【29話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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(和の雰囲気の諒太郎もカッコいいな。姿勢がいいからかな)
 感心しながらも、わたしの目線はスマホにチラチラと向いてしまう。窓の外で、木の葉に西日が差して座卓の上で光がチラチラと踊っていた。そのせいで、スマホの通知が光っているように見えてしまうからややこしい。着信音は鳴るようにしているけれど、つい気になってしまう。
(位置、変えよう……)
 影になる位置までスマホをずらす。やっと気が落ち着いて、わたしは湯呑みに手を伸ばした。緑茶を口に含みつつ無意識にため息をついていると、正面に座っていた諒太郎が声を掛けてきた。
「……咲。夜ごはんまでに時間があるから、大浴場のほうに入っておかないか」
「あ、うん。そうだね」
 腕時計を見ると、午後五時だ。夕食は六時に部屋で取りたいとお願いしているから、まだ時間がある。
 用意されていた浴衣とバスタオル、それからスマホを袋に入れて、諒太郎と部屋を出た。廊下の壁は木造りで、ところどころに花が活けてある。
「大浴場から出てくるの、わたしのほうが遅いと思うから先に部屋に戻ってていいよ」
「いや、ロビーのみやげ物売り場で待ってるよ」
 大浴場は、その名のとおりとても広かった。サウナや泡風呂、寝転がってのんびりできる浅いお風呂や打たせ湯、露天風呂もある。もちろんどれも温泉だ。
 宿泊客がもともと少ないおかげか、ほかに入浴している人は二人しかいなかった。メイクを落として体と髪を丁寧に洗って、ゆっくりとお湯に浸かる。
 少し高めの温度のお湯は、体を芯からほぐしてくれる。お母さんのことがあって緊張しっぱなしだったから、心身ともにリラックスできた。
 全種類の湯船を堪能して、浴場から出て浴衣に着替える。ちゃんとした下着をつけたほうがいいとは思うけれど、せっかく体が気持ちよくなっているんだから、締めつけるようなワイヤーブラはつけたくなかった。綿素材のタンクトップを着て、その上から浴衣を羽織る。スマホを確認したら通知なしだった。
 髪を乾かして手櫛で整える。脱衣所から出て、ロビーのみやげ物ショップに向かった。
(わあ諒太郎。予想はしてたけど目立ってる……)
 おばさんの集団や、わたしと同じ歳くらいの女の子のグループが、諒太郎のことをチラチラと盗み見している。そんな視線にはまったく気づかない様子で、諒太郎はポストカードを手に取って眺めていた。
 湯上りの諒太郎サマは男の色気がダダ漏れだ。スーツ姿やジーンズ姿もカッコよかったけど、浴衣はやはり格別である。
 男らしさを感じさせる首すじに湿り気の帯びた髪が張りつき、スッと伸びた背すじは凛々しい。紺色の浴衣を纏う長身には理知的な魅力があり、無造作に結ばれた帯にまで色気があった。
 見た目は恐ろしいほど極上だし、仕事はできるし、優しい上に男気もあるし。諒太郎は、どうしてわたしなんかと付き合ってくれたんだろう。謎すぎる。
 なんとなく声を掛けられないでいると、諒太郎のほうがこっちに気づいた。
「咲」
 ポストカードを戻しつつ諒太郎が笑顔を見せた。おばさまたちが見とれているけど、わたしだって当然見とれてしまっている。
「男湯は広かったし、いい湯だったぞ。女湯はどうだった? ゆっくりできたか?」
「う、うん。すごく気持ちよかったよ」
 どぎまぎしながら頷いた。顔が赤いのは湯上りのせいだということでごまかせるだろう。
「みやげはここで買っていくか? いくつ分いる?」
「うーん、でも明日でいいや。梨々子ちゃんのと、うちの家族のと、あと伶奈の分があればいいかな」
 売店を出てエレベーターに乗る。諒太郎が言った。
「麻木さんには俺のほうからも渡しておくか。咲がいつもお世話になっているし」
「わたしたちのことは伶奈に言ってないから、渡さなくてもいいよ」
「麻木さんにも言ってないのか?」
 部屋に入り、諒太郎は鍵を掛けた。わたしはスーツケースを開いて荷物の整理をし始める。
「言ってないよ。会社の人たちには内緒にしようって約束したじゃない」
「それはそうだが、麻木さんには伝えていると思ってた」
「まさか諒太郎、誰かに言ってないよね?」
「言ってないが、あんまり念を押されると面白くないな」
 諒太郎はしかめっ面でわたしのとなりに腰を下ろした。
「ごめんごめん。でも諒太郎はうちの会社で女性にすごく人気なんだもん。睨まれたくないよ」
「俺は逆だな。ほかの男社員に咲が狙われるかもしれない。そうさせないために、咲は俺と付き合っているということをあらかじめ言っておきたい」
「わたしが狙われるなんて、そんなことあるわけないじゃん」
 諒太郎がなにかを言いかけたところで、扉がノックされた。夕食の時間だ。
 華やかな海の幸が、所狭しとテーブルに並べられていく。金目鯛の煮付け、地魚のお造り、天ぷらに陶板焼き。小鉢や蒸し物もあって、眺めているだけでよだれが出そうだ。
 女将さんから挨拶があって、メニューの説明をしてもらった。飲み物に生ビールを頼んで、二人きりになったところで乾杯する。

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