【20話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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「仕事の部下は勇ましいくらいがちょうどいいですよね。度胸がなければ営業はできないですし」
「恋人が見つからなくて困っているのなら、杉田くんではなくて俺のところに来ればいい。もっとも──」
 課長は、わたしに合わせた歩調でゆっくりと歩きながら、優しい声で告げた。
「きみの心が俺に向いてくれるなら、それに越したことはないけれど」
 わたしは言葉を失った。
 遅れて、鼓動が早鐘を打ち始める。
「え……、っと、あの。それって、どういう……」
「きみが好きだ」
 穏やかに告げる声に、わたしはこれ以上歩くことができなくなった。足を動かす余裕がなくなったのだ。
 課長は余分に一歩進んで足を止める。こちらを振り返って、それから困ったように笑った。
「顔が驚きっぱなしだし、耳まで真っ赤になってるぞ」
「だ、だ、だって、課長がいきなり」
「いきなりでもないと思うんだが。梨々子には一日で勘づかれたし、さっきの杉田くんにもなんとなく気づかれたような気もするぞ」
 どうしてここで孝ちゃんと梨々子ちゃんの名前が出てくるのだ。わたしは訳がわからなくなった。
「ま、待ってください課長。あの二人が、いったいどういう──」
「きみの友人は的確な言葉を使う。賢いけれど察しが悪い。ぴったりだな」
「だからそれ、わたしの悪口ですよね?」
 課長は笑った。なんだか挑発的な態度だ。
「悪口なものか。俺はきみが好きだと言っただろう?」
「じ、冗談ですよね? だって、神棚に飾って然るべき諒太郎サマがわたしのことをまさかそんな」
 すっかり混乱していると、課長が一歩近づいてきた。至近距離から端整な顔に見下ろされて、体が固まる。しかもわたしの言葉に気を悪くしたのか、彼は眉根を寄せていた。
(ど、どうしよう)
 動悸が速まりすぎて心臓が壊れてしまいそうだ。わたしはもともと色恋から遠い場所で生きていたのだ。社内でファンクラブまでできるようなエース社員から突然告白された場合の正しい行動なんて、わかるわけがない。
「冗談でこんなことは言えない。同じ課の部下に告白しているんだ。いろんなことを覚悟した上で想いを伝えたに決まっているだろう」
 わたしはハッとした。
 確かにそうだ。直属の部下に告白するなんて、その後のことを考えたら悪手に決まっている。いつも冷静で堅実な課長が打つ手だとはとても思えない。
 それなのに、好きだと告白してきたということは、つまり、それだけ本気だということで……。
「また赤くなった。どこまで赤くなるのか、このまま観察しても面白いかもしれないな」
「お、面白くありません! もう、なんでそんなに余裕なんですか」
「余裕があるわけじゃない。腹をくくっているだけだ」
 真剣な眼差しで見つめられて、わたしはまた言葉を見失ってしまう。
(告白されたんだから、答えないと)
 イエスか、ノーか。自分の気持ちを、伝えなければならない。
「わたしは」
 声が震える。頭の中が、動揺でグルグルだ。
 考えたって仕方ない。いま感じていることを、そのまま伝えるしかない。
 だって課長は、そうしてくれたんだから。
 わたしは課長と同じく腹をくくって、キッと彼を見返した。
「わたしも課長が好きです。たぶん」
「……。たぶん?」
 課長の眉がぴくりと動いた。
 わたしはたじろぎそうになる。でもこれが本心なんだからしょうがない。
「たぶんとはどういうことだ? 確実に好きではないということか?」
「その……よくわからないんです。そう意識し始めたのもごく最近だし、そもそも恋愛とはほど遠い社会人生活を送っていたので全然実感がないし……」
 しどろもどろに答えるわたしを、課長がじっと見つめている。ものすごく話しにくい。それとは別に、自分の回答が子どもっぽい言い訳に聞こえてきて、情けなくなる。
「第一、どうして旭課長みたいに出来る人がわたしに告白してくるのか、まったくわかりません。会社の規則を破ってコソコソ副業して、挙句の果てに課長の家でバイトをさせてもらって、迷惑を掛けまくっているのにどうしてなんですか」
「……そうやって、顔を真っ赤にしていろいろと考えているところとか」
 課長の声が熱を帯びた気がした。Tシャツの袖から伸びた、筋張った腕が伸ばされて、わたしの頬にてのひらでふれる。
 その肌の感触に、どきりとした。
「さっぱりとした性格をしているようでいて情に篤いところや、男に混じって営業職をするのは大変だろうに、愚痴ひとつ零さずにがんばっているところとか」
「いえ、あ、あの……、課長、わたしはそんなふうに出来た人間じゃ」
「あまり表情に出ないタイプだけど、仕事でミスして俺に叱られているときは、眉を寄せて悔しそうにしてる。負けず嫌いで、負けても言い訳せずに結果をまっすぐ取りに行こうとするところを尊敬している」

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