【27話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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 シャワーを浴びて、録画しておいた映画でも観て落ち着こう。のそのそと身を起こし熱めのお湯を浴びたら、いくらか気分がすっきりした。
 居間に戻り、リモコンでテレビをつける。夜のニュースを聞き流しつつ、カバンからスマホを取ると着信が残っていた。翔かもしれないと思ってタップすると、そうじゃなくて諒太郎だった。
「そういえば、諒太郎には短いメッセージを送ったきりだったな」
 短い連絡ひとつでバイトをドタキャンしたことを思い出す。もしかしたら怒っているかもしれない。
(電話しなくちゃ。でも、お母さんが倒れたことは黙っておこう。必要以上に心配掛けそうだし、しばらくのあいだ夕食作りに来なくていいって言われそうだし)
 何日も梨々子ちゃんにごはんを作ることができないのは心苦しい。しかも、その上で約束どおりのバイト代を諒太郎は出してきそうだ。いや、絶対出してくるだろう。バイトというよりデートに近い内容でお金をもらっているのに、そこまで甘えるわけにはいかない。
(あ、そうだ。明日から旅行──)
 スマホを持つ手が固まった。
 お母さんのことが衝撃で、頭からすっかり抜け落ちていた。困り果ててソファに身を沈める。
(どうしよう。翔に明日も病院行くって言っちゃったし、それ以上にお母さんの様子を見ておきたいし)
 諒太郎に言って、時間を遅らせてもらおうか。もともと予定を詰め込む感じの旅行じゃなかったし、一時間くらい後倒しになっても問題ないだろう。
(でもそうなると、お母さんが倒れたことを諒太郎に言わなくちゃいけなくなるな)
 うーん、どうしよう。迷っているとスマホが鳴った。諒太郎かと思ったら、今度は翔だった。
「もしもし、翔?」
『ごめん姉さん。明日なんだけど、母さんの下着買ってきてくれないかな。家にある分じゃ足りないんだけど、僕が買いにいくのもちょっとあれだし』
「いいよ、わかった」
 十分ほど話して通話を切る。すると、ちょうど諒太郎が掛けてくれたらしくて、着信履歴が残っていた。
 なんて間が悪いんだろう。慌てて掛け直したら、ワンコールもせずに諒太郎が電話に出た。
「もしもし、諒太郎?」
『咲、良かった。連絡がつかないから心配していたんだぞ』
「ごめんね、いろいろあって。梨々子ちゃん、夜ごはん大丈夫だった?」
『ああ、自分でうどんを茹でて食べたらしい。いろいろって、なにがあったんだ?』
 諒太郎の声がものすごく心配そうだ。本当のことを言ったら、もっと心配を掛けてしまうだろう。わたしの口から、とっさに嘘が転がり出た。
「ちょっとお腹の調子が悪くなったの。いまはだいぶ良くなったよ」
『そうだったのか。病院は行ったか?』
「さすがに腹痛だけで病院には行けないけどさ。大丈夫だとは思うけど、明日は出発をちょっとだけ遅らせてもらってもいい?」
『ああ、そうしたほうがいいな。来週以降に延ばしてもいいんだぞ。体調が悪いときに無理しないほうがいい』
「それはいいよ。明日から行こう」
 わたしは慌てた。嘘をついた罪悪感で胸がチクチクする。諒太郎がとても心配そうにしているから余計にだ。
「せっかく諒太郎が苦労して宿とってくれたんだし、申し訳ないよ」
『俺のことは気にしなくていい。やっぱり明日の旅行は中止して──』
「だめだめ、すっごく楽しみにしてたんだよ。旅行を励みに仕事をがんばったんだから」
『そんなに楽しみだったのか』
 電話の向こうで、諒太郎がちょっぴり嬉しそうな声を出した。わたしはほっとする。
「うん。楽しみだよ」
『俺もだよ。じゃあ明日、出掛ける準備ができたら連絡してくれ。迎えに行く』
 そのあと、いくつか雑談をして通話を切った。諒太郎の声が途切れた室内に、ニュースキャスターの深刻ぶった声が響く。
 わたしは疲れていた。諒太郎に心配を掛けないように気を遣いつつ、諒太郎が望む言葉や、期待する態度を取ろうとしてしまうことに、どうしても疲れてしまう。
(昔からそうなんだよね。気を遣いすぎるっていうか……。こんなの、相手に失礼なだけなのに)
 わたしはもともと、自分のプライベートな部分を人に踏み入られたくない性格をしているのだ。父親が亡くなってからはとくにそうだ。自分の家庭の事情を人が知ったときの、その人の動揺と哀れみを感じ取る瞬間が居たたまれないのだ。
 それでも諒太郎のことを好きな気持ちは本当だ。諒太郎のそばにいるとほっとする。
「恋愛って難しい……」
 ソファの背もたれに体重を預けながら、わたしは途方に暮れた。

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