りかかっていると、あっというまに二時間が過ぎた。もう夜の九時だ。
「お疲れさま、梨々子ちゃん。今日はこのへんで終わろうか」
「うん。先生、夜ごはんもう食べ終わってる?」
「まだだけど、朝のうちに下ごしらえしておいたやつが家にあるから、サッと炒めて食べるだけ。手抜きだけどね」
「さすが自炊の鬼。あたしも夜ごはんいまからだけど、カップ麺だよ」
 またか。わたしはため息をついた。
「梨々子ちゃん、不摂生。家庭教師の時間が始まる前に食べておくようにいつも言ってるでしょ? あと、最低限サラダとお味噌汁くらいはちゃんと作ったほうがいいよ。育ち盛りの年齢なんだから」
「はーい、ごめんなさーい」
 梨々子ちゃんは笑顔で肩をすくめる。これは作る気ないな。
 とはいうものの、学校から帰ってきて、家庭教師付きの勉強をして、そのうえ夜ごはんを一から作るっていうのは、学生には苦行だろう。

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