【26話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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 てのひらに汗が滲む。翔は眉を寄せて頷いた。
「もしかしたら別の病気かもしれないって先生は言ってた。脳の血管や心臓は大丈夫だったみたいなんだけど、別の内臓系の病気かもしれないって」
 わたしは青ざめた。
「内臓って……。まさか、ガンじゃないよね?」
「僕も先生に聞いてみたんだけど、その可能性も含めて再検査するって」
 慎重な声で言いながら、翔はお母さんのほうを見た。
「入院中は僕が付き添うから、姉さんは先生に聞きたいことがあったら僕に教えて。紙にまとめておくから」
「うん……」
 わたしは茫然としながら頷いた。衝撃が大き過ぎて、頭が働かない。
 こんなことが起こるなんて。まさか、こんなバカなことが起こるなんて。小さいときにお父さんが病気で倒れて、亡くなって、それで今度はお母さんが──。
「姉さん、大丈夫?」
 翔の手が肩に置かれて、わたしは我に返った。
「大丈夫だよ。ごめん、ぼうっとしてた」
「仕事で疲れてるんだよ。夜ごはんはもう食べた? まだなら食べに行こうか。病院の近くに、姉さんの好きそうなパスタ屋さんがあるんだ」
 翔が気遣ってくれている。今日は一日お母さんに付き添っていて、さらにお医者さんとのやりとりを一人でこなして、翔のほうこそ疲れただろうに。
 衝撃を受けて固まっていたら駄目だ。わたしは姉なんだから、しっかりしないと!
「翔が先に食べてきていいよ。お母さんの目が覚めたときに一人だと心細くなっちゃうと思うし、わたしはコンビニで適当に食べれば充分だから」
「それもそうだね。じゃあ、病院内のコンビニで二人分のごはん買ってくるよ。この病室のとなりに飲食オーケーの休憩室があるから、そこで交代で食べよう」
「ありがと。翔、再検査も付き添うって言ってたけど、大学の授業は大丈夫なの? 必須科目の授業は出たほうがいいよ。わたしの会社は事情を話せば中抜けさせてもらえるから、次回はわたしが付き添うよ」
「学校のほうは大丈夫。姉さんには学費も出してもらってるし、これくらいは僕にやらせて」
 翔は立ち上がって自分のカバンから財布を取り出した。冗談めかして言う。
「こう見えて、前回の成績はA判定ばっかりだったんだよ。優秀でしょ? じゃあ買ってくるね。姉さんはいつものやつでいいよね。鮭のおにぎりと海藻サラダとから揚げだよね」
 A判定ばかりだなんて、この子はなんて優秀なの。翔の賢さと優しい気遣いに、わたしは感激した。
「うんそう、それ。ありがと翔」
「じゃあいってきます」
 翔の姿がカーテンの向こうに消えて、静かになる。わたしはお母さんに視線を移した。
 顔が土気色になり、目の下や頬が落ち窪んでいる。連絡はスマホで取っていたものの、実際に顔を合わせたのは二ヶ月以上前だ。
 こんなことになるなら、月に一回でもいいから様子を見に実家に帰るべきだった。わたしは重苦しい後悔でいっぱいになった。

 翔と交代でごはんを食べ終えたころ、お母さんは目を覚ました。「大げさなことになっちゃってごめんごめん」とカラカラ笑っていたけど、声は掠れていてハリがなかった。
 様子を見にきてくれた看護師さんにご挨拶をして、お母さんに「しっかり休んでよ」と声を掛けて、わたしと翔は病院を出た。
「お母さんの着替えは僕が今日用意しておいたから大丈夫。洗濯もやっておくよ。明日は土曜日だから、いろいろ持っていけるしね」
「翔に負担を掛けすぎてて、お姉さんつらいんだけど。明日は土曜だから、午前中に顔出すよ。必要なものがあったら買ってくるから連絡して」
「うん、わかった。でも姉さんだって、母さん以上に働きすぎってこと自覚してね。僕は奨学金を借りても大丈夫だから」
「はいはい。じゃあまた明日ね」
 翔はお母さんと団地に住んでいる。駅の前でわたしたちは別れた。
 来週の月曜から、仕事のあとに病院へすぐ行くようにしなくちゃ。少しでもいいからお母さんの様子が見たい。
 でも、夕食作りのバイトを長期で休むわけにはいかない。
(旭家に行くのをちょっとだけ遅らせてもらおう。早起きして夕食作ってタッパーに入れて、向こうで温め直せばすぐに出せるから大丈夫)
 地下鉄に乗って自宅のマンションに帰りついたら、体中からぐったりと力が抜けた。ソファに身を投げ出すようにして寝転んで、長く息を吐く。
「とりあえず……再検査待ちか……」
 呟けばさらに重苦しさが増した。心身ともに疲れてしまって力が出ないのに、お母さんのことが気掛かりで、頭が冴えてしまっている。もしかしたら今日は寝付けないかもしれない。

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