【28話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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第五章 甘い夜

 翌朝、開店と同時にショッピングセンターに入って下着一式を購入し、その足で病院に急いだ。病室に着くとお母さんはもう起きていて「病院の朝ごはんは家のより豪華だよ」と嬉しそうにしていた。
 パッと見は元気そうだったけど、やっぱり顔色は良くないし声に張りがない。再検査の結果が気になる。
 しばらくすると翔が来たので、申し訳ないけれど一泊二日で旅行に出掛けることになったと話した。翔は「こっちのことは気にしないで、楽しんできて。姉さんが病院にいてもあんまり意味ないしね。精密検査の付き添いに姉弟がゾロゾロとついていくほうがおかしいし」と言ってくれた。
「ありがとう。でも、なにかあったら夜中でもいいからすぐに連絡してね。ケータイ離さずに持つようにしてるから」
「せっかくの旅行なんだし、ケータイなんか握りしめてないで楽しんできなよ。そんなことより姉さん、旅行に行く相手は誰なの? もしかしてカレシさん?」
「お母さんもそこがいちばん気になったわ。どうなのよ?」
「二人とも、なんでそんなに食いつきがいいわけ?」
 恋人について家族に探られることほど気まずいことはない。身を乗り出してくる母と弟を避けるように後ろに下がり「じゃあそろそろ帰るね」とカバンを取った。
「お母さん、無理しないで寝てなよ。翔、お母さんのことよろしくね」
「うん、わかった。任せて」
「カレシさんと仲良くねー。写真撮ったらケータイに送ってー」
「僕も見たいから、家族グループに送ってね」
 お母さんと翔は、ニコニコしながら見送ってくれた。

 旅行の準備は昨夜のうちに終えている。マンションに戻って、冷えた麦茶を飲みつつメイクを直して、それから諒太郎に「準備完了!」とメッセージを入れた。ほどなくして諒太郎の車がマンションの前に停まり、わたしは助手席に乗り込んだ。
「おはよう。お腹の調子は大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫だよ。迎えに来てくれてありがとう。梨々子ちゃんのごはんとか洗濯とか、大丈夫そうだった?」
「ああ、そのあたりは大丈夫だ。ただ、ひとつ問題が起きた」
 諒太郎は車を発進させる。彼の眉間のシワを見て、わたしはピンときた。
「付き合ってること、梨々子ちゃんにバレた?」
「バレた。旅行に行ってくると伝えたら『おみやげは先生に選んでもらってね、お兄ちゃんいつもロクなの買ってこないから』と言われてしまった。もともと勘づかれているような気はしていたんだが、ふい打ちされるとギクリとするな」
「うんうん、わかるよ」
 諒太郎の、恥ずかしさで苦りきった横顔を見て思わず笑ってしまう。わたしも今朝、お母さんと翔に勘づかれて、諒太郎と同じような思いになったのだ。
「梨々子ちゃんへのおみやげは、やっぱり甘いお菓子かな」
「せっかく温泉街に行くんだから、温泉の風景を写したポストカードセットなんかいいんじゃないか?」
 今日びの女子高生にポストカードをおみやげにするとか。諒太郎は、仕事がとんでもなくできるくせにこういうところが抜けている。甘いお菓子に決定。
 諒太郎の運転する車は、二時間ほど掛けて温泉街に到着した。
 チェックインの時間まで街をふらふらする。売店で立ち食いしたり、足湯でほんわかしたり、おみやげ物売り場をまわったり。そのあいだもわたしはスマホチェックを欠かさなかったが、翔からの連絡はなかった。
 夕暮れ時になり宿に入る。和の雰囲気が漂う上品な宿で、一日十組しか泊まれないらしい。
「こんなに素敵な宿、直前によく取れたね」
 中居さんに案内された部屋を眺めながら、わたしは感嘆した。畳の部屋が二間あり、正面の大きな窓からは部屋付きの露天風呂が見える。
「急なキャンセルがあって空いていたんだ。運が良かったよ」
「畳のいい匂いがする」
 中居さんから宿の説明をひととおり聞いてから、二人きりになる。たくさん歩き回ったから足がだるい。スマホをテーブルに置いて座椅子にもたれつつ、窓の外の露天風呂を見た。
「素敵な宿だし、部屋に露天風呂ついてるし。諒太郎はエロいなぁ」
「なんでそうなる」
 荷物を部屋のスミにまとめつつ、諒太郎はセキ払いをした。
「俺は別に、やましいことなんてこれっぽっちも考えていないぞ」
 露天風呂に二人で入るなんて、初心者に近いわたしにはハードルが高いぞ。
(諒太郎は慣れてるのかな)
 モテまくっていたと梨々子ちゃんが言っていたし、経験豊富なのかもしれない。いやでも、学生時代から硬派だったらしいからそんなに多くはないかも……。
(まったくのゼロってことは絶対にないだろうな。わたし、うまくできるんだろうか)
 不安を感じながらも、カバンからスマホを取り出して通知を見る。翔からの連絡はきていなかったのでほっとした。いつ連絡が入るかわからないから、スマホはつねに携帯していよう。
 座卓にスマホを置いて、わたしは急須を取った。
「諒太郎、あったかいお茶飲む?」
「ありがとう、もらうよ」
 旅行カバンの荷物を整理していた諒太郎が、座椅子に腰を落ち着けた。茶托から湯呑みを持ち上げて緑茶を口に含んでいる。

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